第30話 出発の時
魔女たちのための慰霊碑は、ハリスたち職人の協力によって、王都に呪いを受けてから一週間でついに完成を迎えた。
当初の予定では二カ月かかるところを、一カ月で仕上げることができたのは、腕のいい職人たちの協力あってこそだ。
これから、完成した慰霊碑を“呪われし森”へと運ぶ。
奇跡を起こせると信じているが、何が起こるか分からない。
アルフレッドは、シエラとともに運搬の準備を終えた職人たちの前に立った。
「皆のおかげで、予定よりも早く慰霊碑を完成させることができた。心から感謝している。本当にありがとう」
「わたしからも、お礼を言わせてください。呪われた王都での作業に不安もあったはずなのに、完成まで協力してくださり、本当にありがとうございました」
ベスキュレー夫妻揃って頭を下げれば、職人たちは皆笑顔を浮かべた。
そんな職人たちの中で、大柄なハリスが一歩前に出る。
「俺たちの方こそ、やりがいある仕事を任せてもらえたことに礼を言わせてください。それに、アルフ坊ちゃんの素晴らしい彫刻の技をこの目で見ることができた……本当に、センドリック様の神業を受け継いで、立派になって……うぅっ」
アルフレッドの成長ぶりを間近で見ることができたことに、ハリスは感極まって涙を流す。
そんなハリスにつられて、数人の職人たちも目頭を熱くしている。
「ありがとう。ハリスさん、私は少しでも父に近づけただろうか」
「そりゃぁ、もちろんですよ! センドリック様も、アイリーナ様も、きっと誇りに思うはずです!」
アルフレッドの言葉に、ハリスは勢いよく頷いた。
「ハリスさんにそう言ってもらえると心強いな」
先代の父とともに作業をしていた彼から、認められた。
それはアルフレッドにとって強い自信になる。
いつまでも追いかけていた父の背中にようやく追いつけた気がしたから。
「では、行ってくる」
アルフレッドとシエラは職人たち皆と握手や抱擁を交わす。
ここで皆とは一度お別れだ。
作業期間に呪いの状況に変化が見られなかったのは不幸中の幸いだった。
しかし、アルフレッドたちが“呪われし森”に足を踏み入れることで、魔女たちの魂を刺激することは間違いない。
だから、彼らには呪いが広がる前に王都から出てもらう。
そのため、今回ばかりは誰にも運搬を頼めない。
慰霊碑を引く馬の手綱はアルフレッドが握り、シエラはその隣に座って補助をする。
シエラには大変な思いをさせたくないと思っていたが、御者台に座る貴重な経験をアルフレッドとともにできて嬉しいと喜んでくれた。
その笑顔と優しさに、アルフレッドはまたしても救われたのだ。
「アルフレッド様、必ずまたみんなと笑顔で会いましょうね」
後ろを振り返り、シエラが笑顔で言った。
もしも、今回の計画が失敗したら、二度と会えないかもしれない。
奇跡が起きない限り、魔女の呪いを解くことはできないのだ。
(だが、シエラとなら――皆とならきっと、奇跡を起こせる)
愛するシエラがいて、敬愛するクリストフと誰よりも魔女を知るイザベラがいてくれる。
だからこそ、皆との再会は果たせるはずだ。
シエラの言葉にアルフレッドも笑って頷く。
「あぁ。次は、私たちの結婚式だな」
「はいっ!」
皆に見送られながら、二人は暗雲漂う“呪われし森”へと向かう。
クリストフとイザベラは、一足先に“呪われし森”の境界線で待っている。
ついに、王国の運命を決める作戦が始まるのだ。




