第27話 屋敷の見回り
お待たせいたしました。
久々の夫婦いちゃらぶ回?です。
よろしくお願いします!
ベスキュレー公爵家別邸に帰ると、いつもなら出迎えてくれるオリバーやジェシーの姿はなかった。
王都全体が呪われたのだから、当然だ。
「二人を探そう」
「はい!」
アルフレッドとシエラは、屋敷のどこかで眠りについている彼らを探す。
幸いにも二人はすぐに見つかった。
仕事中に呪いを受けたのだろう。
オリバーは書斎で、ジェシーはリネン室で。
「本当に眠っているだけのように見えますね」
「あぁ……だが、一刻も早く呪いを解かなければ」
倒れている姿を見た時は一瞬ひやりとしたが、ただ眠っているだけのように見える。
しかし、人間が水も食事もとらずにただ眠っていれば、いずれ死に至る。
今は気持ちよさそうに眠っているように見えても、彼らの命は呪いに蝕まれているのだ。
アルフレッドはそれぞれの私室へと運び入れ、ベッドに寝かせた。
(私たちの時とは、呪いの規模が違う……)
魔女の呪いは強力だ。
すでに呪いをかけた彼女たちは存在しないのに、その怨念が呪いとして残っている。
かつて、アルフレッドは自らの存在を消したいと願い、シエラは何も見えないことを望み、魔女の呪いをその身に引き寄せた。
負の感情が、魔女の怨念と共鳴したからだろう。
しかし、今回は王都の民を一方的に呪っている。
彼ら自身は当然、呪われることを望んでいなかっただろうし、当たり前のように明日がくると信じていた。
呪いが解けなければ、彼らの明日はない。
絶対に失敗はできない。
「シエラ、今日は疲れただろう。先に休んでいてくれ」
「いいえ。アルフレッド様は屋敷内を見回るおつもりでしょう? わたしもご一緒いたしますわ」
王都に到着してからずっと、シエラも気を張り詰めていた。
今も緊急事態であることに変わりはないが、シエラには少しでも休んでほしいと思っていた。
しかし、シエラにはアルフレッドの考えはお見通しだったらしい。
にっこりと笑って、シエラはアルフレッドの手を取った。
アルフレッドはこの笑顔に逆らえない。
観念して、シエラと手を繋いで屋敷内を見回る。
「こうして夜の屋敷を歩いていると、初めてお会いした日の夜を思い出しませんか?」
「そうだな」
あの時も、屋敷の見回りをしていた。
(あの夜の私たちは、まだ包帯公爵と盲目の花嫁だったな)
盲目のシエラが一人で屋敷内を歩いていたから驚いたものだ。
その上、不気味な噂ばかりだったアルフレッドを好きだなんて言うから、突き放すことに苦労した。
結果的に、シエラへの想いを抑えることはできなかったわけだが。
シエラという幸せを手にした今、あの頃の自分からは随分と変わったように思う。
「あ、アルフレッド様! 満月ですわ。あの夜の満月もこんな風に見えていたのかしら」
あの夜、その虹色に映ることのなかった満月。
窓の外に見える満月を見つめるその横顔があまりに美しくて、アルフレッドは見惚れていた。
「あなたの瞳に映る満月の方が美しい」
そう言うと、シエラは照れたように笑みをこぼす。
ほんのりと赤く染まった頬が可愛くて、アルフレッドは思わず繋いだ手を引いて、シエラを抱きしめていた。
「あの夜と違うのは、私はもうシエラを手放すことができないということだ」
「ふふ。わたしがアルフレッド様から離れることはあり得ませんわ。たとえ魔女の呪いであったとしても」
ぎゅっとシエラの細い腕が、背中に回される。
アルフレッドの腕の中に閉じ込めているのに、シエラの優しさと愛情に包まれているようだった。
いつでも、シエラの強く確かな愛情に救われる。
「シエラ、愛している。あなたが傍にいてくれるから、私は前を向ける」
「それはわたしの台詞ですわ。アルフレッド様がいなければ、今この瞬間、わたしは責任の重さに倒れてしまっていたかもしれません」
大切な人たちの未来は、自分たちの肩にかかっている。
明日を取り戻したいと願うなら、呪いに立ち向かうしかない。
「何があっても、二人で幸せな未来を生きよう」
「はい」
こくりと頷いたシエラに、アルフレッドは優しく口づける。
月光に照らされて、二人の影が深く重なっていく。




