第24話 招集の理由
大変お待たせいたしました!!
どうぞよろしくお願いいたします。
案内されたのは、国王ザイラックの執務室だった。
「アルフレッド、シエラ。よく来てくれた」
国王としての威厳ある声音で、ザイラックが出迎える。
その表情は硬く、いつもの豪快な笑みは鳴りを潜めていた。
「いえ。王都に異変があったとあれば、いつでも駆けつけます」
アルフレッドがベスキュレー公爵として生きていけるのは、ザイラックのおかげだ。
あの悲劇の日からずっと、ベスキュレー家はザイラックに守られていた。
だからこそ、呪われた透明人間であることを利用して密偵の仕事を任されようと、無理難題を押し付けられようと、反発心はありつつも、アルフレッドは王命に逆らうことはなかった。
ただし、今回の“呪われし森”の呪いを解くクリストフの計画については例外だ。
(陛下は、私が忠告を無視して殿下の計画に加担していることをご存知のはず。それを承知で緊急招集したのであれば、やはり計画を中止するために……?)
先日起きた地震は、魔女の呪いに関係しているだろう。
クリストフの計画が魔女の呪いを刺激した原因だと思われても仕方がない状況だ。
いくらアルフレッドの独断で慰霊碑制作を決行していると主張しても、通るかどうかは分からない。
シエラやクリストフ、作業に当たっている職人たちの立場は何とか守りたい。
「そう難しい顔をするな。お前たちを呼んだのは、助けが必要だからだ」
国王自らが助けを求めている。
アルフレッドは一瞬、耳を疑った。
しかし、それだけ深刻な状況であることは認めざるを得ない。
「王都に、一体何があったのですか……?」
アルフレッドが見たのは、人の気配が消えた空っぽの街。
いつも賑やかで人が溢れていた王都ではなくなっていた。
ザイラックは険しい顔で口を開く。
「王都は、呪われた」
ザイラックの言葉にシエラが息をのむ。
予想はしていたものの、実際に言葉で聞くとその衝撃は大きかった。
「“呪われし森”を封じていた女神の加護が緩み、黒い靄が王都を覆った。何が起きたのかすぐには理解できなかったが、黒い靄が消えた後、直系王族以外の者たちは皆、深い眠りについていた」
目覚めない呪い。
魔女たちがあの森に閉じ込められ、永遠の眠りについたように。
王都の人間たちを呪ったのか。
愛する人の血を引く、王族を除いて。
(魔女の呪いの中には、やはりグリエラの心も残っている……)
アルフレッドはそう確信した。
「呪いに備えて、王族は女神に捧げる刺繍をさすのが慣習だった。どれだけの効果があるか分からないが、今は守護の祈りを込めて、ソルティス、メルリアが刺繍をさしている」
王妃キャサリンも呪いで眠りについており、第二王子のソルティス、第一王女のメルリアが数日前から聖堂で刺繍を刺しているという。
ザイラックとクリストフは、王都の機能が停止してしまったことへの対応に追われている。
「王都が呪われているということですが、わたしたちは呪いを受けていませんね」
一度、呪われた身だから――というのは理由にはならないだろう。
アルフレッドは“呪われし森”に立ち入り、魔女の呪いをその身に受けている。
だからこそ、シエラは不思議に思っている。
王族でもない自分たちが何故、呪われた王都で無事なのか。
「呪いが浸食してきたのはあの一度きりだからだろう。だが、早いうちに手を打たなければ次は王都だけでは済まない」
だからこそ、女神の加護を持つ者たちに緊急招集をかけた。
しかし、そこでも問題が起きた。
「女神の加護を持つ者たちは、俺の計画のために皆、王都にいたんだ……」
クリストフが苦々しく口にする。
「しかし、計画への協力者はいなかったはずでは?」
「それは俺が悪い」
アルフレッドの問いに答えたのは、計画に反対していたザイラックだった。
「クリスの計画は危険だと判断したが、本気でこの国を呪いから救おうとしているのは知っていた。せっかくクリスが見つけた道を阻むなとキャシーに言われちまってな。俺も、守りに入るだけでは何も解決しないと分かってた。だから、もし協力してくれるなら戻ってくるようにと連絡していたんだ。まさか全員が王都に留まっていたとは思ってもみなかったがな……」
本来であれば喜ばしいことであるが、タイミングが悪かった。
動き出すには遅すぎたのか。
「ということは……」
「あぁ。今、魔女の呪いを鎮められる可能性があるのは、アルフレッドとシエラだけだ」
異常事態に陥った今、女神の加護を持つ者は自分たちだけ。
眠りにつく王都の民を救えるのか。
その責任はあまりに重く、息が詰まりそうだ。
「わたくしがいることも忘れないでくださいませ」
扉を開いて現れたのは、真っ赤なドレスを着たイザベラだった。




