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包帯公爵の結婚事情  作者: 奏 舞音
女神の加護編

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第24話 姉妹の密談(2)

「でも、自分の幸せを大切にするって、どういうことなの?」

「そうねぇ。わたくしにとって、フルートは生活になくてはならないものだし、とても大切なものよ。シエラも、同じでしょう?」

「えぇ。アルフレッド様も、それを理解してくださっているわ」

「それなら、もう分かっているのではなくて? 夫婦の片方だけが我慢していては、一緒に過ごす時間が長くなればなるほど、壊れていってしまうものよ。自分がどうしたいのか、相手のことを想うことももちろん大切だけれど、自分の気持ちを伝えなければいつか気持ちがすれ違ってしまうわ」


 姉の言葉で、シエラは記憶の中の母を思い出す。

 母は、音楽一筋の父をいつも支えていたし、応援していた。

 ベルリアとシエラが楽団で練習を始めた時も、「誇らしいわ」と笑顔を向けてくれた。

 だから、母がどんな気持ちで屋敷にいたのか、気づけなかった。

 父を、家族を愛していたからこそ何も言わなかったのだろう。

 そして父も、音楽でしか愛を伝えられない不器用な人だったから、いつしか二人の気持ちはすれ違ってしまった。


(もし、お母様がお父様に「寂しい」と伝えていたら、きっと何かが変わっていたのかもしれない……)


 今更ではあるが、どうしても考えてしまう。

 シエラはもう、何も分からなかった幼子ではない。

 恋を知り、愛を知った。

 愛する人の夢を邪魔するくらいなら、自分の幸せは二の次でもいい。

 その気持ちはよく分かる。

 しかし、きっと相手の幸せだけを願うだけでは駄目なのだ。

 そして、アルフレッドはシエラの気持ちをとても大切にしてくれる人だ。


 ――シエラの夢を教えてくれないか?


 クリストフの側近になることがかつての夢だったと教えてくれたあの時、アルフレッドはシエラの夢を聞いてくれた。

 それに今日だって、どうしてシエラが屋敷を飛び出したのか、きちんと話を聞いてくれた。

 シエラ自身が我慢しようとしても、アルフレッドに優しく尋ねられたら、簡単に心を開いてしまう。

 シエラにとって、アルフレッドの声は逆らうことのできない魔性の音なのだ。


「どうしよう、お姉さま。考えれば考えるほど、アルフレッド様はわたし以上にわたしのことを大切にしてくれているわ! ねぇ、どうすれば、わたしも同じくらいアルフレッド様を幸せにできるのかしら?」

「シエラと結婚できただけで、公爵様は幸せ者だと思うけれど……」

「それを言うならわたしの方なの! わたしが無理やり押しかけて行ったのに、アルフレッド様は追い返すこともせず、優しくしてくださって……それに、わたしと一緒に幸せになりたいって……!」


 きゃー! とシエラは顔を赤くして、アルフレッドとのあれこれを思い出して悶絶する。


「だったら、何の心配もないじゃないの」

「そんなことはないわ。心配だらけなのよ! お姉さまも今日会って分かったでしょうけれど、アルフレッド様は完璧で、本当にわたしにはもったいないくらい素敵な人なの!」

「……え、そ、そう?」

「えぇ! それでね、その……わたし、アルフレッド様がかっこよすぎて、いつもキスだけで照れてしまうの。だから、きっとそのうちアルフレッド様に呆れられてしまうんじゃないかって心配で……ねぇ、どうすればアルフレッド様に相応しい大人の女性になれると思う⁉」


 夫婦のあれこれを聞けるのは、姉しかいない。

 そう思い、シエラは恥を忍んで姉に悩みを打ち明けた。

 しかし何故か、姉は両手で顔を覆ってしまった。

 何かおかしなことを言ったのだろうか。


「えっ、何この子、本気で可愛すぎない⁉ ……というか、まだ公爵様は手を出していなかったのね。初心なシエラを気遣ってのことでしょうけれど、いつまで持つかしら……可愛いシエラが狼にがっつり食べられないように、予防線を張っておかないと……!」


「お姉さま? どうしたの?」


 ブツブツと姉が両手の内で呟いていたが、音がくぐもっていてよく聞き取れなかった。

 しかし、姉は気にしないでと笑顔を見せ、妻としての心得を教えてくれるという。


「シエラ、よくお聞きなさい」

「はい、お姉さま」


 そうして、シエラは目的とは少しズレた姉からのアドバイスをもらい、意気揚々とベスキュレー公爵家の王都別邸へと帰っていった。


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― 新着の感想 ―
[一言] これ以上惚気けたらお姉ちゃん壊れちゃう!(笑)
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