表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
包帯公爵の結婚事情  作者: 奏 舞音
女神の加護編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

118/205

第20話 結婚の挨拶

「それで? 結局、シエラはどうして一人でクルフェルト家へ帰って来たの?」


 アルフレッドがシエラと話している間、気が気でなかったのだろう。

 シエラの部屋から出ると、ベルリアが心配そうに尋ねてきた。


「えっと……わたしがアルフレッド様に甘えすぎていたから、少し頭を冷やそうと思ったの」


 “呪われし森”で歌うことを話す訳にもいかないし、夫婦の問題を一言で言うのは難しい。

 だからこその答えなのだろうが、アルフレッドは納得できなかった。

 シエラが甘えすぎていたのではない。

 アルフレッドがシエラの優しさに甘えすぎていたのだ。

 すべてを受け入れてくれるシエラの優しさは、彼女自身をも追い込むことになってしまうというのに。

 一番側にいたのに、彼女の迷いと不安に気づけなかった。


「いや、違うだろう? 私が不甲斐なかったせいだ」

「そんなことはありません! アルフレッド様は十分わたしのことを大切にしてくださっていますもの。まあ、その、過保護だなとは思いますけれど……」

「仕方ないだろう。シエラが可愛くて仕方ないんだ」


 アルフレッドとしては過保護だと思ったことはない。

 むしろ、まだ足りないくらいだと思っているが、それがまたシエラの負担になるのなら、自重しなければならない。


「アルフレッド様こそ、かっこよすぎます……っ」

「そんなことはないが。もし、かっこよく見えるのだとしたら、すべてはシエラのおかげだ」


 アルフレッドは目を細め、シエラの頭を撫でた。

 アルフレッドの声を聞く度に頬を染めて、大きな瞳に自分を映してくれる。

 その様が可愛くて、ベルリアの前だということも忘れていた。



「ねぇ、メリーナ。この二人っていつもこの調子なの?」

「はい。たとえ第三者がいてもお二人だけの世界に入ってしまうほど、仲睦まじいご夫婦です」

「つまり、バカップルなのね?」

「……微笑ましい限りです」

「ふふ、でも安心したわ。シエラのあんな笑顔久しぶりに見たもの」

「そうですね」

 

 いちゃつきはじめた二人を横目に、ベルリアとメリーナがこそこそと話をする。

 いつもなら耳ざといシエラが聞きつけるだろうが、アルフレッドの低音に集中しているからか、全く気付いていない。

 アルフレッドも、義理の姉から生暖かい目で見つめられていることにも気づかず、シエラの可愛さだけしか目に入っていなかった。


「ちょっと、そろそろわたくしの存在も思い出してくださる?」


 呆れながら口を開いたベルリアの言葉により、シエラとアルフレッドの互いを褒め合う舌戦は終わった。

 そして、クルフェルト家に当主レガートが帰ってきた。


 ***


 クルフェルト家の応接室。

 アルフレッドは、シエラの父――レガート・クルフェルトと二人向かい合っていた。

 シエラとベルリアは別室にいる。


「クルフェルト伯爵、突然の訪問にも関わらず、お時間をいただきありがとうございます」


 目の前のレガートは、眉間にしわを寄せて、口をへの字に曲げている。

 いくら演奏ツアーが終了しているとはいえ、前触れもなく訪問する形になり、印象は悪いだろう。

 だからせめて、丁寧な態度を心掛けていたのだが。


「……何故だ」

「……シエラとの結婚を認めていただきたく」


 何について問われているのか分からず、アルフレッドはとりあえず自分が何故ここにいるのかを説明しようとした。

 しかし、レガートの唇はぶすっと拗ねたように尖ってしまう。

 そして。


「何故、お義父様と呼んでくれないのだ!?」

「……はい?」


 今、レガートは何と言ったのか。

 アルフレッドの脳ではうまく処理ができなかった。


「だから、君とシエラの結婚はとっくに認めている! そうでなければ、私が作曲した楽譜を渡したりしないし、そもそもシエラが君がいいと言っているんだから、私にどうすることもできないだろう」

「……しかし、いや、本当に――【包帯公爵】と呼ばれる私との結婚を認めてくれていると?」

「あぁ、そう言っている。それとも、君はシエラを幸せにする自信がないのか?」


 ぎろり、とレガートが紫の双眸でアルフレッドを睨む。

 先ほどまでは遠慮がちであったが、その問いには全力で否定する。


「いいえ、私がシエラを幸せにしてみせます!」


 必ず。絶対に。世界一幸せにしてみせる。

 アルフレッドのすべてをかけて。

 シエラをこれまで育て、守り続けてくれたレガートに宣言する。


「……ありがとう」


 アルフレッドの言葉を聞いたレガートは、ほっと息を吐いて微笑んだ。


「私たちがどれだけシエラを守ろうとしたところで治せなかった目を、危険だと思っていた君が治してしまった訳だし……その」

「……?」

「君には感謝しているんだ。だから、もうとっくに君は私の息子も同然だ」



 その言葉に、アルフレッドの胸は熱くなる。

 絶対に認められるはずがないと思っていた。

 だから、シエラとの結婚を認めてもらうためには長い道のりになるだろうと覚悟していたのだ。

 しかし、レガートはアルフレッドを息子も同然だと言ってくれた。


(信じられない……だが)


 目の前にいる男性は間違いなく、シエラの父だ。

 【包帯公爵】であるアルフレッドを受け入れ、愛し、支えてくれる――世界一可愛い妻、シエラの。


「ありがとうございます……お義父様。シエラが何故、あんなにも心優しく、愛情深い女性なのかが、よく分かりました」


 あたたかくなる心に、自然と頬が緩む。

 アルフレッドの笑みにつられるように、レガートもにっこりと微笑んだ。

 その笑顔は、シエラの優しい笑みにとてもよく似ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「何故、お義父様と呼んでくれないのだ!?」 お父様可愛すぎます!(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ