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包帯公爵の結婚事情  作者: 奏 舞音
女神の加護編

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第10話 王子の計画


 つい先程までは晴れていたのに、馬車を揺らすほどの強い風が吹きはじめた。

 ガタガタと窓ガラスが音を立て、御者が「これ以上は危険です」と声をかけてきた。

 “呪われし森”から離れた空は雲一つない晴天だ。

 女神ミュゼリアの加護が弱まった影響がすでに出ているのかもしれない。

 ひとまず、クリストフは王城へ戻るよう指示を出す。


「俺が“呪われし森”に行った時はまだここまでの影響はなかったんだがな……」


 というクリストフの言葉に、驚いたのはアルフレッドの方だ。


「まさか殿下お一人で“呪われし森”に入ったのですか?」

「あぁ。アルを連れて行く前に俺が安全を確認するのは当然だろう」


 “呪われし森”が危険な場所だというのに安全確認とはおかしな話だが、もっとおかしいのは王太子となるクリストフが自ら危険に飛び込もうとしていることだ。

 アルフレッドは大きなため息を吐く。


「よくご無事でしたね」

「あぁ。王族である俺の血には、初代国王の力が少なからずあるんだろうな。特に何も起きなかったぞ」


 あっけらかんと言うクリストフには、危機感がまるでない。

 魔女の呪いは負の感情に強く影響する。

 もしかすると、クリストフにはそもそも、魔女の呪いを引き寄せる負の感情など存在しないのかもしれない。


「何もなかったからいいものの、ご自分が王太子という自覚を持ってください」

「俺が王太子だから、自分の目で確かめようと思ったんだ。“呪われし森”も、ヴァンゼール王国の一部だからな」


 にっと笑うクリストフに、ヴァンゼール王国を背負う国王の姿が見えた。

 やはり、クリストフに次期国王になって欲しい。

 アルフレッドの内に改めてその思いが強くなった。

 だからこそ、クリストフには危険な目に遭って欲しくない。


「殿下、やはり“呪われし森”の呪いを解くなど無謀です。個人に降りかかった呪いを解くことと、森全体の呪いを解くのでは規模があまりに違いすぎます」


 協力したい気持ちは大いにあるが、呪いには関わらない方がいい。

 クリストフならば、呪いを解かずともいくらでも実績を作れるはずなのだ。


(もし殿下が呪われでもしたら、それこそ王太子どころではなくなってしまう)


 グリエラは、長すぎる時をかけても“呪われし森”の呪いを解くことができなかった。

 呪いをかけた魔女ですら解けなかった呪いなのだ。

 ミュゼリアの加護を得て、森の周囲の守備を固める方が現実的ではないか。


「あぁ。だからこそ、アルの力が必要なんだ」

「私の力、ですか?」

「これは、ベスキュレー公爵にしか頼めないことだ」


 真剣な眼差しで、クリストフはアルフレッドを見据えた。

 どくん、と緊張で心臓がはねる。

 友人としてではなく、ベスキュレー公爵としての力を求められている。


「アルの腕ならば、女神ミュゼリアの加護を得られる聖堂を建てられるだろう?」


 ベスキュレー公爵への絶大な信頼が向けられた。

 その問いに、すぐに頷けたらどれだけよかっただろう。


「……それは、難しいと思います」


 アルフレッドの心の内には、いまだ昇華しきれていない複雑な思いがあった。

 クリストフからの期待に応えたい。信頼に報いたい。

 本気でそう思っているのに、今まで忘れたふりをしていた感情は否応なしにアルフレッドの中で騒いでいる。


「分かった。だが、聖堂の建設はアルに任せたい。そして、シエラにはその聖堂で魔女たちへ送る鎮魂歌を歌って欲しい。他にも、女神の加護を受けた芸術家たちを招集する予定だ」


 どうやらクリストフは、“呪われし森”に聖堂を建て、女神ミュゼリアの加護を集めようとしているらしい。

 一人では弱い力も、複数人集まれば奇跡を起こすだけの力になる。

 その奇跡の瞬間をシエラとともに体験したアルフレッドは、それ以上クリストフの作戦を無謀だからと止める気にはなれなかった。


「シエラ。危険はあるが、やってくれるか?」

「はい。アルフレッド様が側にいてくださるだけで、わたしは何でもできる気がしますわ」


 眉間にしわを寄せ、黙り込んだアルフレッドを心配しながらも、シエラは頷いた。

 アルフレッドが側にいてこそ歌うことができるのだと自信を持って微笑む。

 シエラは、女神に愛された歌姫だ。

 二人の呪いが解けた時も、ロナティア王国で事件に巻き込まれた時も、シエラの心を込めた美しい歌に救われた。

 そして今も、アルフレッドはシエラに救われている。

 危険な場所でも、愛する人がいれば怖くない。

 まっすぐに伝わってくる思いに、アルフレッドの胸は熱くなる。

 妻にここまで言わせておいて、自信がないなんて夫として情けない。

 アルフレッドは過去の思考に沈みそうだった己を叱咤する。


「クリストフ殿下、私は必ずや女神の加護を得てみせます」


 強い決意を持ってアルフレッドははっきりと言葉にした。

 自らの退路を断つつもりで。


(こんな形で女神を求めることになるとはな……)


 今までアルフレッドが求めなかった理由、女神の加護が与えられなかった理由は分かっている。

 だからこそ、そう簡単に女神が微笑んでくれるとは思えない。

 それでも、これ以上クリストフやシエラを失望させたくなかった。

 大切な人たちのために、自分にできることがあるならば、無茶だと分かっていてもやるしかない。


「あぁ。楽しみにしている」


 こうして、“呪われし森”の呪いを解くという無謀ともいえる計画が始まった。

お読みいただきありがとうございます!


今回の結婚式編のテーマは、呪われし森の呪いを解くことができるのか?! 結婚式は無事に挙げられるのか?!といったところです。

ようやくここまでで方向性が見えてきたかなと思います。


11月からは日曜20時の週一更新となりますが、これからもお付き合いいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 呪われし森にアルが作った聖堂でシエラが歌を捧げて… 最高の結婚式じゃないですか!wktkですね!
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