第6話 王城での出迎え
「二人とも、よく来てくれたな!」
予定通り王城に着いたアルフレッドたちを出迎えたのは、またしてもクリストフだった。
この王子は暇なのだろうか。
不敬ではあるが、そう思っても仕方がない。
クリストフが出迎えたのは、馬車を降りたばかりの王城の玄関前である。
「殿下自らわざわざお出迎えいただき、感謝いたします」
「ふっ、包帯で隠しているからといって、アルが嫌そうな顔をしているのは分かるぞ?」
久しぶりの登城ということもあり、アルフレッドは自分の中では正装として染み付いている包帯姿だった。
だから、少しばかり不敬な感情が表に出ていたとしてもバレないだろうと思っていたのだが、意外とクリストフは鋭い。
それならば、とアルフレッドは開き直ることにした。
「……では僭越ながら申し上げますが、殿下は一体いつから私たちの到着を待っていたのでしょうか? 第一王子ともあろう方が、まさかずっと待っていた訳ではありませんよね?」
「……はっ、まさか。そんなはずないだろ」
「目が完全に泳いでいますよ」
アルフレッドの指摘に、クリストフはぎくりと体を震わせた。
王子である彼がこんなにも分かりやすくて大丈夫だろうか。
腹黒い貴族たちに利用されたり、騙されたりしないだろうか。
(あぁ、そうか……殿下がこんなだから私が側近に選ばれたのか?)
アルフレッドは、ザイラックの下で貴族社会の裏を見てきたから。
それをクリストフに教えるために。
ヴァンゼール王国には第一王子クリストフと第二王子ウィスハイトがいるが、王太子に選ばれるのはおそらくクリストフだろう。
十九歳のウィスハイトは人見知り気味で、現在は王立学院大学で勉学と研究に夢中になっていると聞く。
彼が王位に興味がないことは、社交界でも有名だ。
だから、まだ王太子に任命されていないクリストフのことを皆が王太子と認識して接している。
しかし、クリストフのことを影で「お気楽王子」だと呼んでいた貴族がいたような……。
アルフレッドの知るクリストフと「お気楽王子」という単語が結びつかなかったため、どうでもいい噂だと判断していたが、もしかすると本当なのだろうか。
「おい、今ものすごく失礼なことを考えているだろう?」
「さすが殿下、鋭いですね」
「お前なぁ! 何考えてたのか言ってみろ!」
「ふふふ、お二人は本当に仲が良いのですね」
クリストフとの会話を聞いて、シエラが笑いだした。
その言葉を聞いて、アルフレッドも昔のようにクリストフと話していたことに気づく。
気を張っているのもおかしくなって、アルフレッドも頬を緩めた。
「それで、本当に殿下はお暇なのですか?」
「暇なはずないだろう? だが、俺には優秀な側近がつく予定だから、問題ない」
悪びれもせず、アルフレッドに仕事を押し付ける気だとクリストフは暗に示す。
早速ため息を吐きたくなったが、シエラの手前我慢する。
しかし、シエラがクリストフに進言した。
「クリストフ殿下、アルフレッド様は真面目なので無理をしがちです。どうか、あまり無理はさせないでくださいね」
シエラのお願いが可愛くて、仕事などせずにシエラとずっと一緒に過ごそうかと本気で考えてしまう。
(いや、駄目だ……シエラに真面目だと思われているのに、仕事をさぼるなどできない)
情けないところばかりをシエラに見せてきた自負があるアルフレッドとしては、カッコいいところをシエラに見せたい。
そのためには、与えられた仕事をしっかりこなせるデキる男にならなくては。
自身の発言によって、より一層仕事への熱意が高まったことには気づかずに、シエラは心配そうにクリストフの返事を待っていた。
「あぁ、そうだね。可愛い奥さんに心配をかけないように、気を付けてみておくよ。それじゃあ、俺がアルに虐められた時は、シエラの歌で慰めてくれるかい?」
「クリストフ殿下?」
――私の可愛い妻に何を馬鹿なことを言っている?
言外に怒りをにじませて、アルフレッドは絶対零度の冷ややかな視線を仕えるべき王子に向けた。
警戒心むき出しのアルフレッドに、クリストフも慌てて弁解を始める。
「冗談だよ、冗談。本当に、アルはシエラのことになると人が変わるな」
「シエラに関することで私に冗談は通じませんよ」
「は、はは……今後気を付けることにする」
乾いた笑みをこぼして、クリストフが言った。
そして、気を取り直すようにわざとらしく咳払いをした後、王子然とした表情に戻る。
「二人を待っていたのには訳がある。大事な話があるから、俺についてきてくれ」
先ほどまでの緩んだ空気を一瞬で引き締めるほどに、クリストフの表情や声は真剣だった。
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