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異世界ゲームクリエイター  作者: 佐藤謙羊
ブリーズボード編
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09 ババア騎士ビリジアン

 ブリーズボードのコートじゅうに、怒声を響き渡らせたのは……いかにもな女騎士だった。


 いかにも、ってのはしょっちゅうオークとかに捕まってそうな、典型的な女騎士という意味だ。


 ライトブロンドの髪をリボンで結いあげ、藻みたいな色のドレスの上から、シルバーの鎧をまとっている。

 身長よりも長い、物干し竿みたいな刀を背負う、コスプレみたいな格好。


 それなのに本人はいたって真面目で、美少女剣士を思わせる凛とした表情。

 でも、それなりに歳を重ねているせいで、扱いの難しそうな印象になっちまってるババア騎士……いやいやお姉さん騎士だ。


「……誰だ、アイツ?」


 隣にいるコリンに尋ねると、「御親(ごしん)騎士のビリジアン様です」と小声で教えてくれた。


 ビリジアンとかいうババア騎士は、プレイを中断させたコートにズカズカと踏み込んでいくと、


「この城では、『ブリーズボード』は一切禁止にすると言ったでしょう!? さっさと解散なさいっ!!」


 と野良犬のように貴族たちを追い払っていた。

 この一方的な態度……いかにも軍人らしい。


 フンッ、と鼻息を荒くする女軍人に、俺は話しかける。


「……なあ、なんで『ブリーズボード』は禁止なんだ?」


 すると、キッと鋭い眼光を向けられた。

 俺の頭のてっぺんから、靴のつま先までジロジロと睨めつけるビリジアン。


 不審者扱いされてるみたいで嫌だったが、それよりも何でコイツはここまで威圧的に振る舞ってるんだろう。

 コリンたちはもうすっかりビビっちまって、俺の背後に隠れだす始末だ。


「あなた、見ぬ顔ね。もしや、越してきたばかりのネステルセル家の人間?」


 口調もムカつくほどに挑戦的。でも俺は大人になって対応する。


「……ああ、そうだ。ここに来たばかりなもんで、勝手がわからねぇんだ。よかった教えてくれないか?」


「フン、なら知らないのも無理はないわね……昨年、センティラス様はおみ足を悪くされて、大好きだった『ブリーズボード』ができなくなってしまったのよ……! 悲しみにくれるあまり、リハビリにも身が入らず、ベランダからこのコートを見下ろしては、溜息をつかれるばかり……! おおっ……なんとおいたわしいんでしょう……!!」


 宝塚みたいな大げさな芝居で、王城に向かってヨヨヨと手をかざすビリジアン。


 俺は、センティラス様って誰だ? と疑問を抱いていたんだが、すかさず背後から「センティラス様とは女王様のことです」とコリンのささやきが聞こえた。


 女王様と聞いて、俺は品評会での姿を思い出す。

 たしかに、どこか元気がなかったように思える。


 コリンのゴブリンストーンに、王様とお姫様は釘付けだったが……女王だけはひとり冷めた様子だったんだよな。

 もしかしたらゲームよりも、外で身体を動かすのが好きなタイプなのかもしれない。


 まぁ、なんにしても……このババア騎士の、理不尽な行動の意味がわかった気がする。


「なるほど、お前の大好きな女王サマが、ブリーズボードができない身体になっちまったから……他のヤツらにもやらせまいと、嫌がらせして回ってんのか」


 俺の言葉に、ビリジアンの顔が瞬間湯沸かし器のようにカッと赤熱した。


「あなたっ!! 言葉を慎みなさいっ!! この美しき庭園を、あなたの血で染めたくなければ……!!」


 言うが早いが、背中から剣を抜刀しようとするビリジアン。

 たったこれだけで切り捨て御免とは……やたらと長い剣を持ってるわりには、気は短ぇんだな。


 しかし長すぎる剣のあまり途中までしか抜けず、引っかかってウンウン唸っていた。


 中途半端に抜かれた剣が、むなしく陽光を反射している。

 それはカカシみたいに間抜けな姿だったが、コリンたちには効果てきめんだったようで……子雀のように「きゃあっ!?」と身を寄せ合い、縮こまっていた。


 俺は、臆することなく言い返す。


「しかし……他のヤツらのブリーズボードを妨害しても、何の解決にもならねぇじゃねぇか。それで女王サマの心の傷は癒えるのか? だとしたら、お安いことだな」


 ……キンッ!


 引っかかっていた剣が、何かの拍子で涼しげな音とともに抜刀され、長い剣先が俺に突きつけられた。


「あなたなんかに、わかってたまるもんですか! センティラス様の深い深い悲しみが……! さぁ、今すぐに城に向かって土下座し、非礼を詫びなさい……! でなければこの場で、刃による粛清を行いますっ……!」


 抜き身の刃のような気迫が迫ってくる。

 もうすでにリアル抜き身を向けられてるのに……まったく、コイツは声のデカさといい、態度といい……いちいち過剰なヤツだ。


 ふと、俺の横から三つの顔がひょこっと出てきた。


「あ、あの……ビリジアン様、レイジさんに変わってわたしがお詫びいたします! 土下座でもなんでもいたしますから、どうか剣をお納めになってください……!」


 今にも泣きそうな顔で、必死に訴えるコリン。


「そうそう、コイツは頭のネジがブッ飛んでるんだよ。ゴブリンストーンはゲームじゃないとか言い出したりして、ちょっとアレな所があってさ……だから許してやっておくれよ」


 こめかみのところで指をクルクル回しているグラン。

 ゴブリンストーンがゲームじゃないなんて、ひとことも言った覚えがないんだが……。


「この人、斬っても死なない。首を切り落とさないとダメ」


 立てた親指を、首の前で左右に動かしているイーナス。

 俺はゾンビか何かか。それにコイツだけは、止めずにけしかけてねぇか?


 俺は三人娘の頭をポンポン叩きながら、一歩前に出た。

 突きつけられた剣先が、鼻先に付くくらいに近くなる。


「俺が、女王さんの悲しみを忘れさせてやるよ。お前がしてるより、ずっといい方法でな」


「なんですってぇ……!?」


 握る剣に、さらに力を込めるビリジアン。

 剣先が震え、はずみで突かれちまうんじゃないかとヒヤッとしちまった。


 でも俺は、そんなことはおくびにも出さずに続ける。


「だから、土下座させるのも斬るのも、それを見てからでも遅くはねぇだろ……もし、俺のやり方がダメだったら、土下座したところをギロチンみたいに斬首するがいいさ」


「フン、臆したわね……! 粛清から逃れたいがために、口からでまかせを……!」


「いや、逃げるのを心配するのは、俺だけじゃねぇ……お前もだ。俺のやり方でうまくいったら、逆にお前が土下座して切腹するんだからな」


「いっ、言わせておけば……! ですが、いいでしょう……! この勝負、受けて立ちます! 騎士の名にかけてっ……!!」


 ヒュンッ!


 俺の目の前に、ヒラヒラと漂っていた花びら。

 それを真っ二つにしながら、剣を引っこめるビリジアン。


 何度やっても背中の鞘におさめられなかったので、とうとう抜き身のまま俺に背を向けた。


「ネステルセル家の、レイジ……! その名、しかと覚えましたよ……!」


 そのままノシノシと、肩で風を切るようにして去っていく。


 俺の背後にいた三人娘が、ドミノのようにバタバタと倒れてへたり込んだ。


「お、おい、レイジ、なんて約束してんだよ……!? せっかくアタイたちがかばってやったのに……!」


 命からがらといった様子のグラン。


「あの女騎士が気に入らなかったんだよ。ブリーズボードができなくなったからって、他のヤツらにも強いる、あのやり方が……おかしいとは思わねぇか?」


「お家おとりつぶし。レイジとともに一家惨殺。ひゅーどろどろ……」


 両手をだらんと垂らし、オバケの真似をするイーナス。


「縁起でもないこと言うなよ……大丈夫だって」


 俺の言葉は、途中で体当たりしてきたコリンによって遮られた。


「……どうして……どうしてっ!? どうしてそんなに無茶をするんですかっ……!」


 俺の胸に顔を埋めながら、涙声ですがってくるコリン。


「お……おいおい、なにも泣くことないだろ……大丈夫だって、ネステルセル家には迷惑はかけねぇよ。俺が首チョンパになればいいだけにするから」


「それが一番嫌なんですっ!! ……うっ……ううっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~んっ!!」


 てっきりコリンはお家おとりつぶしを心配して、俺の軽はずみな行動を責めてるんだと思った。

 でも、俺が首チョンパになるのが一番嫌だと、子供みたいにわんわん泣きはじめる。


 いつも慎ましやかなお嬢様にしては珍しく、人目もはばからず感情をむき出しにしていた。


「泣ーかせた、泣ーかせた! レイジがコリンを泣ーかせたぁ!」


 はやしたてるグランとイーナスも加わって、さらにカオスは加速する。


 俺はどうしていいかわからず、いつまでも犬のおまわりさんみたいにオロオロとするばかりだった。

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