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異世界ゲームクリエイター  作者: 佐藤謙羊
ゴブリンストーン編
6/47

06 これがゴブリンストーン

『それでは、次のゲームへとまいりましょう! 次はネステルセル家です! プレゼンターはステージにおあがりください!』


 司会進行の呼び出しを受け、俺とコリンは観客席から立ち上がった。

 まばらな拍手を受け、レッドカーペットの敷かれた階段をあがる。


 子ガモのように俺の後をついてくるコリンは、ロボットのようにギクシャクとした動き。

 同じほうの手と足を同時に出すという、ベタなあがりっぷりを見せていた。


 ステージの上にはプレゼンター用のマイクスタンドがあって、すでにコリンの高さに調整されている。

 品評会のプレゼンは、基本的にはその家の当主がやることになっているので、担当はコリンだ。


 俺は隣で立っているだけでいいのだが、なにかあったらコリンを助けるつもりでいた。


 しかし……コリンは冬山にひとり放り出されたみたいに、カタカタと震えるばかりだ。


「……おい、コリン!」


 俺は凍りついているお嬢様を、ヒジで突く。

 するとバネ仕掛けのオモチャみたいにビヨンと飛び上がって、


『はっ……はひいぃぃぃぃっ!』


 と裏返った悲鳴を会場じゅうに響き渡らせていた。


 どっ、と笑い声が観客席を包む。


『はわわわわわわわっ……わわわわ、わたしは、コリン家の……い、いいえっ! こちらは、レイジさんで……い、いいえっ!? あっ、あのあのあのあのっ……!!』


 しどろもどろのコリン。

 考えていたセリフがぜんぶ飛んじまったらしい。この世の終わりみたいな顔で俺に助けを求めている。


 俺はやれやれ……と思いつつ、マイクスタンドからマイクを外した。


『……ここにいるのはネステルセル家の新当主、コリン! 亡き前当主の後を継ぎ、今回発表するゴブリンストーンを完成させた人だ! 今回のネステルセル家の発表は、いつもとひと味もふた味も違うぞ! これは、歴史に残る発表になる……! だから、どいつも目ぇひん剥いて、しっかり見てろよ!』


 俺は観客席を見回しながら、ビッ! と指さす。


『おっ、丸焼きクンもちゃあんと見に来てるな! 驚きすぎてブヒーブヒー言うなよ、まわりに迷惑だからな! ……あっ! おい! そこのオッサン! 寝てんじゃねぇよ、起きろ! 終わったあと後悔しても知らねぇぞ!』


 貴族らしからぬ俺のプレゼンに、観客席はどよめきに支配されていた。


「れっ……レイジさん、やりすぎですっ! もう少し、上品に……!」


 俺の腕にすがりついてくるコリン。

 もうだいぶ緊張はほぐれているようだ。


「まぁまぁ、俺に任せとけって!」


 そう言って押しとどめ、観客の反応を見る。

 客イジリまでしたのに、誰も笑ってねぇな……と思ってたんだが、意外な人物が顔をほころばせていた。


 観客席とは反対側……王様たちが座っている玉座。

 その端っこにいるお姫様が、くすくすと肩を震わせていたんだ。


 俺はその姫様をビッ! と指さす。


『おい、そこの! いままでにない驚きを、いちばんいい席で感じたくはないか!? そこもたしかに悪くねぇ席だが……もっといい特等席があるぜ!』


 指名されたお姫様は、「あたし?」といった感じでキョトンとしている。


 あのお姫様は、たぶんコリンと同い年くらいだろう。


 金髪ロングヘアにティアラを乗せ、猫の目みたいにクリクリした青い瞳。

 豪華さよりも、動きやすさを重視したようなドレス。


 コリンは見るからに大人しそうなんだが、それとは真逆の活発そうな女の子……いわゆる『おてんば姫』ってやつかもしれない。


 これは、利用しない手はねぇ……!

 俺はお姫様を見据えつつ、ステージ上のゴブリンストーンを示した。


『ネステルセル家のゴブリンストーンは、扉を開けたとこからもうサイコーに楽しいんだ! あそこに座ってるムッスリしたヤツらも、椅子から転げ落ちちまうほどだ! さぁっ、あの扉を開けてみてくれよ!』


 すると、ステージの隅に並んで座っていた、審査員っぽいヤツらが一斉に立ち上がった。

 俺が、『ムッスリとしたヤツら』として揶揄したオヤジどもだ。


「ぶっ……無礼者っ! 品評会のゲームプレイはプレゼンターがやる決まりになっておる! それを、フランシャリル様にさせるなどとは……! 不届きにもほどがあるっ!!」


「あわわわわ……! ひょ、評議会の方たちを、怒らせては……!」


 真っ青になっているコリン。

 しかし、お姫様のほうは俺の期待に応えてくれた。


『静まりなさいっ! ……あたしは別にかまわない、プレイしてもいいよっ! でも……もしサイコーに楽しくなかったら、その時の覚悟はできてるんでしょうね!?』


 挑戦的に、玉座から立ち上がるお姫様。

 心配する両親をなだめつつ、ゴブリンストーンの鏡台に向かって歩いている。


『もちろんだ……! もしサイコーに楽しくなかったら、俺に侮辱罪でも詐欺罪でもなんでも言い渡すがいいさ!』


『ふぅん、たいした自信ね! 楽しみだわ……!』


 鏡台の前にある椅子に腰かけ、鏡面扉の取っ手を指でつまむお姫様。

 その様子を、コリンは口から飛び出そうとする心臓を押さえるかのように、両手で口を覆ってハラハラと見守っている。


 そして……扉はついに、開かれる……!


 ……パカンッ……!


 宝石箱を開けたような、七色の光がこぼれる。


 ……ガシャンッ!


 おどろおどろしい文字で、『GOBLIN STONE』と書かれたタイトルボード。

 それが仕掛け絵本のように、鏡面の上側に飛び出す。


 そして鏡面の扉の背面には、憎たらしい表情のゴブリンたちが描かれていた。


「わあ……!! フタの裏に、ゴブリンの絵が描かれてるんだ……!!」


 夜中の猫みたいに、瞳をまんまるにするお姫様。

 感嘆の溜息を漏らしている。


 ……俺は、コリンにゴブリンのアニメパターンだけでなく、ゴブリンストーンのプロダクトデザインもさせていたんだ。


 まず、タイトルロゴの作成。

 ゲームのタイトル画面に出ている簡素なやつとは別に、パッケージとかにも使えるロゴを作らせたんだ。


 そして、メインビジュアルの作成。

 鏡台のフタの裏に、ゲームに出てくるゴブリンをイメージした、イラストを描かせたんだ。


 目指したのは、アーケードゲーム筐体。

 ゲームセンターにある専用筐体は、上のほうにタイトルパネルがあって、側面にゲームの内容をイメージしたイラストが描かれている。


 それをイメージしたんだ。

 でも、最初から筐体の外側に絵が描かれていると、インパクトが薄れると思ったので、鏡台のフタの裏に描かせたんだ。


 こうすることにより、開けたときのインパクトは絶大……!


 しかも……それだけじゃねぇ……!

 扉を開けたときの、七色の光の正体……!


「……うわあああああーーーーーーーーーっ!?!? 色が……!? 画面のゴブリンに、色がついてるっ……!?!?」


 ゲームをプレイしたお姫様は、まさに椅子から転げ落ちんばかりに驚いていた。


 これには後ろで見ていた審査員どころか、観客席も立ち上がって仰天する。


「なっ……なにいいいいいいいいいいっ!?!?!?」


 荒れる海のように騒ぎ出す観客たち。


「ば……バカなっ!? 画面上のゴブリンに色がついてるだなんて……!?」


「しかも、上にいるゴブリンは緑、真ん中にいるゴブリンは黄色、下にいるゴブリンは赤……!!」


「い……色が変わってるなんて……!?」


「ありえない……!? ありえないぞっ!? いまのゴブリンストーンは、白と黒しかないはずなのに……!? いったい、どうやったんだ……!?」


 お姫様は両脚をバタバタさせて大興奮。まるで取り憑かれたようにプレイしている。


「す……すっごぉぉぉぉぉーーーいっ! こんなにドキドキするゴブリンストーン、はじめてぇぇぇぇぇっ!!」


 それで審査員たちも狙いに気づいたようだ。


「そ……そうか! わかったぞ! この胸の高鳴りの正体が……! 下にいくほどゴブリンが危険色になって、焦りを感じているからなんだ……!」


「な……なるほど! たしかに緑から黄色、黄色からに赤に変わったとき、いてもたってもいられない気持ちになる……!」


「すごい……! 色をつけるだけじゃなく、色を利用して、ゴブリンたちが迫ってくる恐怖感を表現するだなんて……!」


 見ていた王様も、ついに我慢できなくなったのか、娘の元に向かう。

 女王はあまり興味がないようだった。


「お、おい……! フランシャリルや! わたしにもプレイさせてくれないか……!」


「だめーっ! お父様! こんなに面白いゴブリンストーン、初めてなんだから! こんなに憎たらしいゴブリン、放っておけない! ずーっとわたしがプレイするのっ!」


 審査員たちも立ち上がり、ゴブリンストーンのまわりに詰めかける。

 とうとう観客たちも席を飛び出し、ステージ際まで殺到した。


「お……おいっ! どうやった……どうやったんだっ!? ゴブリンに色をつけるだなんて……いったいどんな魔法を使ったんだっ!?」


 そのうちの一人が、問いかけてくる。よく見ると丸焼きクンだった。

 俺は、マイクごしに答える。


『ゴブリンに色をつけるのは、難しいことじゃねぇよ……画面にカラーセロハンを貼っただけだ』


「かっ……カラーセロハンッ!?!?!?」


 揃ってオウム返しする観客たち。


 カラーセロハン。色のついたセロハンだ。

 画面を三等分して、上から緑のセロハン、黄色のセロハン、赤いセロハンを貼る……それだけで、画面に色がついたように見えるんだ。


 ゲームに色がつけられなけりゃ、画面のほうに色をつける……。

 これは、かつて俺がいた世界でも、一時期行われていた手法だ。


 俺はそれを、この世界に持ち込んだだけ……!


「そっ……そんな! セロハンを貼っただけなんて、そんなのズルいぞっ!」


「そ……そうだそうだ! あの恐怖心を煽るイラストといい……悪趣味だっ!」


「これは……ゴブリンストーンを軽んじ、ゲームという芸術に対する侮辱だっ!」


 拳をふりかざして、抗議してくる貴族ども。

 俺はありったけの声を振り絞って怒鳴り返す。


『……うるせえっ!! お前ら、なにか勘違いしてんじゃねぇか……!? ゲームを高尚な芸術品みたいにして、ありがたがるのも結構なことだが……ゲームはああやって楽しむもんじゃねぇのかよっ!!』


 コリンが作ったゴブリンストーンのまわりには、一喜一憂する顔が並んでいた。


 お姫様をのぞいて、どれもいい歳したオッサンだ。

 だがどいつもこいつも、子供みたいに目を輝かせている。


 あれが、あれこそが……ゲームの持つ、本当の力なんだ……!


『あっ、あの~、皆様、もうネステルセル家のプレゼン時間はとっくに終わっています。次のゴブリンストーンを紹介したいのですが……』


 司会進行役が、おそるおそる声をかけてきた。

 しかし誰も、コリンが作ったゴブリンストーンから離れようとしない。


 何度も声をかけられて、さも面倒くさそうに王様が声をあげた。


『ええいっ! 品評会はこれにて終了っ! ネステルセル家に白金褒章を与える! 他は……ええっと、もうどうでもいいっ!』


 そして、俺とコリンのほうを見る。


『そして、ネステルセル家よ! 大至急このゴブリンストーンと同じものを献上せよ! 10台……いや、50台だっ!』


 画面から目を離さず、姫様が口を挟んでくる。


『いいえお父様、100台よっ! 城じゅうのゴブリンストーンを、ぜんぶこれに変えましょう!』


『う……うむっ! よし、100台だっ! ……な……なあ、フランシャリルよ、すぐに城じゅうで遊べるようになるから、そろそろ私と、代わってはくれまいか……!?』


『いーやっ! あたし、今日このゴブリンストーンをお部屋に持って帰るわ! そして寝ずにプレイするの!』


 押し問答する王様と姫様。熱狂する審査員たち。

 「他のはどうでもいいって、そんな……」と呆然と立ち尽くす、参加者の貴族ども。


 そして、立役者のコリンはというと……まるで夢の中にいるように、ポーッとしている。


「ま……まさか……白金褒章だなんて……」


 それだけをひたすら、うわごとのように繰り返していた。

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