46 ついにお披露目
それから数ヶ月の開発期間を経て、『新生ゴブリンストーン』と『新生ブリーズボード』はついにマスターアップ。
それぞれ20台ずつ量産して、お披露目をすることとなった。
俺はここでようやく、プロデューサーらしいことをする。
まずはこの国、パンダンティフ王国の国王と王妃とお姫様に、招待状を送った。
ただの貴族が王様を呼びつけるなど、この世界では絶対にありえないことらしい。
普通に手紙を送ったら大臣のところでハネられるらしいから、俺はフランシャリルに招待状を直接手渡しした。
それだけではない。
各地にいるブリーズボードのトッププレイヤーと、ある条件を満たす村長、そして新聞社のヤツらを、交通費滞在費ぜんぶこちらもちで招待した。
ちなみに貴族どもは一切招待しなかった。
来ることは自体は拒まなかったが、一般客と同じように扱うことにしたんだ。
当日は民族大移動のように大勢の客が訪れ、ちょっとしたパニックになった。
なにせ一国の王様が移動するのである。その取り巻きの数もかなりのものだった。
駅から村までには長い行列ができ、輿に乗った王族一家がゆっくりとやって来た。
村のヤツらは、王様がこんな村に来るわけがない、と誰もが言っていたが、現れた立派な輿を見て腰を抜かしていた。
家が移動しているような輿の窓から、俺の姿を認めたお姫様が乗り出し、ブンブンと手を振る。
「やっほー! レイジくん、来たよーっ! 新しいゲームがあるんだって!? 私もお父様もお母様も、招待状をもらってからずっとその話ばっかりでさぁ! 今日は楽しみにしてるよっ!」
「ああ、任せとけ、フランシャリル! それと女王様! 『ブリーズボード』の大会に出てもらいたいんだが、いいか!?」
通り過ぎていく二番目の輿に向かって、俺は叫びかけた。
俺を見下ろしていた女王様……センティラスが「んまあ」と目を見開く。
「『ブリーズボード』の大会!? ゲームで大会をするの!? レイジ、そなたはなんということを……! 城を出る直前までプレイしていましたから、負けるはずがありません!」
バッ! と立ち上がった女王様は、外出用の豪華なドレス。
しかし足元はブリーズボード用のシューズを履いており、やる気満々だった。
最後にひときわ大きな輿が通り過ぎる。
待ちきれない様子で窓から顔を出している王様だ。
「おお、レイジよ! 今日はどんなすごいゲームを遊ばせてくれるのだ!?」
「まあ、それは見てからのお楽しみ……! だが期待は裏切らねぇデキだから、たっぷり楽しんでってくれよな!」
俺は入村する王族たちに手を振り返し、出迎えを終える。
振り返ると、村長ヒューリを筆頭とする村人たちがなぜか土下座していた。
「……? なにやってんだお前ら?」
「れ、レイジ様が……王族の方々と、あんなに親しい間柄のお方であったとは……! これまでの度重なるご無礼、どうか、どうかお許しを……!」
「王族と親しいってだけで、別に高貴な身分じゃねぇよ。それに俺にとっちゃ、アイツらも同じユーザーだ」
「ええっ!? 王族の方々が、ただのユーザーだなんて……!?」
「そんなに驚くことはねぇだろ。ゲームを遊ぶヤツに貴賤なんてあってたまるか。まぁ、ソシャゲならあるかもしれねぇが……。あ、今はそんなことはどうでもいいんだ。そんな所で這いつくばってるヒマなんてねぇはずだろ、やることは山ほどあるんだから、さっさと準備しろ!」
「は……はいっ!!」
俺の一喝で、わたわたと散っていく村人たち。
さぁて……今日は忙しくなりそうだぞ……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
まずは、『ブリーズボード ダブルス大会』。
この日のために招待した、リアルのブリーズボードのトッププレイヤーが集結した大会。
トッププレイヤーといってもあくまで『庶民の中』での意味だ。
貴族と庶民ではそもそも階級が違い、ともにプレイすることは許されていない。
いつの間にか入り込んでいた貴族どもから、
「センティラス様を庶民の大会に招待するなど、無礼にもほどがある! 長き歴史に培われたスポーツ、ブリーズボード史上においても貴族と庶民がプレイするなど、未だかつてなかった! それなのに、王族と庶民がプレイするなど……! 許されるわけがないだろう!」
口々にそんなことをぬかしやがったから、俺はまた声を張り上げた。
「うるせえよ! 招待してねえのに勝手に来といて、ごちゃごちゃ口挟むんじゃねぇ! お前らの歴史なんて、俺のゲームの前には関係ねぇんだよ! センティラスが参加するかしねぇかを決めるのは、俺じゃねぇ! ましてやお前らなんかでは断じてねぇ! 本人が決めることだ!」
つい口が滑りすぎて、一触即発の状態になっちまったが、センティラスの鶴の一声でおさまった。
女王様はすでにドレスを脱ぎ捨て、テニスルックのような動きやすい格好になっている。
これで納得してくれるかと思ったが、貴族どもはいけしゃあしゃあと抜かしやがったんだ。
「おい! この私をトーナメントに加えるのだ!」
「そうだ! この私も参加する! いますぐ手配するのだ!」
「子爵ごときのネステルセル家のそなたが、まさか嫌とは言うまいな!?」
……コイツら完全に、センティラスにいい所を見せたいだけじゃねぇか……!
もうトーナメント表は組み上がっているのでもちろんお断りだったが、ここで余計なヤツが割って入ってくる。
「ああっ! これはこれは伯爵様がた! それに公爵様まで! こんな薄汚い村にようこそ起こしくださいました! それだけでなく、大会の参加までしていただけるとは、身に余る光栄です! ささっ、レイジくん、こちらの方々をトーナメント表に……」
一瞬、誰だコイツ? と思ったが、隣りにいたコリンが、
「この領土をくださった、ブルット第一伯爵様です!」
と囁きかけてくれて、思い出した。
そうか……!
長いこと見てねぇからすっかり忘れてたけど……あの丸焼き親子のデカイほうか……!
俺は三度吠えた。
「ふざけんな! 誰がお前らなんか参加させるかっ! そんなに参加したきゃ、飛び入り参加のクジ引きがあるから、そこに並んで引くんだな! さぁ、あっち行け!」
またしても一触即発になっちまったが、
「かかっ、彼はああ言っておりますが、も、もちろんあれはポーズです……! ちゃあんと取りなしは考えておりますゆえ、ささっ、どうぞあちらへ……!」
デブ伯爵は滝のような脂汗を流しながら、上役どもを促したあと、その巨体を揺らしながら俺に詰め寄ってきた。
「おい、わかっているであろうな!? あの方々が全員参加できるよう、クジに細工をするのだ! でなければ、タダではおかんぞ!?」
鎖が外れたブルドッグみたいに凄まれて、俺は思わず保健所にたたきこんでやりたい気分になった。
が、これ以上言い争っても時間の無駄なので、「へいへい」と言って追っ払う。
もちろんクジには一切細工なんかしねぇ。
もし当たりを引いたら入れてやるつもりだったが、参加権を勝ち得たのは高名なる貴族サマではなく……名もなき庶民だった。




