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異世界ゲームクリエイター  作者: 佐藤謙羊
ゴブリンストーン編
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04 いきなりラストスパート

 工房の2階は、ゲーム作りの資料置き場のようだ。


 ちょっとした図書館くらいある、整然と並んだ本棚。

 あとはおそらく筐体のパーツであろう、金属のレバーや石版みたいなのが木箱に詰められ、部屋の隅に追いやられていた。


 こういう所って普通はホコリっぽいもんだが、掃除が行き届いている。

 天井の隅までピカピカで、クモが巣を作るスキもないほどだ。


 屋敷と工房の掃除は、メイドのシャリテの役目なんだが……きっちりやってるんだなぁと感心しちまった。


 それはさておき、資料だ。

 俺が主に知りたかったのは、ハードウェアの構成についてだ。


 この世界では何でも精霊の力で動く。

 最新のテクノロジーの塊である、ゲームであっても例外ではない。


 おそらくCPUとかROMとか、そういうんじゃないだろう。

 いったいどうやってあの『ゴブリンストーン』が動いているのか……仕組みを知りたかったんだ。


 俺は、わかりやすく分別され、案内パネルが貼ってある本棚の中を歩く。

 『ゲームの仕組み』といういかにもな背表紙の本を見つけたので、手にとって開いてみる。


 一般的な『ゴブリンストーン』の筐体を例にした、図解が入っていた。

 それによると……、



 『ディスプ・モニタ』は、水晶槽のなかに水の精霊の宿る水を入れたもの。

 精霊の力で水の中に絵を浮かび上がらせる。そのまま『画面』とも呼ばれる。



 『(チチャリドル・)(パワー・)(ユニット)』は、火の精霊チチャリドルが宿る火山石。

 ようは中央処理装置だ。



 『グラカード』は、水の精霊『グラカード』を詰めた瓶。

 『CPU』からの命令を受け、『ディスプ・モニタ』に出力する絵を送る。



 『(ロドドトス・)(オーダー・)(メモリー)』は、大地の精霊『ロドドトス』が宿る石版。

 ここに彫り込まれた魔法文字がプログラムとなって、実行されるらしい。



 以上の4つのユニットに加え、操作するためのスティックやボタン、そして力の源となる『ジェムシリカ』が必要。

 それぞれを、精霊の花を編み込んだ紐で結びつけることにより……ゲームハードとして機能するそうだ。



 ……本をパタンと閉じた俺は、何とも言えない気持ちになっていた。


 うーん、この世界のゲームハードの構造は、思った以上に幻想的だな。

 そして思った以上にCPUやROMだった。


 でも、大体仕組みはわかった。


 ひとつ気になったのは『サウンドカード』がないことだ。

 そういえばさっき遊んだ『ゴブリンストーン』も音が出てなかったな……。


 まあ、この期に及んでハードウェアの追加なんてやってるヒマはないから、今は忘れておこう。


 それにハードウェアだけじゃなく、ソフトウェアのほうもいじってるヒマはねぇ。

 いや……ヒマがねぇというより、いじれねぇと言ったほうが正しいかな。


 以前まではこの工房にも、プログラマーやデザイナーに相当するヤツらがいたんだが……給料が払えなくて逃げられちまったんだよな。


 俺が自力でプログラムやらデザインができればいいんだが……適性がないから、手出しできねぇんだよなぁ。


 あ、そうだ……コリンはデザインはできるようだが、プログラムはできるのかな?

 ちょっと、聞いてみるか。


 俺は本を棚に戻すと、階段を降りて1階に戻ってみる。


 1階では、鏡台の鏡とニラメッコしているコリンがいた。

 むくれたり、目を吊り上げたり……百面相をしている。


 どうやら、憎たらしい顔とはどんなものなのか、自分の顔を使ってイメージしているらしい。

 でも……元々そういうヤツじゃねぇから、全然できてねぇ。


 あの愛らしい顔を見ても、ほっこり和むだけだ。

 石をぶつけたくなるヤツなんて、地獄を探したっていねぇだろう。


 俺はその背中に声をかける。


「……コリン」


 ムニーとほっぺたを引き伸ばしているコリン。


「……なぁ、コリン」


 手でムギュッと、ほっぺたを押しつぶすコリン。


「……おい、コリン」


 自分の口に指を突っ込んで、ビローンと横に引っ張っているコリン。


「……コリン!」


「はっ……!? はひっ!?」


 俺が大声を出して、ようやく気がついた。

 ハッと振り返り、居住まいを正している。


 でも今更ながらに俺に見られていたことに気づいたのか、ボンと発火するように赤面した。


 気まずいのか恥ずかしいのか、ササッと両手で顔を覆い、うつむいてしまう。

 はらりと髪が垂れたせいで、真っ赤になった耳が露出している。


「いっ……いらしてたんですね……」


「ああ。それよりもお前、デザインはできるんだよな?」


「は……はい……少しだけでしたら……」


「そうか、プログラムはできるか?」


 顔を押さえたまま、ふるふると首を振るコリン。

 困った犬の尻尾みたいに、ポニーテールがぱたぱた揺れた。


「いっ……いいえ……学んではいるのですが、まだ……」


「そうか。じゃあ、『ゴブリンストーン』のパワーアップは、デザイン中心になりそうだな」


 すると、コリンの顔がゆっくりとあがった。

 覆っていた手の指が少しだけ開き、瞳がチラ見えしている。


「あ……あの……ということは……ゴブリンさんのドット絵修正以外にも、何かするということですか?」


「もちろんだ。納期ギリギリではあるが、仕様を変えないデザインの修正なら、デバッグも最低限で済むしな。品評会は明日の何時からだ?」


「早朝から順次行われます。前回評価の高かった順なのですが、ネステルセル家は最後のほう……夕方ごろになります。でも、筐体を運び込むことも考えて……だいたい明日のお昼ごろにはここを出ないと間に合いません」


「そうか……コリン、やることはいっぱいあるぞ。今日は徹夜だ。覚悟はいいな?」


 するとコリンは、顔を覆っていた手をパッと降ろして、


「は……はいっ! なんなりと、おっしゃってください!」


 恥ずかしさが残っているのか、それとも興奮しているのか……まだ赤みがかった顔で訴えてきた。


  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


 それから俺は、いくつかの作業をコリンに指示した。

 その作業は、今からやれば明日までに間に合うもので、かつ、『ゴブリンストーン』を確実に華やかにさせるものだった。


 しかし……まだ足りねぇ。

 もっとインパクトのある仕掛けを考えねぇと、あの白豚野郎をはじめとして、ゲーム好きの王族のヤツらをギャフンと言わせることはできないだろう。


 それを考えるのは……他でもない、俺の仕事だ。


 あれこれ考えているうちに夕方になったので、俺は晩メシを取りに屋敷のほうへと向かった。

 コリンは工房で作業に没頭している。優雅に食ってるヒマもねぇから、工房で食べるんだ。


 屋敷は大きな洋館で、かつては多くの来客や使用人が行き来していた。

 でも、今や俺の足音しか聞こえないほど静まりかえっている。


 天井や壁の灯りも、ジェムシリカ節約のために点いていない。

 夕方になると家の中は暗闇になるので、頼りになるのは手持ちのランタンの灯りだけだ。


 ……まるでホラーゲームの舞台みてぇだな。


 寒々しい廊下を進んで台所に向かうと、メイドのシャリテがいた。

 燭台のロウソクだけで、後片付けをしている。


「シャリテ、今日はコリンは工房でメシを食うから、トレイに入れてくれ。あと、徹夜になるから夜食の準備も……」


 俺の注文が終わる前に、シャリテはテーブルの隅にある、三層になった大きなトレイを指で示した。


「ちょうど出来たてよ。上がコリン様の分、真ん中があなたの分。一番下はお菓子と果物と飲み物……そして夜食用のサンドイッチも入ってるわ」


「さすが……察しがいいな」


 俺はまたしても、シャリテの見事な仕事っぷりに感心してしまう。


 シャリテはたしか17歳くらいのハズなんだが、俺よりずっとしっかりしてる。

 ひとりでネステルセル家の家事を切り盛りしてるんだ。


 編み上げた栗色の髪に、黒壇みたいな瞳。

 身体の線が出にくいゆったりしたメイド服を着てるんだが、エプロンをはしたなく押し上げる巨乳は隠しきれていない。


 天然なのか何なのか、その胸を強調するみたいに手を押し当てるシャリテ。

 むにゅっと音が聞こえてきそうなくらいに、手が谷間にめりこんでいく。


「……レイジくん、ありがとうね」


「へっ?」


 俺は見とれてたせいで、変な声になっちまった。


「いまはゲーム作りをしていたほうが、コリン様の悲しみも和らぐ……そう思って、コリン様を引っ張っていったんでしょう?」


「……それもあるけど、あの無神経な白豚野郎が許せなかったんだよ」


「白豚野郎って、もしかしてブル様のこと? それは失礼よ……ふふっ」


 そう言いながらも、シャリテも吹き出している。


「なぁ、シャリテ」


「……なあに?」


「お前はなんで、この屋敷に残ってるんだ? もう長いこと給料ももらってないのに……それどころか自腹まで切って、こうしてメシを作って……」


 するとシャリテは「んまぁ」と、さも意外そうな顔した。


「あら、気づいてたのね……」


「当たり前だ。この家はもう灯りも満足につけられねぇのに、メシだけはちゃんとしてる。気づかないわけがねぇだろ」


「コリン様はまだまだ育ちざかりだから、お食事だけはきちんと取っていただかないとね……あ、別に悪いことはしてないわよ。この家が人であふれてた頃は、お給料がたくさんもらえてたの。全然使わずにとっておいたから、それをちょっとずつ切り崩してるわ」


「……そこまでお嬢様に入れ込む理由は何なんだ?」


 すると何を思ったのか、シャリテはエプロンをしゅるりと外した。


「何を……?」


 俺の問いには答えずに、ブラウスの襟元に手をかけ、ボタンをひとつずつ外していく。

 たじろぐ俺に向かって、襟をがばっと開いて迫ってくるシャリテ。


「ちょ……何を……!?」


 俺は目をそらそうとしたが、そらせなかった。

 艶めかしい、白い肌の双丘。その麓に釘付けになっちまう。


 かぐわしい肌の匂いにやられ、クラクラしそうになったが……すぐに正気に戻る。

 あるものに気づいたからだ。


 割れ目のところに……見覚えのある紋章が入っていたんだ。


「お……お前も……異世界人なのか……!?」


 異世界からこの世界にやって来た人間は、身体のどこかに紋章が入る。

 紋章と同じ姿をした、女神が教えてくれたことだ……!


 驚く俺の前で、そそくさと胸をしまい込むシャリテ。

 ちらりと流し目を向けてくると、


「……いま教えてあげられるのは、これだけ。そのうちまた、ね」


 教え子を手玉に取る、家庭教師のお姉さんみたいに……ウインクしてきた。

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