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異世界ゲームクリエイター  作者: 佐藤謙羊
ゲームで村おこし編
38/47

38 完璧の向こう側

 テーブルに新たに追加された、ふたつの小皿。

 それぞれには茶色と、黄色のクリームソースが盛られている。


 いままで配られた小皿は人数分あった。

 しかしこれはひと皿ずつしかない。


 プレゼンターであるグランは自信たっぷりなのに、ひと皿だけだなんて……と皆はほんの少しだけ疑問に思っているようだ。


 だが俺は、すでにヤツの意図を理解していた。



「これはちょっとクセのあるソースだから、まずはポテトをちょびっとだけ付けて食ってみてくれ!」



 言われるままに、俺は手前にある茶色いソースを、ポテトの先端で少量だけすくってみた。

 対面にいるシャリテは同じように、近くにある黄色いソースをすくっている。


 コリンは惹かれるように茶色いソースに手を伸ばし、イーナスは当たり前のように黄色いソースに向かって手を伸ばしていた。

 コリンの手前には黄色、イーナスの手前には茶色いソースがあるので、お互いの手がクロスする形となる。


 ふたりとも、わざわざ遠くにあるほうのソースを選ぶということは……明らかに色に対して期待を持っているようだな。


 めいめいポテトを口に運ぶ。


 俺は舌に乗せるなり、目が白黒したのが自分でもわかった。

 一瞬、なんだこの味!? と混乱しちまった。


 すごくマズイもののように感じて顔をしかめたところで、ようやく正体がわかる。


 ものすごい甘さと、ほんのりとした苦味……これ、チョコレートソースだ……!

 ポテトには最初から塩が振ってあるせいか、余計に甘さが引き立っている……!


 ふと見ると、シャリテは見たこともない顔になっていた。

 口を*のようにして、顔全体をぎゅっとすぼめている。


 どうやら、黄色いソースはかなり酸っぱかったようだ。



「ご、ごめんなさい……! わ、私、これ、ダメ……!」



 痺れたような声を漏らすシャリテ。顔が少し老け込んでいる。


 ……まあ、そうだろうな、と俺は思った。


 ソースの小皿がひとつずつしかない時点で、グランもこうなることは予想済みだったんだろう。

 4人いる客のうち、ふたりは拒絶反応を起こすことを。


 そして狙ったふたりの客は、確実に虜にできることを……!


 さきほどからコリンとイーナスの規則的な動きが止まらない。

 ポテトに手を伸ばし、べっとりとソースをまとわせたあと、はぐっと一口、そして炭酸で追いかけ、くぅ~っ! と歓喜に身体を震わせる。


 余韻さめやらぬうちに、次のポテトに手を伸ばす。

 時折クロスする手がぶつかりあい、とうとうじれったくなって、自分のところに小皿を引き寄せる。


 普段はお行儀のいいコリンが、片手にポテト、片手にグラスを離さない。

 普段はなにを食っても眠そうなイーナスが、瞼をクッと見開いている。


 ふたりとも、もはやすっかりイーティングマシーンと化していた。

 シャリテは「信じられない」といった表情で眺めている。


 誰も聞こうとはしなかったので、俺がかわりに尋ねた。



「おいグラン、このソースは何なんだ?」



 すると待ってましたとばかりに、グランは胸を張って応えた。



「コイツはなぁ、チョコレートソースとレモンソースさ! 『カレーマシマシソース』を作ってから思ったんだ! コイツはアタイにとっては完璧だけど、他のヤツにとってはどうなんだろう……? って! そんで、みんなの前で発表しなきゃならない以上、自己満足に終わるのはシャクだよな、って思ってさ!」



 グランはやんちゃな瞳で、俺のほうをまっすぐ見据えながら続ける。



「その時ちょうど、レイジが言ってた『ゲームの向こう側』の話を思い出したんだ! 食べてくれるヤツ……コリンとイーナスのことを思い浮かべながら、残った時間を使って……ふたりが好きそうな激甘ソースと激酸っぱソースを作ってみたんだ!」



 新たに示されたふたつの『完璧』。

 それは自分のためではなく、『誰か』のためのものだった。


 しかも、それが想定していたターゲットユーザーにモロ刺さりしていることは、なおも食べ続ける少女たちの表情で明らかだ。


 ……俺は最初、発表者の中だけで『完璧』が打ち破れれば良いと思っていた。

 目的としては「自分の中に限界を作らない」ことだったからだ。


 しかし……グランは予想以上の答えを返してくれた。

 自分の壁を打ち破るだけでなく、他人の壁まで打ち破ってみせたのだ……!


 しかも……俺の教えを思い出して……!


 俺は思わず胸が熱くなって、知らず知らずのうちに立ち上がっていた。



「……合格だ、グラン……! 100点だ……!」



 するとグランは照れたように、しかしちょっと悔しそうに目を伏せた。



「いや……実をいうと、アタイはまだ納得いってねぇんだよな……。アタイとコリンとイーナスは好みがわかってたから、個別に作れたけど……。これを、ゲーム……この村に大勢やってくる客が遊ぶゲームに当てはめてみると……ダメなんだよな。客の好みなんてわからねぇから、どれを出していいのかわからねぇし……だから、最後にもうひとつソースを作るつもりだったんだ」



 俺はもう、胸がいっぱいになりそうだった。

 そんな思いにも気づかず、俯いたまま続けるグラン。



「アタイ、コリン、グラン……好みの違う3人が食べても、完璧だ! と思えるようなひとつのソース……! それこそが本当の『完璧』……! 村に来る客たちの誰もが満足してくれるようなソース……じゃなかったゲームに必要なモノなんじゃないかって……!」



 言いながら、勇ましく上を向く。


 少年のような、少女のようなあどけない顔。

 しかし丸メガネの向こうでは、ひとつ大人になったかのようなたくましい瞳が輝いていた。



「でも……そればっかりは難しくて、いくらやってもできなかったんだ……! タイムアップになっちまったけど……でもでも、アタイはまだまだ続けるぜ! ここにいるみんなが夢中になって食ってくれるようなソースを、研究し続ける……! だから出来たときはまたこうやって食ってみてくれよな! いいよな、レイジっ!?」



 お……おおっ! と応えてやりたかったが、感激のあまり声にならなかった。


 この男勝りの少女を、これほどまでに愛おしいと思ったことはない……!



 100点の完璧な答えだと思っていたが、訂正だ……!

 まさか俺の想像までもを打ち破ってくるとは思わなかった……!


 これはもう、120点……!

 俺の出した宿題は、完全にオーバーキルされちまった……!


 俺は、自分にできる精いっぱいの評価の表現として両手を広げ、その小さな身体を包み込もうとしたが、



「わっ、バカ! やめろレイジっ! 抱きつくな!」



 グランには思いが伝わらなかったようで、抱っこを嫌がるネコみたいに手を突っ張られ、押し返されてしまった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 実に内容の濃かった、最初の発表が終わりを告げる。

 残されたのは、想いの残滓のような熱気と、揚げ物のいい香り。


 そして食らいすぎて腹がポンポコリンになってしまった少女たち。



「ああっ、また頂きすぎてしまいました……はしたないことだと、反省したはずなのに……でも、幸せです……」



「腹部がこんなになっているというのに、まだあのすっぱいものを欲している……もしや赤ちゃん……?」



 ふたりとも、目がハートになっている。


 しばらく休んでから発表会を再開しようかと思ったが、その間にイーナスが台本のようなものを手渡してきた。


 イーナスが課題にしていた、『まるだし探偵フランベール』という演劇を改稿したもののようだ。

 特に説明はしないから、読んでみてくれということらしい。


 タイトルは『まるだしお嬢様コリン』。


 まぁ、まったく……。

 イーナス(コイツ)は本当に、我が家のお嬢様のことが好きだよな……。

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