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異世界ゲームクリエイター  作者: 佐藤謙羊
ゲームで村おこし編
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37 宿題の発表会

 ……なんだかここ数日、ビリジアンのヤツが妙に冷たくなった。


 いつもなら村を散歩しているだけで見張り台の上から怒鳴りつけてきたんだが、最近は何も言ってこない。


 向こうが俺のことに気づいてないわけじゃない、だってメチャクチャ視線を感じるし。

 かといって目が合うと、プイとそむけやがるし……いったい何があったってんだよ。


 でもまぁ、見張りの仕事はちゃんとやってるみたいだからヨシとするか。

 原因はよくわからねぇが、ほっときゃ機嫌もなおるだろう。


 そんな折、三人娘に出しておいた宿題の発表会とあいなった。


 工房の隅にある応接テーブルで、ささやかに始まる。

 なぜかコリンの隣にはシャリテが座っているが、見るヤツが増える分には別に構わない。


 発表のトップバッターは、切り込み隊長のグランだ。



「あー、オホン! アタイは『フライドポテト』の完璧さを破るために、いろいろ研究した! ここにいるシャリテにもアドバイスをもらって、いろいろ試してみたんだ!」



 そう前フリをしながら、傍らのバスケットから取り出したものを次々とテーブルに並べていく。


 大皿に山と盛られたフライドポテトが登場した時点で、香ばしいニオイが広がる。

 まだ湯気がたっているから、揚げたてなんだろう。これだけでもじゅうぶんに旨そうだ。


 さらに俺たちの前に、白い粉の盛られた小皿と、氷の入ったグラスが置かれる。


 グランはさらに取り出したサイダーの栓を抜いて、皆に注いでいった。

 シャリテが手伝おうとしていたが、コリンが先に動いたので手を引っ込める。


 コリンは新たに栓を抜いたサイダーで、俺にお酌してくれた。

 グラスに触れた注ぎ口が震え、カタカタと音をたてていたので不審に思ったのだが、どうやらコリンは緊張しているようだ。なぜかはわからんが。


 全員に飲み物が行き渡ったところで、グランは再び咳払いをする。



「オッホン! それじゃまず、アタイが完璧だと思っていた組み合わせから試してみてくれ! 辛口のサイダーにフライドポテト! 調味料は塩なんだけど、もう味付けしてあるからそのまま食ってくれ!」



 俺たちはめいめい揚げたてのポテトに手を伸ばし、まとった白い粒ごと口に運ぶ。


 カリッとした香ばしい食感のあと、素朴な味わいが口いっぱいに広がる。

 ホクホクしたジャガイモと、シンプルな塩味がマッチして抜群のうまさだ。



「フライドポテトがまだ口の中に残ってるうちに、サイダーで流し込むんだ!」



 味わうヒマもなく、さらなる指示が飛ぶ。

 しかし言われた通りにするのがこの会の主旨だ。


 俺はせわしなくグラスを持って、一気にあおる。

 コリンは両手できちんとグラスを持って、ストローで吸っていた。


 お嬢様的には口の中の食べ物を流し込むなんて発想はなかっただろうし、押し流せるだけのサイダーを一気に飲むこともなかっただろう。

 それでも一生懸命ストローをチューチューやっている姿は、どことなく小動物っぽかった。


 ……ゴクンッ……!


 一斉に喉が鳴ったあと、


 ぷはぁぁぁぁ~っ!


 と息が漏れた。



「くぅぅぅ~! この炭酸、効くわねぇ……!」



 おっさんみたいな口調で背筋を震わせているシャリテ。

 隣のコリンに至っては梅干しをまるごと食べてしまったかのように顔をすぼめている。



「で、でも……おいひい、れす……!」



 その健気な感想に、俺も同感だった。


 しょっぱくて脂っこい食い物と炭酸って、なんでこんなに合うんだろうな……!


 なんというか、刺激がじょじょに強くなっていくような楽しさがある。


 擬音だけで表現するなら、

 カリッとしたポテトの外側の食感、

 ホクッとしたポテトの内側の食感、

 ジュワッと滲み出る油、

 フワアッと広がる塩味。


 そこにシュワアア……! って弾ける炭酸が飛び込んできて、いままでの感覚をすべてかっさらい、ズドーン!! と胃に落ちていく。


 じわじわ盛り上げておいて、一気に落とす……味のジェットコースターってカンジだ。


 このインパクトは確かに『完璧』の太鼓判を押さざるを得ない……!


 俺たちの反応が良かったので、グランも満足そうだ。


 この中で唯一、イーナスだけは味気ないものを食べるように淡々としていたが、ヤツはいつもこんなだ。

 食事中でも燃料補給してるみたいなんだよな。


 しかも発表者はそのリアクションを予想済みだったのか、気にもとめていない。

 バスケットからさらに何かを取り出していた。



「アタイはその組み合わせが酒のつまみとして『完璧』だと思ってた! みんなもそう思ってるだろうけど……次はコイツを試してみてくれ!」



 次に出てきたのは、小皿に盛られた黄土色の粉だった。

 独特のスパイスの香りが鼻をつく。


 普段料理をやっているシャリテが「カレー粉ね」と真っ先に言い当てた。



「その通り! だが普通のヤツとはちょっと違うぜ! まあ、ヤッてみてくれ!」



 どれどれ……と俺たちは二本目のポテトを手にとり、粉をまとわせる。


 パクリ……! とひと口食べた瞬間、



「かっ……辛らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!?」



 火を噴く絶叫が工房じゅうにこだました。


 な、なんちゅう辛さだ……! こんなの、舌が火傷する……!


 俺たちはヒーヒーと喘ぎ、汗を吹き出しながら我先にとサイダーを求める。


 ……ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……! と喉が上下した直後、



「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」



 魂を絞ったような嬌声が、食いしばった歯の間から漏れた。


 こ、これは、ヤバいっ……!


 フライドポテトに塩は、旧世代のジェットコースター……。

 乗物自体には動力が存在しない、昔ながらのジェットコースターだったが……。


 コイツは乗物に動力がついていて、最初から一気にカッ飛ぶ新世代のジェットコースター……!

 しかも、ロケットエンジン……!


 俺は三度、ポテトの山に手を伸ばす。

 すると、対面からも白い手が現れた。


 シャリテだ。

 お前もこの良さがわかるのか……! みたいに目で通じ合ったあと、カレーポテトを食らい、ソーダをあおる……!


 再び襲いかかる怒涛の刺激に、ふたりして「くぅぅぅぅ~っ!!」と身悶えする。


 これは文句なしに、『完璧』を破る組み合わせ……!

 しかもどてっ腹に大穴を開けるように、圧倒的……!


 俺がやめられないとまらない状態になっていると、シャリテがふとコリンの異変に気づいた。



「コリン様は、このお味はお気に召しませんか?」



 弾かれるように顔をあげたコリンは、ブルルルと顔を左右に振る。



「あっ、い、いいえ……! お、美味しいと、思います……!」



 裏返った声で、気を使っているのが丸わかりだ。

 気持ちを代弁するかのように、イーナスがつぶやいた。



「悪くはないが、辛すぎる。これなら、塩だけのほうがいい」



 辛辣な評価ではあったが、コリンは何も言わない。

 きっと、同じように思っているんだろう。


 親友ふたりに否定される結果となってしまったが、グランはちっとも堪えていない様子で、人さし指で鼻をこすっていた。



「ヘヘ……! ソイツはカレー粉に、塩コショウとトウガラシとニンニクをマシマシにしたヤツなんだ! じゃ、次はコレ……! コイツを試してみてくれよ!」



 そしてさらにバスケットから飛び出す、ふたつの小皿。


 それは、あまりにも意外すぎるモノだったんだ……!

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