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異世界ゲームクリエイター  作者: 佐藤謙羊
ゲームで村おこし編
30/47

30 大掛かりな仕込み

 三人娘は作業机の上で、対話するように羊皮紙の紙と向かいあっている。

 同じ様な作業をやっているのに、そのやり方は三者三様だ。


 コリンは「うーんうーん」とかわいく唸りながら考え込んで、ふとなにかを思いついて書こうとするのだが、いや待て、とまた長考に入る。


 グランは考える素振りはほんどせず、漢字の書き取りのようにバリバリとペンを走らせ、しばらくしたあと「ダメだーっ」と叫んでくしゃくしゃにしてゴミ箱に捨て、新しい紙を取り出す。


 イーナスは彫像のように固まったまま、ほとんど瞬きもせずにどこかを見つめていて……たまにタイマーが作動した機械のようにおもむろにペンを動かして少し書いたあと、再び視線を虚空に戻す、の繰り返し。


 アイデア出しという作業ひとつとっても、それぞれの性格が出ていて面白い。


 ちなみに俺は動き回って考えるタイプだ。

 そのほうがアイデアの()がいいような気がするので、煮詰まったときなんかはよく散歩に出かける。


 他の例としては、風呂やトイレに入ってると思いつくというヤツ、車を運転していると思いつくというヤツ……本当にいろいろだ。


 ものづくりってのは、自分の中から出てきた思いを込める行為。

 アイデアなんてその最たるものだから、毎日トイレに行くみたいに一定の間隔でひり出すこともできねぇ。


 まったく出ないときもあれば、逆に溺れるくらいに湧き出すこともある……。

 それがアイデアってもんだ。


 ただ、出やすい環境に身を置くことはできるので、コイツらもいずれ自分なりの手法を見出すことだろう。

 イーナスあたりはもう、見つけているようなカンジがするがな。


 ……さて、と。

 そんなことを考えているうちに、俺の作業もだいぶ進んだ。


 俺の担当はいつもどおり雑用。まず手始めに筐体の設計図の引き直し。

 1コイン1プレイの形態に合うよう、筐体にコインシューターを付けたんだ。


 ちょっとした手入れのようなもんだから、それほど時間もかからずできちまった。

 さっそく発注するために、俺は工房から出て村へと繰り出した。


 村は、初めて来たときのような騒がしさを見せている。

 どうやらまたゴブリンが襲来中らしい。


 見張り台では新人隊員である女騎士サマが打鐘を打ち鳴らしていた。



「ゴブリン襲来! ゴブリン襲来っ! 総員戦闘配置に! 非戦闘員は避難を……!」



 ビリジアンは俺に気づくと、ビシッ! と指さしてくる。



「こらっ、そこ! 敵襲の真っ最中よ! なにノンビリ歩いているのっ!?」



「ああ、ちょっと筐体の発注をしにな」



「……筐体……!? まさかレイジくん、ゲーム作りをやっているの!?」



「そりゃそうだろ、俺はゲームクリエイターなんだから」



「私にあれだけタンカを切っておいて、ゲーム作りにうつつを抜かすだなんて……! 村の税収アップはどうしたのよっ!?」



 ……コイツもやっぱり、ゲームと村おこしが結びつかないタイプの人間のようだ。


 まぁ、無理もねぇか……。

 俺と一緒にいて、だいぶ柔軟な考えになったあの三人組ですらわからなかったんだからな。



「まぁ、それはちゃんとやってるから気にすんな。それよりもお前は自分の仕事をしっかりやれよ、ちゃんとゴブリンの動向を見張っておくんだぞ」



「レイジくんに言われなくても、わかってるわよっ!!」



 俺の一言が気に障ったのか、ビリジアンは見張り台から乗り出さんばかりの体勢になる。

 怪鳥のように何かをギャアギャアと叫び続けていたが、それ以上は相手にしなかった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 俺はまず、村にひとつだけある木工屋に行って、図面を渡して説明した。

 じきに王国から取り寄せた筐体が届くから、それをベースに改良を施し、コインシューターの設置を頼む、と。


 何台届くのか尋ねられたので、「40台」と答える。

 すると木工職人のオヤジは「ひえっ!?」と悲鳴をあげた。



「よ……40台!? この村で木工ができるのはワシだけなんじゃ! ひとりでその数をこなすのは無理じゃよ!」



「じゃあ、村の若いヤツらに手伝わせればいいじゃねぇか」



「そんなの無理じゃ! 皆にも仕事がある! それにゴブリンのせいでこの村では誰も木工をやりたがらんのじゃ! すぐに燃やされてしまうからのう!」



「まったく……無理無理ばっかり言いやがって……! 俺の権限を使っていいから、若いのを引っ張ってくるんだ! 文句を言うヤツがいたら、これからこの村では木工が重要になるから、今のうちに慣れといたほうがいいって言ってやれ! それでもダメなら、この俺に言ってこい!」



「木工が重要になるって……なんでそう言い切れるんじゃ?」



「それは、この山からゴブリンがいなくなるからさ」



 ハテナマークをいっぱい浮かべるオヤジに背を向け、俺は次に精霊素材の工房へと向かった。


 この村の主要産業である精霊素材の工房では、多くのヤツらが働いている。

 ちょうど敵襲が終わって戻ってきたので、俺は皆を呼び集めた。



「よし、俺からの仕事だ! 最優先で、ゲーム用の石版を大量に作ってくれ!」



「……大量、ってどのくらいですか?」



 この工房の代表であろう、イケメンエルフが尋ねてくる。


 同じイケメンでも、少しワイルドなカンジのゴブリン防衛隊長とは違うタイプ。

 理知的なメガネくんだった。


 しっかし……この村のヤツらって、どいつもこいつも男はイケメンだし、女は美人に美少女だし……。

 ブサイクなエルフってのが、ひとりくらいいてもいいだろうに……なんて思っちまう。どうでもいいけど。


 俺は、王国のほうから取り寄せている筐体の数を思い出し、必要な素材を割り出す。

 それをそのまま眼鏡くんに伝えた。



「そうだなぁ、まずはCPUにグラカードにROM、それぞれ40枚ずつだ! なるべく早く量産体制に入りてぇから、大急ぎで頼む!」



 するとメガネくんは、「ムチャ言うな」みたいに顔を曇らせる。



「といいますと、あわせて120枚ということですか? 精霊の減衰が一番時間がかかりますから、他の作業とも並行で進めた場合……半年はかかりますけど……」



「あー、今回は減衰は必要ねえ! いままでよりも高いスペックの素材が欲しいんだ!」



「減衰は必要ないんですか? でしたら、3ヶ月くらいでしょうか……?」



「それじゃ遅すぎる、もっと早くしてくれ! 並行の作業ってのもやめちまえ! 全員でゲーム用の素材を作ってくれ!」



 するとメガネくんのメガネが、ストンとずり落ちる。



「ええっ!? そ……そんな……! そんなことしたら、この村の収入がストップしてしまいます!」



「かまわねぇよ、そんなハシタ金! すぐに取り戻せる!」



「そういうわけにはいきません! これは、村の存続にかかわる問題ですから、村長に相談してからでないと……!」



 ふと背後から声が割り込んでくる。



「かまいません。レイジ様のおっしゃる通りにしてください」



 声の先は工房の入り口。そこには逆光になったヒューリが佇んでいた。



「そ、村長……本当に、本当によろしいのですか?」



 信じられないようなメガネくんの問いに、落ち着き払った様子で頷くヒューリ。



「はい。今回の件ではレイジ様に全てをお任せしています。村の収入がゼロになってもかまいません。最優先でレイジ様の発注をこなしてください」



「……わ、わかりました……村長が、そうおっしゃるなら……! よし、みんな、さっそく作業にかかろう!」



 メガネくんの合図で、己の持ち場に戻っていく工房のスタッフたち。

 まだ納得しきってない様子だが、あとは任せておいても大丈夫だろう。


 俺は労るように、ヒューリの肩に手を置いた。



「すまねぇな、ヒューリ。苦労かけちまうけど、ちょっとだけ辛抱してくれ」



「お気になさらず。私はレイジ様を信じておりますゆえ、いかようにも。ここに来る途中、木工職人にも相談を受けたのですが、同じように申し伝えておきました」



 さすがヒューリ。

 夜這いを受けたときは少し不安になっちまったけど、村長モードのときはかなり優秀だな。



「そっか、ありがとな。じゃ、俺は戻るわ。……って、手ぇ離してくれるか」



 肩に置いた俺の手に、いつのまにかヒューリ自身の手が重ねられていることに気づいた。


 「あっ、失礼いたしました」とササッと手を引っ込めるヒューリ。

 なぜかその頬は、ほんのりと桜色に染まっていた。

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