29 ワンコイン・ワンプレイ
「「「げ……ゲームで村おこしっ!?!?」」」
三つ子のように息の合ったタイミングでハモる三人娘。
サッ、と身体を寄せ合いヒソヒソ話をはじめる。
「ついにレイジがおかしくなっちまったぞ」とグラン。
「温泉あたりからその予兆はあった」とイーナス。
「たしかに、温泉のときのレイジさんはソワソワされていました」とコリン。
三人娘は一瞬だけチラッとこちらを見たあと、再びささやきあう。
「なんとかして元に戻さねぇと……なにかいい手はないか?」
「男は股間がリセットスイッチになってるから、揉めば元通り」
「お……お股を揉むのですか?」
「白いおしっこが出るまで揉むのが吉」
「そうか! よし行け、コリン! レイジの股間を揉むんだ!」
「わ、私がですかっ!?」
「レイジが抵抗したら、ふたりで押さえる」
「で、でも、男の方のお股に触るだなんて、そんなこと、私には……!」
「もう、じれってぇなぁ! じゃあアタイがやるよっ!」
「ええっ、グランちゃん!?」
「いや、むしろ自分が」
「い、イーナスちゃんまでっ……!? ……で、でしたら、わたしが……!」
「「どうぞどうぞ」」
俺は突っ込むかわりに黒板をコンコンと叩いた。
「おい、ミニコントは終わりだ。説明を続けるぞ」
しかし、ひよこ倶楽部みたいな三人娘は納得いってないようで、シュバッと俺の元に集まってくる。
「おい、ふざけんなよレイジ! ゲームで村おこしなんてできるわけねぇじゃねぇか!」
グランは俺の目を覚まさせようとしているのか、執事服の襟をガッと掴んで揺さぶってきた。
「なんでそう思うんだよ?」
イーナスがボソリと口を開く。
「ゲームと村おこし、そのふたつはぜんぜん繋がらない。ゲームでゴブリン退治すると言っているのと同レベル」
「そうかあ? 俺はどっちもゲームでできると思うぞ、村おこしも、ゴブリン退治も……」
ふとコリンを見ると、うつむいたまま震えていた。
視線を落とすと、チワワのようにプルプルさせている手を、俺の股間に伸ばしては引っ込めている。
その頭にポコンとチョップしながら俺は問う。
「じゃあ逆に聞くが、なんでゲームで村おこしができないと思うんだ?」
コリンはイタズラがバレた子供のように、おずおずと答える。
「え、えっと……げ、ゲームは芸術品ですので、貴族以外の方々は接する機会もありませんし……」
「なんだそりゃ、そんなのはできない理由にならねぇ。プレイさせてやりゃいいだけだろ」
すると横にいるグランが、「無理無理」とばかりに手をパタパタ左右に振りはじめた。
「やらせたところで無駄だって! 城下町のヤツらがよく言ってるもん、あんなことしてなにが楽しいんだって!」
「それもできない理由にはならねぇな。センティラスと同じだろ。プレイしたくなるようなモノを作りゃいいだけだ」
最後はイーナスまで、首をフルフルしだした。
「仮にプレイさせたところで、村おこしには繋がらない。なぜならば、果物のように売ることができないから」
「ほう、イーナスは少しだけ目の付け所が違うな。ゲームでは金が取れないと思ってるんだな。では、なんで金にならないと思うんだ?」
「ゲーム筐体は高額すぎる。誰も買えない」
「売るとしたらそうだな。でも、俺の考えてる作戦は筐体を売らない」
「意味不明。売らないのであれば、金を稼げない。チョメチョメせずに赤ちゃんを作れと言っているようなもの」
コイツ、なんでもそっちに持ってくなぁ……と思っていたら、至って真面目な顔でコリンがうんうん頷いていた。
「はい、キャベツ畑がない所には、赤ちゃんは産まれません!」
訂正するのは面倒だったので、俺は黙殺した。
「……よし、お前らの言いたいことは大体わかった。今から、今回作るゲームの筐体のイメージイラストを描く。それを見れば、俺の意図がわかるはずだ」
まだ納得いっていない様子の三人娘に背を向け、黒板にチョークを走らせる。
俺が描いたのは『ブリーズボード』の筐体。
わかりやすいように、いちばんの変更箇所がアップになるアングルにした。
三人とも、さっそく食いついてくる。
「なんだ? 筐体の横に、なんかボックスみたいなのがあるな?」
「お金を入れるところがありますね。貯金箱でしょうか?」
「1プレイ、100¥って書いてある」
¥ってのはこの世界で流通している通貨のことだ。
国ごとによってデザインは異なるんだが、価値は同じとされている。
この国では瓶に入ったジュースが100¥だから、物価としては日本円に近いだろうか。
そんなことよりも……三人はようやく俺の狙いに気づいたようだ。
それは彼女たちにとって、まったく想定の範囲外だったようで……味方から撃たれたみたいにショックを受けている。
俺は、そろそろ来るかな……と思い、耳を塞いだ。
「「「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」」」
「レイジっ!? まさか……1回遊ぶごとに金を取ろうっていうのか!? そ、そんなの……アリかよっ!?」
「そ、そんなこと……まったく考えもしませんでした……! すごいです、本当に本当にすごいですっ、レイジさんっ!」
「やっぱりレイジはおかしい。特に頭が。解剖したい」
感激のあまりグイグイ迫ってくる三人娘。
イーナスはどこから取り出したのかメスを持っていたので、俺は押し返した。
「わかってくれたようだな。これならゲームで金が稼げるだろう? したがって今回のゲーム制作のメインとなるのは、このマネタイズ……1プレイ1コイン式に合うように、『ゴブリンストーン』と『ブリーズボード』を改良することにある」
「どこを解剖する?」
「いや、イーナス、解剖じゃねぇ、改良だ。いい加減そのメスをしまえ」
「で、どこを改良するんだ!?」
「まぁそう慌てんなってグラン。それを考えるのはお前たちだ」
「わたしたちが……ですか?」
「そうだ、コリン。1回のプレイに100¥が必要だと考えて、どこを改良すればいいか考えるんだ」
もちろん俺には改良プランがすでにある。
簡単に言えば、アーケードゲームを作るのと同じだからな。
でもここで俺が言って、その通りにやらせても……コイツらのためにはならない。
コイツらには、そのへんの貴族みてぇな頭のカタいゲームクリエイターにはなってほしくないんだ。
それに俺のプランが正解ってわけでもない。
むしろ、俺をアッと言わせるようなアイデアが出てくるのを期待している。
三人娘は授業を復習するかのように、順番に手を挙げて言った。
「わかったぜ! これはアレだろ!? レイジが言ってた『ゲームの向こう側』ってヤツだよな!? えっと、たしか……」
「クソまずいドーナツを作ったら、孫の代まで祟られる」
「えっと、そうならないように……100¥を払ってくださる方々のことを思い描いて、どうすれば皆様にご満足いただけるのかを考える……ということですよね?」
「……その通りだ、ちゃんと覚えているようだな。三人とも、自分なりのユーザー像を頭に思い浮かべて考えてみるんだ」
俺はひとりひとりに向かって頷き返したあと、締めくくるように手をパンと打つ。
「……よしっ! わかったらさっそく始めてくれ! まとまったところで、俺のところに持ってきてくれよな! じゃあ……ハルムの村でのゲーム作りを開始するっ! 今回も最高のゲームを作って、村らのヤツらをアッと言わせてやろうぜ!!」
「「「おおーっ!!!」」」
三人娘はカエルとびアッパーのように拳を突き上げジャンプしたあと、キビキビと戦闘配置につく。
真新しい机に向かい、作業を開始した。
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