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異世界ゲームクリエイター  作者: 佐藤謙羊
ゲームで村おこし編
20/47

20 はじめての領土

 コリンとシャリテ、そして俺は、パンダンティフ王国城にある会議室みたいな所にいた。


 無駄にデカイ長テーブルに並んで座っているんだが、対面には身なりだけはいいデブ親子がいる。


 デブどもを前に、コリンとシャリテは背筋をピシッと正しており……しかも俺にまでそうするように小声で囁きかけてくるので、かたっ苦しくてしょうがねぇ。

 慣れない雰囲気に、俺はジンマシンが出たみたいにボリボリと身体を掻いていた。


 こういうのはニガテだ……本当は来たくなかったんだが、コリンにせがまれてしょうがなく来てやったんだ。

 それなのにさっきから、デブ親子は舐めるみたいにコリンとシャリテばかりを見やがって……俺のほうは一瞥すらしやがらねぇ。


 まぁ……あんな絡みつくような目で見られても、困るだけなんだけどな。

 シャリテなんかはまじまじと胸を凝視されても、唇を結んで耐えている。


 いい加減やめろと言ってやりたくなる。お前らはブタのケツでも見てろ、と。

 しかし口をついて出そうになった瞬間、デブの親玉のほうが先に口を開いた。


 チョビヒゲとアゴの肉を揺らしながら、見るからに重苦しそうな口が動く。



「今日、ネステルセル家の当主、コリン殿に来ていただいたのは他でもない。領土の授与についてだ。『子爵』になった王城貴族は、我が国の領土の一部を授かり、管理を任されるというのは知っているな?」



「はい、存じております。ブルット第一位伯爵様」



 コリンは、かしこまった様子で頭を下げる。シャリテも一緒になって頭を下げていた。


 ふうん、この歩くのも大変そうなデブが、『伯爵』のトップってわけか……。


 『伯爵』は『子爵』のひとつ上の階級。

 先の献上によって、『子爵』になりたてのネステルセル家は……『子爵』ではいちばん下っ端の、『第二十五位子爵』というやつだ。


 『子爵』は25階級あって、『伯爵』は20階級あるから……

 『第一位伯爵』と、『第二十五位子爵』との間は、44階級も離れているということになる。



「これが、ネステルセル家の管理領土となる、場所の詳細だ」



 大デブが目配せすると、背後にいた執事のようなヤツがコリン、シャリテ、俺の順番で、目の前に羊皮紙を置いた。

 俺は領土になんて興味なかったので、見もしなかったんだが……コリンとシャリテは契約書でもあらためるみたいに真剣な表情だ。



「ハルム山脈。王国の最北端にある山々だ。この広大な地域をまるごとネステルセル家に授けよう。これほどの面積の土地を持つ子爵はおらん……大変名誉なことだ」



「あの……お待ちください、ブルット第一位伯爵様」



 最初に大デブに口を挟んだのは、我らがメイド長のシャリテだった。



「たしかにハルム山脈自体は広大で、大変ありがたいことなのですが……山脈には村がひとつしかありません。それに……この村にかけられる税金が、来月から急に増額されるようですが、これは……?」



「なに、今までが安すぎただけだ。ハルムの村には温泉もあるので、観光客による収入が見込める。それを来月から勘案するまでだ」



「しかし……増額される税金はこの村の収入の十倍以上です。こんなの、収められるわけが……」



 ……ダアンッ!


 大デブの拳がテーブルに叩きつけられる。コリンとシャリテはビクッ、と肩をすくめた。



「そなたは、国王陛下のお身体の一部ともいえる領土を、侮辱する気か……!?」



 怒鳴りつけられ、シャリテは慌てて取り繕う。



「い、いいえ、そんなつもりはありません……! ですが、この税金は、あまりにも……!」



 すると、今までニヤニヤしていただけの小デブが、「まぁまぁ」と大デブをなだめた。



「まぁまぁ、お父上。ボクのコリンたんが怯えているので、そのへんで……ここは、ボクの顔に免じてください」



 気持ち悪い言葉遣いに、俺は思い出した。


 あの小デブ……ハイザーさんの葬式のときにコリンに言い寄ってた、丸焼きクンじゃねぇか……!

 品評会以来、姿を見なかったから、すっかり忘れてた……!


 丸焼き親子は示し合わせたように、ブヒッと鼻を鳴らす。



「うむ……愛しい我が息子ブルよ、そなたは本当に情け深い、やさしい子だ……ならば、慈悲を与えようではないか」



 大デブが執事に再び目配せすると、さらなる羊皮紙が配布された。



「代替として、王国近くにある村、ベレーヘンを授けてやろう」



 ベレーヘン。俺も知ってるくらいの有名な村。

 果樹栽培が盛んで、いくつものブランド果物を産出している。


 王室御用達の果物も納めているほどなので、かなり豊かなのは間違いない。



「ベレーヘンといえば、王国で一番……いや、近隣諸国とくらべても一番の、果物の村……!」



「そ……そのベレーヘンの村を、頂けるんですか……?」



 信じられない様子のコリンとシャリテ。

 やはりハルムの村とは天と地の差のようだ。



「ベレーヘンはブルット家が管理している領土のなかでも、主要ともいえる場所。しかし我が愛しい息子のやさしさに打たれ、それを分け与えてやろうと言うのだ。息子に感謝するのだな」



「あ……ありがとうございます、ブル様……!」



 コリンとシャリテは季節外れのサンタクロースを見るような瞳で、揃って小デブに頭を下げる。

 しかし俺は、そのサンタクロースはタダの詐欺師だろ、と思っていた。



「どういたしまして、コリンたん、シャリテたん! じゃ、この領土受領の書類にサインして!」



 今度は小デブの目配せで、さらなる羊皮紙が配られる。

 俺にはナシで、コリンとシャリテに対してだけだ。


 我が家の当主サマとメイドは、弾むような表情でペンを取ったんだが……サインする直前にある文言に気づき、顔を曇らせた。



「あの……ブルット家のご子息と、ネステルセル家の当主が、婚姻を結ぶことに同意する……とありますが?」



「こちらの書類には、ブルット家の当主と、愛人契約を結ぶことに同意する……と」



 いぶかしげなコリンとシャリテ。

 俺はちょうどデブどもの狙いを理解したところだったので、かわりに教えてやった。



「ああ……わかったぜ。いい村をやるかわりに、コリンは小デブの嫁に、シャリテは大デブの愛人なれって言いたいんだな。断れば寒村を押し付けられ、重い税金に苦しめるぞ……と」



 俺はつい、心の中だけのつもりだったアダ名を口に出していた。

 ま……別にいいか。



「小デブに、大デブ……!? もしかしてボクとお父上のこと!?」



「さ……三流ゲームクリエイター風情は、ゲーム作りの礼儀どころか、人間としての礼儀がなっていないようだ! 献上品という汚いやり方でセンティラス様に取り入り、今の地位についたクセに……!」



 怒りを露わにするデブ親子。

 コリンとシャリテが慌てて非礼を詫びようとしたが、俺は遮って続ける。



「なぁにが汚ねぇやり方だ。フランシャリルに聞いたぞ、あれからゲームの献上品を持ってくる貴族が増えたって。お前らも真っ先に献上品として持っていって、王様から怒鳴られたそうじゃねぇか、『この程度のゲームなら、品評会に出せ』って……!」



「ぐぬぬぬぬっ……!」



 揃って握りこぶしを固めるデブ親子。

 こういうところはソックリだ。顔の赤くなり方まで同じでやんの。


 俺は追撃の手を緩めず、さらにまくしたててやった。



「だいたいお前らも、ゲームデザイナーの端くれなんだろ!? だったらひでぇ領土を押し付けて、ネステルセル家の評判を貶めるなんて卑怯なマネをせず……ゲーム作りで勝負してきたらどうなんだ!?」



「ぐうううううっ……! 五十年以上、王城貴族としてゲーム作りを続けてきた名門、ブルット家を端くれ呼ばわりだと……!? もう我慢ならんっ! ネステルセル家への領土は、ハルムの村に決定とするっ! これは断ることはまかりならんっ!」



「ぶひぃーっ! 税金が収められないと、降格は免れない……! お父上からも王様に口添えしてもらって、王城貴族からまた没落貴族に逆戻りさせてやるんだからっ……! いまさら謝っても、もう遅い……遅いんだからなっ……ぶひひひひっ!」



「フン、ゲーム作りじゃ勝てねぇから、権力をカサに脅すことしかできないみたいだな……! いいぜ、その寒村とやらをもらってやるぜ! そしてしっかり税金をおさめて……お前らの無能さを逆に証明してやるよっ!!」



 ひたすら逆上するデブ親子。売り言葉に買い言葉の俺。

 コリンとシャリテは、ただただアタフタするばかりだった。



  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 ネステルセル家の屋敷に戻るなり、俺はふたりからこってり絞られた。

 特にシャリテから。



「もう、レイジくんったら……! なんでブルット伯爵を怒らせるようなことをしたの……!」



「しょーがねぇだろ。あのデブども、コリンとお前を領土と交換だなんて、まるでもモノみたいに扱いやがったんだぞ? しかも愛人だなんて……言ってやらなきゃ気がすまなかったんだ」



「う……うぅん……それについては……ちょっと嬉しかったけど……」



「胸がスッとしただろ? だったらいいじゃねぇか」



「で、でも、あそこまで言わなくても……! あれだけ怒らせたら、交渉の余地もなにもなくなっちゃうでしょう!」



「ブタと交渉するつもりはねーよ」



「もう……レイジくんったら……!」



 反省しない悪ガキに接するように、呆れ果てるシャリテ。

 コリンが仲裁するように間に入ってきた。



「ふたりとも、落ち着いてください……。あの……レイジさんも、なにかお考えがあってのことなんですよね? なにかハルムの村を立て直すだけのお考えがあって、引き受けられたんですよね?」



「そ……そうなの? レイジくん?」



 瞳にわずかな期待を宿らせ俺を見つめる、コリンとシャリテ。



「……いんや。なんにも。ついカッとなっただけだ」



 ふたりは最後の希望をも潰えたように、がっくりと肩を落とす。

 はぁ……と盛大な溜息をつかれちまった。



「まぁ、今からそんなに落ち込まなくてもいいじゃねぇか。悩むのは村を見てからでも遅くない……さっそく行ってみようぜ」



 と、いうわけで……俺たちはネステルセル家の初めての領土に行ってみることにしたんだ。

新章再開しました。

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