姫君の微笑
いただいたお題:ちょっと病んでるガチムチ×人形のように儚げな無口な美少女
十を少し過ぎたばかりの歳の姫は、まるで人形のようなお方だった。
白磁の肌に整った美しい顔と、触れただけでたちまち壊れそうな華奢な身体。その表情はぴくりとも動かず、本当の人形の心が動かないように、姫の心も決して動くことはないのだと思っていた。
あの日までは。
いつものように姫の横に控えていた俺の耳に、くすりと笑う微かな声が聞こえた。ちらりと目をやれば、いつものように塔の窓から外を眺める姫がいるのみで……だが、姫はその口元に僅かな笑みを湛えていたのだ。
花が綻ぶような、美しい笑みを。
その日から、俺は姫を喜ばせるために奔走した。
最初は小鳥。
あの日と同じような、小さな、美しい声で囀る小鳥を姫のために。
――だが、同じものを3度ではすぐに飽きてしまうのか、またすぐに姫はぼんやりと外を眺めるだけに戻った。
だから、次は鳩を捕まえた。
その次は小さな鼠。それから森を駆ける兎に、猫に、犬に……。
姫に笑みをもたらすものは、次第に大きくなっていく。
そして、最初は攫ってきた赤児。それから親とはぐれた幼子も。次は森に入った少年、そして街道を歩く娘に、薄汚れたはぐれ者。
――怯えて逃げようとした侍女も、姫を喜ばせるものとなった。
しかしとうとう、王の知るところとなり、騎士団が出ることとなる。
人攫いを見つけ出し、討つための騎士団が。
――姫のためなのに。姫の笑顔のためだというのに。
「姫様。もう、私には姫様を喜ばせることが……」
「あら?」
苦渋に顔を歪ませる俺に、星の鳴るような澄んだ姫の声が降る。
「まだ、お前がいるじゃないの」
「姫様?」
なんの表情も浮かんでいない姫の顔が、しかし、不思議そうに傾げられる。
「わたくしは、お前の張り詰めた強い腕から流れるものが知りたいわ。その固い腹の中に納められたものがあの少年とどう違うのか、確かめてみたいの」
わずかな恍惚の混じった姫の声に、俺の身体が震えた。
俺にはまだ姫を喜ばせることができる。
何より、姫が俺を望んでいる。
「――ああ、姫様。ひとつだけお願いがあります」
姫はガラスのような美しい眼差しで俺をじっと見つめる。
「どうか、私を暴くのは、姫様自らの手で」
「いいわ」
姫は、大輪の、真紅の薔薇のように微笑んだ。
お題をいただいて浮かんだのが仄暗さ漂う塔の上に閉じ込められた幼い姫君とひたすら滅私奉公することに喜びを感じる騎士。
あと、エリザベート・バートリー。