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猫の四朗  作者: 海水
四朗とチェルナ
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第八話

 チェルナは命の燈火が消えた後、直ぐに今の黒猫の身体に入り込んだと思っていた。だが実際には一か月近くの時間が経っていたのだ。

 エイラは「百年間、人形でしかなかった使い魔のクロが、いきなり自分勝手に動き出したんだ」と言っていた。


「クロにはちゃんと自我も作ったはずだったんだけど、なんでか私が命令しないと動かない人形さん、いや違うな、猫さんだったんだよ」


 優雅にティカップを傾けながら、エイラが続けた。


「妾も、始めはなんだか分からなかったのじゃ」

「そうそう。いきなり、のじゃのじゃ、と言い始めて、そりゃあ驚いたさ」


 エイラは大げさに手を広げた。でもその顔は嬉しそうだった。


「文句は月の神様に言って欲しいのじゃ」


 クロはぷいっと横を向く。


「はいはい、月の神様にカチコミかければいいんだろう?」


 エイラは、ふぅ、と小さく息を吐いた。物騒な言葉が聞こえたのは気のせいだろうか?


「その投げやりな言い方は、何なのじゃ!」


 クロは尻尾の毛を逆立ててまくし立てた。


「使い魔に使いっ走りにされるなんて、私も歳を取ったもんだ」


 どこか楽しげなエイラが肩を竦めた。四朗はそんな二人の言い合いを黙って聞いていた。

 この二人は会ってから間もないはずだ。その割には仲が良い、と四朗は思った。


「ニャニャニャ(チェルナが俺を探して欲しいとお願いしたのか)」

「そうなのじゃ。妾はシロのお嫁さんになるのじゃ!」


 四朗が横やりを入れたら、クロが叫びながら抱き着いてくる。クロは嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らして甘え始めた。

 魔女の手元でバキ、という音がした。






「だから言ったろう。私には数百年恋人がいないんだ」


 クロと四朗のじゃれつきを見て、思わずティーカップを握り潰したエイラがテーブルを拭いていた。


「羨ましいから、私の居ないところでイチャついてくれたまえ」


 エイラは拭いていた布巾を空中にぽいっと投げると、その布巾は忽然と消えた。エイラが魔女というのは本当らしいのだが、魔法というモノの原理がよくわからない。

 四朗の想像する魔法とは派手なエフェクトで燃え盛る炎などのゲームでのイメージしかない。エイラが使う魔法はマジックみたいだ、と四朗は感じていた。


「それと、クロはチェルナという王女様なんだろう? これからはチェルナと呼んだ方が良いのかな?」


 エイラは四朗とクロを交互に見てくる。二人はお互いを見合った。


「だからそれを止めろと!」


 魔女は頭を抱えて叫んでいた。





 結局、クロはチェルナと呼び名を変えた。チェルナはニコニコだ。


「そうそう、クロ、じゃなかった、チェルナの身体は基本的には普通の猫の身体だ。が、私の使い魔であるからその命は私と等しい。つまり私が死なないと死ねないんだ」


 四朗とチェルナは仲良く二人並んで、ちょこんと座らされている。チェルナの長い尻尾は四朗の尻尾を掴んでいた。

 エイラは学校の先生が持っているような長い棒を持ってニヤリとしている。白衣を着たエイラが黒板の前で説明を始めた。黒いとんがり帽子に白衣はどうかと思われたが、白衣は欠かせない、とエイラは力説して譲らなかった。


「つまりだ、チェルナは希望通りシロ君のお嫁さんには、なれる。子供も産めるだろう。が、シロ君は普通の猫でしかないから、数年で死ぬ」


 四朗は自分に関して当たり前だと思っているが、チェルナについては全く考えていなかった事態になった。そもそもこの魔女は何歳なんだろう、と考えた矢先に、ギロリと睨まれた。蛇の前のカエルのように四朗は動けない。普段は出ない汗が、滝のように流れ出てきた。


「ふふ、女性に年齢を聞くのは禁忌タブーだよ」


 怖い顔のエイラが四朗の前に迫って来た。チェルナに再会したばかりだ、死ぬにはまだ早い、と四朗は思った。四朗は頭を床に付けて「ニャ(ごめんなさい)」と謝った。


「シロもエイラの使い魔になれば良いのじゃ!」


 チェルナの叫びにエイラもコクリと頷いた。


「ま、そういう事だね」

「のじゃ!」


 魔女と黒猫の視線が白猫に突き刺さった。

これで一区切りです。

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