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猫の四朗  作者: 海水
四朗とチェルナ
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第六話

 魔女に持ち上げられたままの四朗は気が気ではない。魔女の家に連れて行く、と言われても何処に連れて行かれるか分からないからだ。


「ニャニャニャニャ(何処に連れて行くんだよ)」


 猫の言うことなど理解出来ないと知りつつも、四朗としては文句を言いたかった。そんな四朗を見た魔女はキョトンとした。


「あぁ、名乗っていなかったね。私はエイラというんだ。魔女をやっている」


 エイラと名乗る魔女はニコッと微笑んだ。四朗は、やっぱり通じてない、とため息を付いた。


「お、猫のくせにため息なんて、生意気だなぁ」


 魔女は楽しそうに笑った。





 エイラは町外れまでいくと、(おもむろ)に横からスカートの中に手を入れ、何やらゴソゴソ探し出した。ミニスカートの中に手を入れている奇妙な風景だが、彼女の顔は真剣だ。


「よっと、見つけた!」


 彼女がニンマリしてスカートから手を引くと、その手には大きな竹箒が握られていた。


「ニャ!?(なに!?)」


 四朗が下顎をだらんと下げて驚いていると、エイラはニマッと口元に弧を描き、ふんと鼻息を荒くした。


「はは、女性にはな、隠すところが沢山あるのだよ」


 エイラは大きな竹箒をブンブン振り回しながら四朗には理解出来ない事を、自慢げに話してきた。彼女は竹箒を横にして、なにやらゴニョゴニョと呟き始めた。彼女がパッと手を離すと、竹箒はふわふわと宙に浮いていた。


「ニャ!(マジか!)」


 四朗が目を開いて驚くとエイラは叉もフンスーと鼻息を荒くする。


「ふふ、不思議だろう」


 唖然と箒を見つめる四朗に、魔女は笑いかけた。







「さて、落ちないようにしっかりと掴まっているんだぞ!」


 エイラがそう言って、四朗を箒の柄の先端近くに置いた。箒の柄は細い。後ろ足を前後にずらし、前足でしっかりと挟み込んだ。


「よっと!」


 彼女が箒に横向きに乗っかった。その衝撃で箒が上下に大きく揺れる。


「ニャ、ニャ!(落ちる、落ちるってば!)」

「ほら、しっかり掴まって! でないと落ちちゃうよ!」


 クスクス笑いながらエイラが四朗の身体を固定した。首だけ捻ってエイラを睨む四朗だが、魔女はニマニマしているだけだ。


「じゃあ、しゅっぱ~つ!」


 魔女の掛け声で箒はゆっくり動き始めた。





 箒はかなりの速度で空を駆けていった。景色は流れるように後ろに消えていく。四朗は必死で箒にしがみついた。速度もだが、飛んでいる高度も高いのだ。流れていく景色の中の木はとても小さく見えるのだ。


「ニャニャ!(揺らすなって!)」


 四朗が懸命にしがみついている様を、エイラは楽しそうに眺めている。


「はは、シロ君。この箒に触れていれば落ちないんだよ」


 後ろのエイラから楽しそうな声が聞こえてきた。


「ニャニャニャー(そんな事信じられるかー)」


 箒にしがみついている四朗はくるっと後ろに顔を向けた。エイラは箒に軽く腰掛けただけで、手には飲み物を持っていた。


「ニャニャ!(おいアブねえって!)」


 四朗の心配を余所に、魔女は鼻歌を歌い始めた。





「だから大丈夫だって。君も心配性だなあ?」


 そんな事を言いながらエイラが四朗の前足を掴んだ。四朗はハッとしてエイラを見上げた。それがいけなかった。その隙にエイラが四朗の前足をヒョイと持ち上げてしまった。


「ニャ、ニャ、ニャ、ニャ!(ザッケンナコラ、やめろって、落ちるって、死んじゃうって!)」


 四朗の必死の抵抗も虚しく、体格差という物理に負け、お座りの姿勢にさせられてしまった。


「そら、いっくぞ~」


 エイラは箒を操り蛇行させた。


「ニャーーーー!(やーめーてー!)」

「ははははは!」


 左右にぐにゃぐにゃ曲がりくねった箒の動きに四朗は絶叫するが、エイラは大笑いだ。


「ニャニャニャ!(落ちちゃうってばさ!)」


 エイラがそっと手を離しても四朗は気が付かず、お座りの姿勢で叫んでいた。


「ほーら、自分の体をよく見てごらんよ」

「ニャニャ!(んなこと言ってる場合か!)」

「ははは、私の手はここにあるぞ」


 エイラの言葉に四朗が頭を振り自分の体を見て、絶句した。


「はははは、大丈夫だろう?」


 箒がどんなに暴れても、四朗の体はピタリと箒から離れることはなかった。振り回される感じはしても、落ちることはなかった。


「ニャ、ニャニャ!(お、おぉ!)」


 落ちることはないと分かれば四朗も空を楽しめた。原理は分からないけど風圧も感じないし、寒くもない。

 空を見れば何処までも真っ青な空間が続いていた。


「ニャ……(チェルナにも見せてやりたかったな……)」


 叶うはずもない事ではあるが、口に出さずにはいられなかった。

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