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猫の四朗  作者: 海水
四朗とチェルナ
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第五話

 城門の外は広場だった。猫の視点では大きさは分からないが、広いと言うのは分かった。


「ニャー(初めての外、だな)」


 チェルナが外に出られないから四朗も出られなかった。初めての外に戸惑いながらも歩き出した。


「ニャ……(チェルナにも見せてやりたかったな……)」


 街並みは簡素なものだ。日本と比べてしまえば、だが。

 建物は木造もあれば石造りもある。派手な看板がないからか、寂しくもある。

 人通りはあるから四朗は道の端っこをあるいた。真ん中を歩いていたら馬車に跳ねられて、またもこの世からオサラバだったろう。この世界でも轢かれて死ぬこともあるのだ。


「ニャー(何するかな)」


 四朗は何をしようかと考えた。自由に動きたいという願いは叶ったが、それはそれで困る。

 何とも我が侭だが仕方がない。

 だって猫だもの。





 初日は大冒険だった。

 徘徊すれば他の猫に絡まれ、縄張りを荒らしたと追いかけられ、何処ぞの雌猫に迫られた。

 子供には石を投げられ、命懸けの鬼ごっこを繰り広げた。

 ご飯はそこらにいる虫や小鳥だ。人間の時の記憶と知識があれば捕まえるのは難しい事ではなかった。


「ニャニャー(なんか体の底から湧き上がってくるな)」


 これが猫の本能なのか、と四朗は思った。

 大冒険は二日目には飽きた。

 子供に追いかけられないように壁の上を移動した。

 他の猫の縄張りに入らないように気を付けた。

 三日目には壁の上で前足を枕に寝ていた。

 だって猫だもの。





 そんなある日、いつものように壁の上で寝ていたら、遠くから、明らかに魔女、という出で立ちの人物が近付いてきた。とんがり帽子にだぶだぶの黒いワンピース。違うのはやたらと短いスカートだった。

 この世界のスカートは皆長い。四朗にとっては懐かしいものだったが、異質だった。

 気にはなったが絡まれても困るから、四朗は寝たふりをしていた。


「やぁ、君がシロ君だね」


 その魔女が四朗の真下に止まると、見上げながら声をかけてきた。とんがり帽子から覗く赤い髪、四朗をじっと見つめる赤い瞳。にこやかな笑みを浮かべた若い魔女だった。

 四朗はこの世界に魔女がいるかなど知らない。だが目の前にいるのは、格好だけは魔女だった。


「ニャ?(なに?)」


 名前を呼ばれた四朗は焦った。何故なら四朗を知っている者など城にいた人間ですら、殆どいないのだ。

 ムクッと起き上がって壁から飛び降りる。万が一逃げるならば壁の上よりは地面の方が逃げやすいからだ。四朗が見上げると彼女も見てきた。


「ニャニャ(魔女でも下着は白いんだな)」


 意図せずとも、ミニスカートに猫の低い視点では自ずと視界に入るのだ。だが猫になった四朗にとっては下着などただの布でしかない。黒い魔女でも下着は白い、ということが気になっただけだ。

 ただ魔女はそうは思わなかったようだ。

 ニヤリと笑うと素早くしゃがみ込み、四朗の首の後ろをムニュッと掴み、持ち上げた。


「おやおや、エッチな猫さんだ」


 自分の顔の高さまで四朗を持ち上げた魔女は、意味深な笑みを浮かべた。

 猫は首の後ろを掴まれると本能的に体が硬直してしまうのだ。だから今の四朗は魔女のなすがままだった。


「ニャニャ(尻尾もない奴に欲情はしねえよ)」


 四朗の抗議にも魔女はニヤニヤとしているだけだ。


「さて、君には私の家に来て貰おうかな」


 魔女はそんな事を呟くと、四朗を掴んだままテクテクと歩き出した。

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