第二話
城津四朗は猫になりたいと願った翌日に、死んだ。暇で仕方がない神様が、偶々その願いを聞き遂げたらしく、おまけの人生をくれた。はれて城津四朗は白い猫「シロ」に生まれ変わったのだ。
彼が生まれ落ちたのは見たこともないお城だった。石造りではあるが芸術性はなく、無骨で質実剛健を地で行く実用一点張りの城だ。要塞という言葉の方がしっくりくる。
そこの中庭で生まれたらしい。らしい、というのは、飼い主である彼女から聞いた話だからだ。
四朗の飼い主はこの城に住む第三王女チェルナという七歳の女の子だ。彼女の名「チェルナ」は黒いという意味だそうだ。
真っ黒なおかっぱ頭でお世辞にも上品とは言えない、よく言えば活発で悪く言えばお転婆な女の子だ。
チェルナには普通の女の子と違う点があった。この子は生まれつき身体が弱い子だった。
この一族は近親婚が多いらしく、いとこ同士で結婚なんて当たり前らしい。必然的に血がこくなれば遺伝子に異常をきたす。また両親が金髪なのに生まれたチェルナが黒い髪だった為に、親からも疎まれた。
変わった子だからと、城に閉じ込められて城外には出たことがないらしい。
「一度でいいから、外に出てみたいのじゃ」
四朗が毎日聞かされる、チェルナの口癖だった。
「ご飯なのじゃ!」
チェルナが小さい手に掴んでガラガラと皿に置いているのは、日本でいうカリカリだ。猫の餌だ。ガラスの透明な皿にカリカリと、それとは別に水が入った皿が置かれる。これが今の四朗のご飯だ。
「ニャ!(頂きます!)」
元が日本人だから挨拶はする。四朗は牙でガリガリとカリカリをかみ砕いていく。最初は抵抗があったが、物は試しと食べてみればクッキーみたいなものだった。慣れれば意外に美味しいと感じてきた。逆に人間の食べ物を貰うと美味しいとは感じなくなっていた。
「ニャー(まぁ、猫だし)」
そんな事よりも四朗にとって、動き回れるという事が嬉しかった。猫だけど。
「美味しいか?」
チェルナがニコッとしゃがんで聞いてくれば、四朗は「ニャー(旨いさ)」と答える。元人間ではあるが、何故言葉が分かるかは四朗も分かっていない。が、所詮猫であるから深くは考えなかった。
四朗が答えればチェルナは、ぱぁっと明るく笑う。四朗はその笑顔が好きだった。
家族には疎まれているチェルナにとって、話し相手や遊び相手は四朗だけだった。兄や姉は彼女を避けていた。黒い髪を異質と感じたのだろう、と四朗は考えている。
チェルナが部屋の隅でこっそり泣いている所を見たこともある。四朗は、せめて自分だけは向き合おうと思った。






