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私の精一杯の

【第86回 二代目フリーワンライ企画】

2019/10/27のお題

壁の落書き

ギャップ

かそう(変換自由)

うやむや

明日は雨になりそう

「明日は雨になりそうだなぁ」

 金曜日、楽しい週末のはずなのに、最近はずっとこう口にしている気がした。

 レースのカーテンをちょっとだけめくって、私は曇天を見上げて吐息をひとつ。


(台風って、こんなに頻繁にくるものだっけ?)


 首を傾げたくもなるけれど、お天道さまのことだから、人間がどうこうできるものでもない。


(こりゃ、明日のパーティーは中止かな)


 自室に入ってすぐに、ラジカセをラジオに切り替えて流しているけど、ニュースの大半は天気の情報だ。近くの台風と、新しい台風と。避難情報もちらほら混じっていて、ここはまだ圏内じゃないとはいえ、明日は警報が出そうな気配。

 ハロウィンパーティーという名目でカラオケ店に集まろうって決まっているけど、まあ仮装をするための口実なだけだし、危険を侵してまでやるものじゃない。


(別に腐るものじゃないし、また来年とかでいいや)


 クロゼットに吊るしてある自分の衣装を思い浮かべながら、そっとカーテンを閉じた。


(ハロウィンと言えば)


 そのまま勉強机の下にしゃがんで、壁の落書きを探す。

 椅子を収納する机下のすぐ脇になるから、頭が支えないようにと床にぺたりと座り込んで頭を下げて。

 壁紙にカラーペンで描いた相合い傘。てっぺんにはハートマーク、まっすぐな線の両脇には『せいじ』『ともみ』の文字。

 消せないわけじゃないけど、ずっとそのままにしてあるのは、もしかしたらいつか叶うかもしれないと僅かな可能性を捨てられないからかもしれない。

 そっと指先で、そのたどたどしい平仮名をなぞってみる。


(あの頃の私は、わがままで征ちゃんを困らせてばかりで)


 ふと、小学校低学年のハロウィンを思い出した。

 ハロウィンの謂れもよく知らないままに、とにかく仮装するものなんだとワクワクしていた私。お母さんに強請って、花嫁さんになりたいからドレスが欲しいなんて駄々をこねて。

 勿論ドレスを買うなんてあるはずはないんだけど、自分で作ったお花の飾りを白いワンピースにいっぱい付けて、征ちゃんと結婚式する!ってゴネたんだった。


(たしかあの時、征ちゃんは狼男コスで、おばさんがフェルトで作った耳と尻尾を付けて、うちに遊びに来てたんだよね)


 自分がどんなことを言ったのかは憶えていないけど、征ちゃんが私に言った言葉なら憶えてるんだから不思議。


「そういう大事なことは、大人になってからね」


 そう言って、代わりにダンスの申し込みをしてくれたその仕草が王子様っぽくて、美女と野獣みたいと喜んで納得した気がする。


(素直に突撃できたのは、十歳くらいまでかなぁ。なんだかんだでうやむやに煙に巻かれて、私からの求婚は本気にしてもらえなかったな)


 壁のハートマークを恨めしげに睨み付けてしまう。

 三つ年上は、未成年の間は大きすぎる年齢差で、飛び越せないハードル。

 いつまで経っても、征ちゃんの中では私は幼いままで、妹みたいな存在で。


「今に見てろ〜」


 ギュッとハートマークの真ん中を人差し指で押す。


「ギャップが大きくて人違いかと思うくらい綺麗な大人の女性になってやるんだから!」


 指を離して、そのまま拳銃の形でバンと撃つ真似をしてみる。

 ポジティブなのが、私の取り柄!


「まだまだ諦めないんだから!」


 そんな風に強がっていないと、帰り道で見掛けた光景に打ちのめされそうだから。

 ――自分の腕に絡みつくようにして歩く女性と談笑する幼馴染の姿に。




お題五つ消化


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