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そばにいさせて

【第74回 二代目フリーワンライ企画】

《お題》

せんせい(変換自由)/行ったり来たりの感情

私と私を罰するもの/舞/「優しい人ね」

20190727参加分

 ひらりと青葉が舞って、それを追うように人影がリルフィの斜め後ろから近付いてきた。


「やあ、こんなところにいたのかい」


 リルフィの最愛の少女に言わせれば「癒し系ボイス」ならしいが、長年毎日のように聞いている身としては、なんともコメントに困る。

 ひとり物思いにふけりすぎていたらしく、反応が鈍くなってしまった。「失礼」との言葉と同時にすぐ隣に腰を下ろされて、まるで先制攻撃を食らったかのようにリルフィの口元が歪む。

 真っ白な長衣が下草の上に広がり、ドレープが波のようにさざめく。


「汚れても知らないから」


 その様子に見とれそうになってしまった自分を戒めるように、リルフィはふいと顔をそらした。

 隣の青年は、わずかに目を見張ると薄い唇をほころばせて前に視線を戻す。

 ふたりがいるのは、唯一にして至高であるお方の住まう宮のはずれの森の中。特にこれといった見どころがあるわけでもない、ある大木の根元だ。

 リルフィは、落ち込むことや嫌なことがあるとよくここに来る。そしてそのことを青年も知っている。――本当は、ひとりでいたくないことも。


(なんでこいつが来ちゃうかなあ)


 いつもはぽんぽん出てくる憎まれ口も今日は鳴りを潜め、青年はそのことに驚きを隠せない。


「心配しなくても、彼はあの子のことを全力で守るだろうよ」

「そんなの、わかんないじゃない」


 最愛の少女を愛している青年は、当然守ろうと手を尽くすだろう。今世では特別な力を持ってはいないけれど、財力と権力は得ている。そこは問題じゃないのだ。

 行ったり来たりの感情の種類は、口にしてしまえば簡単だ。


「お金も、上流の暮らしも、あの子は望んでいない」

「そうだろうね」

「両親だって、平凡な暮らしを望んでる」

「そんな感じだね」


 まっすぐ真ん前を向いたまま淡々と言葉を発するリルフィに、青年はただ相槌を打つ。


「きらびやかな世界は、気後れするって、言ってたのに」

「うん」

「なのに、選んじゃった……」


 こみあげるものを我慢して、金のまつげを瞬かせると、下まつげに小さな水滴が残った。


(それが、あの子の選択。私は、あの子の幸せを守るためだけにいるのに)


 もういらなくなったなんて、少女は絶対に言わないだろう。きっとずっとリルフィが傍にいるのが当然で自然なことだと信じ切っているだろう。

 隣の青年との仲を取り持とうとしたりはしたけれど、リルフィと離れる未来なんて予想もしていないに違いない。


(嫉妬、でしかない)


 自分で自分が嫌になる。


「きみがどんなに鬱陶しがっても」


 とん、と触れるだけのささやかさで、青年がリルフィーの背を叩いた。


「わたしはずっときみを追い続けるよ」


(全くこの人は)


 ぶれない青年に、やはり視線をやることもなくリルフィーは言葉を投げる。


「とんだストーカーね」

「まったくだね」


 そう答える青年の声が嬉しそうなことに、ちょっぴり安心してしまったのが悔しい。



   了


――オチというには弱くて申し訳ないです。時間切れ(涙)


3つ消化

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