理由がないと。
【第81回フリーワンライ】
《お題》
奪われても尚綺麗なままで/
雨宿り/お人形みたい/唇伝うは、甘い唾液/
微睡む瞳に落ちる温もり
「お人形みたいだね」
あなたは微笑んで私の髪を指ですき、左耳に掛けた。
足を崩して畳に座っている私の前に肘をついて寝転ぶ、細められた眼差しはプラスチックに遮られて、少し色素の薄い瞳は記憶から引き出された幻。
あなたと私の間には、勝負の名残であるカードが散らばり、引かれるままに体勢を崩した私は、ゆっくりとそれらを覆い隠す。
最初から、勝負になんてならないことは分かっていた。
「勝った方のいうコトを何でも聞く」
ありふれた口実。
きっかけがなければ、先に進めないあなたと私の、精一杯の戯言。
「キスして」
次第に足を弱めている雨音にもかき消されそうなほど、細やかな声は震えていた。
返事の代わりに、私は上半身を倒していく。
角度を気にしながらの口付けは、酷い背徳感に包まれていた。
そっと押し付け離れようとしたところを、開いた唇に捕らえられる。掴まれたままの腕を更に引かれて、体が重なった。
何もかもに、必要とされる理由。
雨宿りなんて、ぽつぽつの状態が続いているだけで、必要じゃなかったはずなのに。
やむまでの暇つぶしに、広げられたトランプ。
ふたりの唇伝うは、甘い唾液。
何度も何度もついばんでは離れ、あまがみされてはしゃぶられて、私の唇はきっとふやけてぷっくらしてる。
私からが欲しいって言ったくせに、結局あなたが手綱を握るのね。
「やむまでは、いさせてね」
ワンルームのあなたの城で、私たちは枯れ葉のように重なる。
しっとりと、腐葉土になれたらいいのに。
トクトクと感じる鼓動が、どちらのものかなら、すでに判らないくらいなのに。
微睡む瞳に落ちる温もりが優しくて切なくて。私は家族の元に帰れなくなる。
ねえ、あなた。
あなたの欠片だけ私にちょうだい。
奪われても尚綺麗なままでいるあなたを、ずっと見ているわ。
了