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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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914/917

◆その911 王位

 扉の前に現れる一人の女。

 扉の警備にあたる兵が緊張を見せる。


「父上、お呼びでしょうか」


 法王国のクルスの私室に訪れたのは、法王クルスの娘――聖騎士団副団長クリスだった。

 しかし、父クルスからの返事はない。

 扉を開けたのは――、


「っ! セリス(、、、)お兄様……!」


 金色の髪、若き日のクルスに似た端正な顔立ち、文武に優れ、ゲバン亡き法王国を支える王位継承権第一位であるクリスの異母兄弟――セリス・ライズ・バーリントン。


「クリス、お前も呼ばれたか。グラントではなく……」


 室内を見れば、背を向けるクルスの他にはセリスとクリスしかいない。セリスの実弟であるグラントの姿はない。

 異なる母を持つ二人は視線を交わし、困惑を顔に浮かべる。

 部屋に入り、クルスの後ろに立った二人は、その反応を待った。

 クルスは二人に背を向けている。

 しかし、何やら俯き、額に手を置き集中しているようにも見える。


(……もしかして父上、ミケラルド様と【テレパシー】を?)


 本来であればミナジリ共和国から譲渡された【テレフォン】を使用するはず。しかし、敢えて【テレパシー】という選択をとっているのはミケラルドの都合以上にクルスの都合が絡んでいた。


「……ふぅ」


 ホッと一息吐いたクルスが振り返ると、二人の顔に緊張が走る。

 普段のクルスから想像が出来ない程の疲弊感……否、それ以上に、そこには覚悟を決めた王の姿があったのだ。


「悪い、待たせたな。ミックに頼み事があったのでな」

(やはり、【テレパシー】をミケラルド様に持ちかけたのは父上……)


 クリスは勿論、セリスもそれに気付いていた。


「時間がない。簡潔に説明させてもらう」

「「はい」」

「まずセリス、お前はミナジリ共和国にある法王国大使館へ行け」

「……かしこまりました」


 クルスの命令、それが何を意味するのか。

 それはクルスの血を受け、その背を見てきた二人にはすぐに理解出来た。

 クルスは自身の身に何か起きた場合に備え、いざという時の法王国の指揮官をセリスと定めたのだ。


「クリス」

「はい!」

「グラントと共に、ミナジリが保有する【魔導艇】への乗船を命じる」

「「なっ!?」」


 その命令に、クリスとセリスは視線を交わす。

 クリスは確かに【魔導艇】への乗船を命じられていた。しかし、当然それは法王国に貸し与えられた【魔導艇】への乗船だ。

 だが、法王クルスはクリスに他国の【魔導艇】に乗船させようとしているのだ。二人が驚かない訳がない。

 最初に口を開いたのは政治に明るいセリスだった。


「父上……それはつまり……」


 しかし、全てを言えない。

 それだけ、クルスの言葉はセリス自身にとって重いものだった。


「セリス、お前は王位継承権一位。つまりは次代の法王だ。政治的観点から見れば、お前は私の予備(スペア)……わかるな?」

「はっ」


 クルスが私情を捨て、子に対し酷な言葉を言うも、セリスはそれを受け入れた。そう言わざるを得ないからだ。


「長く続く法王の血を絶やす事は世界にとって大きな損失。……であれば、その対策をするのも私やお前たちの仕事だ」

「存じております」

「だからこその采配だ」

「……っ」


 セリスの身体が震える。

 法王クルスが王の道を誤った事などない。

 クリスへの命令が意味する事は、セリスを死の恐怖へと追い込んだ。

 それを見たクリスがようやく口を開く。


「父上……では私は――」


 だが、クルスはクリスにそれを言わせなかった。


「――クリス、お前は……セリスの予備(スペア)。これが意味する事はわかるな?」


 まだ若き愛娘の口からソレを言わせる事が、どれだけ酷な事かわかっていたからだ。


「――っ!」


 そう、クルスは我が身どころか、王位継承権第一位のセリスさえも命を落とす可能性を視野に入れて動き、ミナジリ共和国に頭を下げたのだ。

 セリスはこれを理解したからこそ、自身に迫る死に向き合い

 震えていたのだ。


「…………法王国の【魔導艇】へは?」


 クリスが絞り出した質問は、父と同じく私情を挟まない王の道。(すなわ)ち現状の確認である。


「ライゼンを乗せる。聖騎士団を率いるのはオルグだ」


 副団長でさえも知らなかった新たな人事。

 聖騎士団を辞めたオルグを聖騎士団に据える。

 それでも、老いたライゼン以上の働きは確実である。

 かつて、世界の頂点に君臨していた法王国がなりふり構っていられない状況。

 そんな状況を理解したからこそ、クリスとセリスは何も言えなかったのだ。


「……用件は以上だ。下がりなさい」


 最後にそう言ったクルスの顔は、見る事が出来なかった。

 別れになるかもしれない最後の命令(ことば)

 父として振る舞えない王の道を後悔する父の顔など、二人には見る事は出来なかった。

 静かに閉められる扉。

 クルスは、俯き、小さく嗚咽を漏らす事しか出来なかった。

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