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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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その906 聖女の在り方

 ◇◆◇ ナタリーの場合 ◆◇◆


「あ、そ、そうです、その魔力コントロールならすぐに【聖加護】を使いこなせるようになりますよ! ……うん!」


 アリスちゃんの反応がぎこちないような気がする。

 考えてみれば当然かもしれない。

 聖女であるアリスちゃんの前に、いきなりもう一人の聖女が現れたのだ。動揺しないはずがない。

 それに……、


「ごめんね、アリスちゃん」

「え、え? 何でナタリーさんが謝るんですかっ?」

「だって魔王復活直前にこんな事になって……アリスちゃんもやりたい事があるだろうし……」


 そう、魔王復活までもう時間がない。

 本当なら、こんな事をやっている暇はないのに……。


「いいえ、そんな事ありません」


 なのに、アリスちゃんはそれを否定してきた。


「な、何で……?」

「こんな時だからこそです……!」


 そう言ったアリスちゃんの顔は、何だかとても嬉しそうに見えた。


「知っての通り、私はミケラルドさんと共に、魔王と正面から対峙します。でも、後方にナタリーさんがいるとわかれば……安心して戦えると思うんです」

「え?」

「だって……ナタリーさんが【聖加護】のコントロールを優先してるんですから」

「……っ!」

「使うつもりなんですよね……この力」


 それは、確信に満ちた瞳だった。

 気付いている、アリスちゃんは。


「……うん、必要だから」


 そう言うと、アリスちゃんは屈託のない笑顔を見せてくれた。

 そして言うんだ。


「私もそう思います」


 アリスちゃんの大切な時間を奪ってしまう。そう考えてた私が馬鹿らしく思える程に、意気込んでいるのだ。

 アリスちゃんが私の両手を握る。


「ナタリーさんのこの力があるなら、私はこころおきなく……!」


 全てを言わず、全てを教えてくれた。

 やはり、アリスちゃんの危惧は後方のダメージ。

 彼女は世界を守る聖女。

 けれど、いざパーティ戦となれば、彼女の役目はパーティの支援へと変わる。

 その際、魔族の侵攻を止めるべく動いている人類には……当然【聖加護】は届かない。


 ――その役目を、彼女は私に託したんだ。


「……うん、わかった」


 私は一つ頷き、彼女の願いを受け入れた。


「それじゃあ広域に渡る【聖加護】の説明をしますね」

「ううん、それは大丈夫」

「え……で、でも」

「残り約五十時間。このタイミングから【聖加護】の広域範囲指定のコントロールは現実味がないと思うの。アリスちゃんにも、それがどれだけ難しいかわかるでしょ?」

「うっ……そ、それはそうですけど……」


 ミックがかつてリプトゥアとの戦争で使った範囲型の【聖加護】。あのレベルの魔力コントロールは今の私では不可能。

 アリスちゃんだって、ここ最近になって可能になったという話だ。

 であれば、後発の聖女である私が、たった五十時間でそれを可能に出来るというのは、夢を見すぎとも言える。


「……だから」

「だから?」

「可能な限り、一点集中の【聖加護】コントロールを」


 そう言うと、アリスちゃんはポカンと口を開けてしまう。

 しかし、私の意図に気付いてか気付かずか……、


「は、はい、わかりましたっ!」


 更に気合いを込めて返事をしてくれたのだった。



 ◇◆◇ アリスの場合 ◆◇◆


 一点集中の【聖加護】。

 私はこれを会得するのに一年以上の時間を費やした。

 でも、ミケラルドさんに出会い、パーティを供にすると、それまでの苦労がどこへ行ったのか……そのコントロールは円滑になっていった。

 ナタリーさんは次世代の聖女。

 初めて【聖加護】を使う彼女が、まさかいきなりここまで使えるようになるなんて。

 ……ううん、違う。

 ナタリーさんは既にミケラルドさんと出会った時の私より強く、逞しい。

 おそらく、ミケラルドさんが言ってた天恵の……シ、システム。私のコントロールは、肉体と魔力が追いついていなかっただけじゃなく、人類への愛情が原因だったのが大きいけど。

 ナタリーさんは、この世界に生まれたばかりのミケラルドさんとずっと一緒だったらしい。

 だとすれば、彼女がこれ程早く【聖加護】を使える理由も納得というものだ。

 そう、つまりは彼と触れ合えば触れ合う程に。

 い、いや……実際に触れ合うんじゃないけど……!


「どうしたのアリスちゃん? 顔ぶんぶん振っちゃって?」


 あどけないナタリーさんの質問は、私の心を正確に(えぐ)った。


「い、いえ!」

「あ、ミックの事でも考えてたんでしょ?」


 ずばりというか、ずぶりというか、正確無比の一撃(ひとこと)だった。


「わかるなー、その気持ち」

「な、何がですかっ」

「ミックってさ」

「ミケラルドさんって?」

「頭の中の出現率高いよね」

「あ、それわかります!」


 あまりの納得に、私は立ち上がって言ってしまった。


「そういう時ってさ、無駄に爽やかな笑顔浮かべてるんだよね」

「そう! そうなんです! あの胡散(うさん)臭い笑みを浮かべて!」

「でも、そういう時に限って悩みが解決しちゃったりするよね」

「うっ……ふ、不本意ながら……!」

「それで、今回の悩みは?」

「こ、今回は悩みとかじゃなくて」

「悩みとかじゃなくて?」

「……そ、その……も、もっと早くにミケラルドさんに会ってたらどうなってたんだろう……って……うん」

「ふ~ん」


 な、何だろう。

 ナタリーさんの視線が鋭くなったような?


「それって、【聖加護】とか魔力コントロールの話だよね?」


 念を押すように聞いて来る。


「え、え?」

「もっと早くミックに会ってたら、もっと成長も早かっただろうって言ってるんだよね?」


 確認するように、何度も。

 何だか、ナタリーさんが怖いような……。


「そ、そうですっ、その通りです!」

「ふーん……ならいっか」


 何がいいんでしょうか……。


「それで、このコントロールの肝は強い気持ちって事でいいんだよね?」

「えぇ、大切な人たちを守りたい気持ちを強く念じるのが重要だと思います」

「人たち?」


 言いながら、ナタリーさんは物凄い【聖加護】コントロールを見せた。


「え?」

人たち(、、、)じゃなくて、()じゃ駄目だった?」

「あ、いえ……出来てるならいいんですけど……凄い力ですね」

「うん、気持ちなら誰にも負けないからねっ!」


 そう言ったナタリーさんは、嬉しそうで、少し気恥ずかしそうだった。

 でも、その笑顔は……誰がどう見ても聖女と言えたのではないだろうか。

 でも――、


「負けないからね」


 最後の言葉が……とても引っかかったのは気のせいでしょうか。

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