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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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◆その894 異変1

 神々しい光が皆を照らす中、ミケラルドが言った。


「お見事でした、やはり目を引くのはリィたんとエメリーさんの高火力」

「ふふん、最早(もはや)雷龍(シュリ)にも遅れはとらないぞっ!」


 リィたんが胸を張り、


「へへ、褒められちゃった……」


 エメリーは気恥ずかしそうである。


「この二人を火力を最大限維持出来るように、ハンさんとレミリアさんが全力で遊撃。いや目を見張りました」

「フへへへ……大将に認められたって感じがすんな」


 疲労からか、肩を落としながらもハンが喜び、


「訓練の成果が出たという事でしょう」


 自身の成長を確かめるように、震える拳を握るレミリア。


「背後からはナタリー、メアリィさん、キッカさん、アリスさんが、各々の魔法発動時間を考慮し、誰が誰にどの援護魔法を放つのか、それを各自で判断出来たのは素晴らしい。この二週間で全員が成長したというのに、この最終階層までにその成長した速度に調整出来たのは、やはり皆さんも成長出来たという事でしょうね」

「ふふふ、もっと褒めていいんだよー?」


 ナタリーが照れ隠すように言い、


「これも花嫁修業みたいなものですからっ!」


 メアリィが鼻息荒く言い、


「なははは、やっぱこの装備が優秀だからだよねぇ?」


 キッカはアリスにその同意を得るように言った。

 しかしアリスは口を噤んだまま。

 するとミケラルドがフォローするように言う。


「確かにそれもあるかもしれませんが、やはり実力ですよ。今回は、特にラッツさんとクレアさんの動きが秀逸でしたかね」


 ミケラルドがちらりと二人に目をやるも、ラッツは既に扉の前まで移動し、クレアはメアリィの下へ走っていた。


「流石ですねぇ」

「そういえばミック」


 ナタリーがミケラルドに聞く。


「何?」

「ミックって多分、この先に行けないんだよね?」


 扉を指差し言うナタリーに、ミケラルドは「ふむ」とだけ零す。


(扉を開けた瞬間、外まで転移? 皆が話し終えるまで別部屋待機? もしや別部屋には綺麗なお姉さんが沢山いて、俺の努力を労ってくれるとか?)

『ふふふ、どれも違います』

「「っ!?」」


 最終階層に響いた声。

 白い(そら)を見上げるも、皆にその答えは提示されなかった。皆が緊張の面持(おもも)ちで視線を戻すと、そこには別の答えが待っていた。


「え……ミック……!?」


 ナタリーが見渡すも、リィたんが見渡すも、ミケラルドの姿はどこにもなかったのだ。


「ちょっとちょっと! ミケラルドさん消えちゃったじゃんっ!?」


 キッカの言葉がなくとも、皆気付いていた。

 キッカもただ自分の言葉を、現実を確かめるように言ったのだ。


「ミケラルド……さん……」


 再び天を見上げるアリス。

 ――皆、わかっているのだ。

 ミケラルドの消失。これが何者の仕業であるかを。

 しかし、それを口にしない。答えは既に、扉の先にあるのだから。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「え~……仲間外れかよ……」


 ぽつりと零すミケラルド。


「しかもここは……」


 見渡せば、過去霊龍と会った宇宙空間に酷似している。


「……さっきのは霊龍の声。外には出されず……『どれも違う』と、いう事は……え、もしかしてもしかします?」


 直後、ミケラルドの背後に白く揺らめく存在が出現する。


「久しぶりですねぇ」

「えぇ、お久しぶりです」


 背中で聞く霊龍の声は、かつてミケラルドが聞いた声ではなかった。


「あれぇ? もしかして人型に変態されてます?」

「その目で確かめてはいかがでしょうか?」

「えぇ、そのつもり――――です!」


 ミケラルドがかつて見せた事のない動き。

 振り向きざまに闇魔法【ゾーン】を使い、宙を蹴り、幾つもの【ゾーン】の出口から、幾人もの分裂体(ミケラルド)が現れ、高圧縮した魔力破を放ったのだ。

 その全ては霊龍の魔力障壁に簡単に防がれるも、ミケラルドの本体は正面(そこ)にない。


「後ろ、ですか」

「そうだよ!」

「ですが、攻撃は下からですね」


 ミケラルド本体が更に圧縮した魔力破を放ち、それを【ゾーン】へ通し、霊龍の足下に置いた出口の【ゾーン】へと出す。

 霊龍はその全てを見抜いていた。

 だが――、


「っ!?」


【ゾーン】から出てきたのは、魔力破ではなく……風。

 ふわりと舞い上がる霊龍のスカート。

 嬉しそうに頬を緩め、スカートの中を見ながら「ほんほん」と頷くミケラルド。


「なるほど、むらさき……ムラサキ……紫ですか。なるほど」


 舞い降りるスカートとキョトンと小首を傾げる霊龍。

 透き通るような白い身体に纏う薄紫色のAラインドレス。

 腰まで伸びた銀髪を靡かせ、大きな水色の瞳でミケラルドを見る。


「今の攻撃に一体何の意味が……?」

「意味? 私の目的を完遂するため……としか」

「……つまり、今のミケラルドさんの攻撃には、私の下着を見るといった目的が?」

「それ以外に何が?」

「その目的には一体どんな意図が?」

「おやおや? 今日は立場が逆ですねぇ? 質問ばっかじゃないですかー」


 ニヤニヤと嬉しそうなミケラルド。

 してやったりといった表情に、霊龍は一瞬眉を(ひそ)める。


「人型になると表情が読みやすくなりますね」

「私が何もしないからと、自由が過ぎるのではありませんか?」

「何を仰る。既に異常事態ですよ」

「…………」


 そう、ミケラルドと霊龍はもうここで言葉をかわす事はなかった。霊龍がそう示し、ミケラルドも了承した話を、霊龍自ら覆したのだから。


「この異変、一体どういう事です?」


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