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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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その888 史上初の侵入1

「ミケラルドさん……情報と違うんですけど……?」


 そう俺に聞いてきたのは聖女アリスだった。

 第一階層――ミスリルで覆われた通路があり、突き当りにある転移装置付近の壁の中に隠し部屋がある。そこにある精霊樹のミスリル像に適量の魔力を注ぎ込めば、転移装置が稼働するというギミックがある。

 これが俺が冒険者ギルドに提出した報告書に記載した内容の要点である。そしてそれは、当然ながらオリハルコンズメンバー全員に共有してもらっている。

 今回、アリスが言った情報の齟齬は……、


「一面……石の通路……だよね?」


 キッカの指摘が正にソレである。


「ミック、これって……」

「あぁ、霊龍め……通路の予算をケチってきたな?」


 俺はナタリーの質問に答えつつ霊龍を卑下すると、勇者エメリーが苦笑し、アリスが顔を引き攣らせた。


「も、もう少し言い方というものがあるかと……」

「もしくは――」

「――え?」

「世界的に見て、ミスリル自体が少なくなってしまったのかもしれないですね」

「それは……由々しき事態ですね」


 霊龍は世界のどこかにある鉱物を、ダンジョンの報酬にしている。これは確実である。

 しかし、それが事実である以上、世界の鉱物は有限なのだ。

 俺が霊龍対策をしているように、霊龍もミケラルド対策を始めたのかもしれない。

 そんなくだらない事を考えていると、リィたんがまるで俺の考えを見透かしたようにくすりと笑った。


「ふっ、霊龍に一目置かれているのだ。もっと誇っていいと思うぞ?」

「いやぁ、一目というか遠目から引き気味に見られてる感じだろう?」

「ふふ、尚注目されているという事だ」


 ある意味、霊龍に対し一矢報いたという事だろうか。

 これからも霊龍にはそこそこのプレッシャーをかけていきたいと誓うミケラルド君だった。

 しばらく歩いていると、先頭のラッツが足を止めた。

 ハンが目を細めると、そこには転移装置……そして、石の通路の壁がミスリル色に染まっている箇所があった。


「おいおい……あれ、隠す気ないだろ……」


 ハンですらそう零した、この上なく目立った隠し部屋。

 霊龍の手抜きに人間味を感じてしまうのは俺だけだろうか。

 そう思いながらアリスを見ると、とても渋い表情をしていた。


「アリスさんの中ではそんなに霊龍は神格化してるんです?」


 俺が聞くと、アリスはなんとも言えない様子で答えた。


「ミケラルドさんがもたらしたダンジョン攻略情報が、細かすぎるが故だと私は思いますけどね」


 霊龍の日曜大工感溢れるダンジョン形成はミケラルドのせいである。そう答えたようにも聞こえた。というか、アリスはそう言い切っていると言っても過言ではない。


「ふん!」


 ラッツがミスリルの壁を切断し、警戒しつつ隠し部屋に入る。


「それじゃアリスさん、お仕事です」

「わ、わかってますっ」


 本来、隠し部屋中央にある精霊樹のミスリル像に魔力を注ぎ込めば、その魔力を流用してミスリルゴーレムが誕生する。

 しかし、俺は以前、ミスリルゴーレムを破壊した後、転移装置に流れる魔力を見逃さなかった。

 そのミスリルゴーレムが死んだ後に流れる残留魔力を模倣出来れば、ミスリル像に魔力を流すのではなく、直接転移装置に魔力を流す事で起動出来るはず……と考えたのだ。

 結果は――、


「凄い……本当に微量の魔力で転移装置が稼働しました……」


 クレアの称賛は確実に俺に向けられている。

 だが、本当に凄いのは微細な魔力コントロールを正確に成し遂げた聖女アリスである。

 本来、ここではSSS(トリプル)の魔法士クラスの魔力が必要である。しかし、それを極限まで省エネ出来たのはダンジョンを攻略するパーティにとって、非常に有難い能力だ。


「お疲れ様です」

「え、あ……はい。いえ、ちゃんと出来たようで良かったです」


 俺の労いに驚いたのか、アリスは不服そうな表情を作る間もなく応じた。不意を衝かれた美少女もなかなか良いもんだと考えるおっさんは、気配を消しつつ転移装置に乗った。

 そう、今回の俺は立会人(オブザーバー)

 皆に対しての援護はない。俺抜きのオリハルコンズで霊龍の下まで行かなければならない。

 シェルフのSSS(トリプル)ダンジョン二階層は、SS(ダブル)ダンジョンまでのモンスターの同窓会である。

 当然、そこには各ダンジョンのボスも含まれるのだ。

 気配を絶ち、二階層の入り口で待っていると、戦闘準備を終えたオリハルコンズメンバーが次々と転移してきた。

 勇者エメリーが剣を掲げ叫ぶ。


「勇剣、烈火っ!!」


 俺と戦った時とは比べ物にならない威力の剣撃が第二階層を揺らす。


「へぇ、全モンスターを入口まで呼ぶ気か……」


 オリハルコンズがとった作戦は、稼働しない入口を背にした背水の陣。

 エメリー、リィたんを主軸に、両翼にラッツとレミリア。

 内にハンとクレアが構え、その後方にナタリーとメアリィ。

 最後方にアリスとキッカを置き、この堅陣を崩すのは雷龍(シュリ)でも難しいだろう。


「キィイイイイアアアアアアアアッ!!!!!!」


 オリハルコンズを発見したリンクモンキーが絶叫をあげる。

 間もなく、この発信源に全てのモンスターが集まってくるだろう。

 しかし、皆の顔には自信があった。余裕すら垣間見える程の。俺は静かに皆の成長を喜び、拳を握った。

 頑張れ、オリハルコンズ……!

 チアのコスチュームでも用意しとくんだったと後悔するミケラルド君だった。

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