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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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その887 精鋭

 俺たちは、その後すぐにシェルフのSSS(トリプル)ダンジョン前へ転移した。

 別にダンジョン前にテレポートポイントを設置した訳ではない。ダンジョン前へ先に向かっていた剣聖レミリアがテレポートポイントを所持していただけに過ぎない。


ミケラルドさん(、、、、、、、)、お待ちしてました」


 レミリアが軽く会釈をする。

 そう、今レミリアは俺の部下ではない。

 竜騎士団の副団長の立場は横に置き、オリハルコンズのメンバーとしてここで待っていたのだ。


「良い感じで気力が満ちてますね」

「はい……この短期間で詰め込めるだけ詰め込んだつもりです」

「はははは、ジェイルさん(、、、、、、)シギュン(、、、、)を相手によくやってたと思いますよ」

「むぅ……」


 対象の名が出たからか、レミリアは難しい表情を浮かべた。

 それもそのはずで、ジェイルはともかくシギュンは元闇ギルドの最高幹部の一人。ガッチガチの殺意を毎日浴びていたのだ、苦手意識が出ないはずがない。


「うぇ!? レミリアってばシギュンとやってたの!?」


 俺の後から転移してきたキッカが聞く。


「今はあまり思い出したくないの……ごめんね」

「あ、あははは……重症だね」


 レミリアを指差しながら俺に聞くキッカ。

 とりあえず満面の笑みを返しておく。


「ここが……SSS(トリプル)ダンジョンか」


 ダンジョン入口を神妙な面持ちで見上げるハン。


「冒険者が臨む最高峰のダンジョン……」


 ラッツの表情にも緊張が見て取れる。

 まぁ、それ以上に緊張しているのはクレア……だろうな。いつも以上にそわそわしている。

 だが、クレアの(あるじ)様は相変わらず肝が()わっているご様子。


「大丈夫だよ、クレア」

「メアリィ様……」

「ん」


 メアリィが小さな拳をちょこんと前に置く。

 すると、クレアはキョトンとした後、ピンと背筋(せすじ)を伸ばした。


「は、はい!」

「ふふふ」


 そんなメアリィの後ろでは、ナタリーがじっとSSS(トリプル)ダンジョン攻略本とにらめっこしている。


「むぅ……やっぱり二階層が鬼門だよね」

「これまでのダンジョン全てのモンスターが出るからな。最初の難関といったところだろう」


魔槍(まそう)ミリー】をドンと置き、ナタリーの持つ攻略本を覗き込むリィたん。

 俺の後方では、ダンジョンの全景を捉え、額に指をトンと置く勇者エメリー。


「えーっと……一階層は魔力偽装が出来ればミスリルゴーレムと戦わなくていいんだっけ?」

「それは私がやります。ミケラルドさんに教えてもらいましたから。不本意ながら……」


 エメリーの隣には口をへの字(、、、)にしながら俺を見つめる聖女アリスさん。

 しかし、結構ツメツメで仕込んだけど皆すっかり精鋭だなぁ。正直、ここまで伸びるとは思わなかった。

 まぁ、あの魔王の尖兵が現れなければここまで入念に動くという事はなかっただろう。

 だが、あれが一兵卒レベルだとしたら今のオリハルコンズが最低ライン。

 イヅナやオベイルは勿論、法王クルスや総括ギルドマスターのアーダインたちも最終調整へ入った。

 魔王が復活するまでに俺が出来る事は残り少ない。

 正直、優先順位というものがなければ一生準備していたい気分だが、勇者エメリーは既に覚醒した。じきに魔王は世界の承認を得るかのように復活するだろう。

 おそらく……俺の期待を大きく裏切るような強力な戦力を持って…………。


「はぁ……」


 この深いため息を拾ったのか、ナタリーが俺の顔を覗き込んできた。


「まーた変な事考えてるんでしょ」

「イヤらしい事じゃないよ」

「わかってるよ。その顔は不安と不満……でしょ?」

「さすがナタリー」

「今日は立会人(オブザーバー)でも、誰一人として死んじゃいけないんだからね。しっかりしてよ」


 言いながらナタリーは俺の腹部にポンと拳を置いた。


「……っ」

「え? ごめん、ちょっと強すぎた?」

「あ? いや、別に大丈夫……大丈夫……?」

「ふーん、そう? それならいいんだけど」


 そう言うと、ナタリーはキッカに呼ばれてこの場を離れて行った。

 何だ、今の? ただのナタリーのスキンシップ……それだけのはずなのに……?

 ほんの少しの違和感。しかし、今はそれを気にしている場合ではなかった。

 皆が俺を見る。

 俺の指示を待っているのだ。


「ミック」


 リィたんが言う。


「景気づけだ、久しぶりにアレ(、、)を頼む」

「アレ?」

「忘れたのか? 六人でリプトゥア国とやりあった時に頼んだアレだ」

「リプトゥア国と……――?」


 ――我らを信用してくれている事は有難く思う。

 ――藪から棒だね。

 ――だが、たまには私にも甘えさせろ。

 ――……何だい?

 ――我らにも鼓舞を。


「あー……アレね」


 そういえばそんな事もしたなと思い出しつつ、リィたんの顔を見る。

 どうもリィたんの表情を見るに、彼女にとっては色濃い記憶らしい。なるほど、この面子の前で鼓舞しろと? それは中々に無茶ぶりが過ぎるというものだろう、リィたん。

 がしかし、アレを知らない皆の興味の視線と、アレを知ってるレミリアとエメリー……そしてリィたんの期待の視線がとても突き刺さる。まぁ、恥ずかしさは突き抜けてるんだけどな。


「そ、それじゃあ一発かましますか」

「「おぉ!」」


 リィたんとエメリーはとても嬉しそうである。

 どことなくレミリアも嬉しそうなのは気のせいだろうか。


「コ、コホン」


 前置きの咳払いは最重要アクセントである。

 ……アリスの視線が痛い。『また変な事を言い出すつもりでしょう?』という視線が……とても。

 ……はぁ、仕方ない。首を(くく)る訳でもない。腹くらい括るか。


「……本日! 我々オリハルコンズは、過去のどの冒険者もたどり着けなかったSSS(トリプル)ダンジョンを攻略する(、、、、)! これは挑戦ではない! 完全攻略は決定事項である! 目的はただ一つ!!」


 皆の顔に緊張が走る。


「霊龍の全てを暴き!」


 大多数の顔が引き()る。


「霊龍の全てを否定し!」


 ぽかんと口を開ける方が多数。


「この世の理不尽を司る霊龍に言ってやるのだ! 『どうだ、これで満足か!?』と! オリハルコンズのリーダーとして私は……俺は言ってやる! 絶対言ってやる! 『クソッタレ!!』と!」


 俺が満足した様子ですんと鼻息を吐くと共に、アリスが頭を抱えだした。


「せ、世界がミケラルドさんのせいで崩壊するかもしれません……!」


 震えながら、


「しかも、オリハルコンズの連帯責任にするつもりです、あの吸血鬼……!」


 そんなアリスの言葉を背に、俺は皆に言った。


「いざ、出陣!」


 しかし、返答は誰一人としてしてくれなかった。

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