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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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888/917

◆その885 オリハルコンズの再会2

「うわぁ……すごい……」


 メアリィがそう零すのも無理はなかった。

 アリスが持つ【聖杖(せいじょう)アリス】には、光のエンチャントの他、アリスを凌ぐような聖加護が宿っていたのだ。


「それって【聖加護】……ですよね? そんなに付与できるものなんですか……?」

「えぇっと……私もよくわからないんですよね……」


 メアリィの問いに、アリスが困惑しながら答える。

 すると、奥から現れたナタリーが補足するように言ったのだ。


「ミックが言うには、『どうやら俺の【聖加護】とアリスさんの【聖加護】には大きな違いがあるみたい』だって」

「ナタリーさん、お久しぶりです」

「うんうん、久しぶりー」


 微笑み小さく手を振るナタリーが(まと)う魔力もまた、別人のかのようだった。その魔力は以前のアリスをも彷彿(ほうふつ)させるような高濃度に圧縮したもの。

 これを受け、目を見開いたアリスだったが、先の話の続きの方がアリスは気になったようだ。


「えっと、さっきのってどういう意味です?」

「んー……何かね? 『設定されてるのが【別枠】なんだ』とか『天恵枠の【聖加護】、特殊条件取得枠の【聖加護】。これを分ける事によって魔族へのダメージ倍率が変わるんだ』とか……私もよくわからなかったんだよね」


 肩を(すく)めるナタリーに、アリスも小首を傾げる。


「あ、でも決まって最後には『ホント性格悪いよな、霊龍って』って私に言ってきたよ」


 ナタリーは苦笑するも、アリスは立場的に何も返答出来なかった。


「そこからはいつものミックだったよ。ブツブツ言いながら自分の分裂体に【聖加護】を打ち込んでた」


 けらけらと笑うナタリーを見て、メアリィもクレアも釣られるように笑った。ただ一人、アリスだけは苦笑に追い込まれてた。

 直後、奥からリィたんがやって来る。


「ある時を境に、ミックは変わった」

「リィたんさん! ……え?」


 アリスは嬉しそうに顔を綻ばせ……しかし、若干引き気味にリィたんを見た。


「す、凄い格好ですね……リィたんさん」


 リィたんの衣服はボロボロで、つい先程まで訓練を続けていたかのように傷だらけだったのだ。

 アリスの言葉に同調するかのように、ナタリーが言う。


「そうなのよ! 皆の目もあるし、奥で回復がてら着替えてもらおうとしてたんだけど……ちょっとハン! キッカ、止めて!」


 下着すら見え隠れするリィたんの姿。これに鼻の下を伸ばしたハンを指差し、ナタリーに言われる前にキッカが動く。ハンの顎下に跳び膝蹴りをかましたキッカは、流れるように後頭部へ延髄蹴りもかます。


「ぐぉ!?」

「回復魔法を使いながら蹴ったからそんなにダメージはないはずよ」


 (まさ)にキッカの飴と鞭である。

 ハンがキッカの説教を頂戴している中、アリスはリィたんに向き直る。


「リィたんさん、ミケラルドさんが変わったって……?」

「うむ、ミックはいつの間にか二つの【聖加護】を使いこなしていたんだ」

「っ! そ、それって私の【聖加護】って事ですかっ?」

「ミックが言うにはそうではないらしい。先程ナタリーが言ってた【ダメージ倍率】なるものを解析し、独自にそれを引き上げたとか言ってたな」

「そ、それじゃあ……」

「うむ、今のミックが使う【聖加護】は、アリスが使う【聖加護】よりも大きな力だという事だ」

「そ、そんな事……!?」


 アリスが動揺しながらも、リィたんはくすりと笑って聖杖(せいじょう)アリスを指差した。


「そこに証拠があるだろう?」

「あっ……」


 自身が持つ杖を見ながら、アリスはようやく理解した。

 これまでのミケラルドの行動が、一つの答えに繋がったのだ。

【エメリーの剣】を作成した時にアリスから過度に受けた【聖加護】は、決して無駄ではなかったという事に。

 以前からミケラルドは、自分とアリスの【聖加護】の違いに違和感を覚えていた。だからこそ、それを我が身で受ける事でその解析に努めたのだ。

 当惑するアリスにリィたんが言う。


「ミックはアリスから【聖加護】を受けられないからな。自分で使う術を探し出したのだろう」

「でも、それじゃまるで――」


 アリスが言葉を続けようとした瞬間、リィたんの後ろで大きな物音がした。

 まるで人が倒れたような鈍い音。

 リィたんが振り向くと、そこには涙目になりながら赤くなった小さな鼻を押さえる勇者エメリーがいたのだ。


「いちち……うぅ……カッコよく登場したかったのにぃ……」


 そんないつもと変わらぬエメリーに、ナタリーが微笑む。


「あはは、エメリーらしいね」


 ナタリーはそう言いながらエメリーに手を差し伸べる。

 そんなナタリーに甘えるように、エメリーが立ち上がる。

 その姿に驚いたのはアリスやメアリィだけではなかった。

 絶対強者であるリィたんでさえも、エメリーの驚異的な成長に驚いていたのだ。


(……雷龍とサシでやり合えるようにまで成長した私を……超えた? これが【勇者】……霊龍の天恵とはここまでのものだったのか)


 エメリーの成長に目を見張るリィたん。

 しかし、その直後リィたんを含む皆が驚愕の反応を見せたのだ。


「「っ!?」」


 エメリーの更に奥、冒険者ギルド併設の宿にある扉の奥。

 そこは長期に渡りオリハルコンズが契約している部屋。

 テレポートポイントが置かれている大部屋。

 事実、ナタリー、リィたん、エメリーはミナジリ共和国からそこへ転移してきたのだ。

 その部屋に異質な魔力が現れたのだ。

 軽快な足音と鼻歌。重厚な魔力を軽く吹き飛ばすかのように開けられる扉。

 リィたんから向けられる視線は畏怖そのもの。


「おや? こんなところで奇遇ですね、皆さん」


 オリハルコンズのお騒がせリーダーの登場である。

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