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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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885/917

その882 下種く、卑しく、聖女的に3

「いやー、凄まじかったですね! マスターオーク相手に聖加護を宿した(、、、、、、、)プロテクションタックル! 最後の方はその鉄球にも【聖加護】が乗ってたんじゃないですか?」


 俺の発言に眉間(みけん)をピクピクとさせるアリス。

 何だろう? 怒っているのだろうか?


「私としては、最後の方、大空で焼肉パーティーしてた吸血鬼の方が気になってるんですけど?」

「食事は戦士の基本ですよ?」

「時と場合ってものがあるでしょう!」

「アリスさんの分もありますよ?」

「何でこの状況で、そんな無垢(むく)な表情が出来るんですかっ!?」

「食べないんですか?」

「食べます!」


 言いながら俺から取り皿を奪い取るアリス。

 盗賊か山賊にでもジョブチェンジしたのだろうか?

 いや、あの食いっぷりは蛮族って感じがする。

 流石にこの様子は世界中継出来ないだろうなぁ。

 と、そんな事を考えていると、アリスが殺意を宿した目をこちらへ向けた。


「今、何か変な事を考えませんでした?」

「いえ、世界経済の事を真剣に考えてました」

「私を使った経済じゃありませんか?」

「私、そういう時って必ず契約って段階を踏んでるじゃないですか?」

「最近それが信用出来なくなってきました」


 言いながらアリスは、いつ空になったかわからない取り皿を足下に置いた。

 そして、呼吸を整えながら手足をぶらんと垂らし、自然体を努めたのだ。


「すー……」


 徐々に呼吸音すら聞こえなくなり、体内の魔力循環が最適化される。

 ……ふむ、悪くない。ちゃんと戦闘で失った魔力を取り戻そうとしているし、周囲の警戒も解いていない。

 だけど、何故か俺への警戒が一番強い。


「アリスさん、私パーティメンバーなんですけど?」

「えぇ、一番の気の抜けない相手ですから」

「さっきも見事なパーティワークでマスターオークを二体倒しましたし?」

「応援してるのか、けなされてるのか全くわかりませんでした」

「おかしいですね? エメリーさんはいつも『頑張ります!』って応えてくれたんですけど――」


 そう言った直後、アリスは俺に肉薄した。

 胸倉を掴まれ、ぐわんぐわんと俺を揺すってくる。

 これが恐喝ってやつか。やはり聖女の選抜には霊龍の特殊な性癖があると見るべきか。


「エメリーさんにも同じ事したんですかっ!?」

「以前、エメリーさんが闇ギルドのせいで恐怖を植え付けられてポンコツになっちゃったんですけど、私と一緒に訓練してそれを克服したんですよ」

「そ、そういえばそんな話を聞いた事があるような……」

「意外に頑張ってるんですよ、私」


 言いながら自分を指差すと、アリスは何かを諦めたかのように深い溜め息を吐いた。


「はぁ……本当にこれで私は強くなれるんですか……?」

SSS(トリプル)ダンジョン攻略まではいけるかと。後はアリスさん次第ですねぇ……おっと」


 額を押さえる俺に、アリスが小首を傾げる。


「ど、どうかしたんですか?」

「いえ、分裂体の方がちょっと大変でして」

「一応思考は分かれてるんですよね?」

「えぇ、本体に戻る時や、直接【テレパシー】で脳内を繋いだ時に統合されます」

「ではどうして?」

「分裂体が多くの魔力を消費すると、こちらにも影響が出るんですよ。瞬間的にその魔力を奪われる感じですかね」

「結構大変なのでは?」

「意外に頑張ってるんですよ、私」


 先程と同じ言葉を言いながら再び自分を指差す。

 するとアリスは、溜め息を吐くのすら諦めた様子で俺に背を向けた。


「わ、わかりました! しばらくは付き合ってあげます!」


 どこか上から目線な聖女である。

 まぁ、これまでの経緯を考えれば……もしかしたら当然かもしれない。

 アリスも諦め、俺も諦める。

 何とも対等な関係ではないか。

 そう思いながら、俺とアリスは別の依頼へと足を運ぶのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 一つ、また一つと依頼をこなし、聖女アリスは着実に成長していってる。


「……ミケラルドさん」

「何でしょう?」

「どうも成長してるっていう実感がないのですが、どうしてなのでしょう?」

「そりゃ適宜、私が鉄球の【フルデバフ】を弄ってるからですよ」

「……初耳なんですけど?」


 アリスは胸倉を掴むのが好きなようだ。


「身体に負荷をかけつつ、相手の目測も誤らず、しっかりと成長出来ますよ」

「私としてはしっかりと休息をとりたいんですけど?」

「ん~そうですね、この依頼が終わったら休みましょうか」


 言うと、アリスは更に俺の顔に肉薄した。

 顔がとても近い。鼻息が荒くなければいい雰囲気なのに……。


「休みが! あるんですか!?」

「ないと思った理由を聞きたいところです」

「だってミケラルドさんだし!」


 根拠=ミケラルドってところが腑に落ちない。オチはつくかもしれないが、そうではないのだ。


「成長には休息が不可欠です。インターバルの短い休憩では成長しないパラメーターもあるって事です」

「ぱらめー?」

「あとこれ」

「……飲み物?」

「【聖水】で育てた果実を絞った果汁を【聖水】で割った【魔族コロリ】です」

「ネーミングに疑問を抱かなかったんですか?」

「人間的に言えば栄養満点の【フルーツジュース】ですかね? ナタリーやカミナに聞きましたけど、美味しいらしいですよ」

「何を企んでるんですか?」

「聖女アリスの成長以外に何があるっていうんです?」


 俺がニコリと笑ってそう言うと、アリスは口をへの字(、、、)に結んだ後、俺から【魔族コロリ】を奪い取った。

 やはり蛮族味が出てきているのは気のせいじゃなかったか。

 ちびちびと【魔族コロリ】を飲み、「甘くておいしい」と零す蛮族の表情は、どことなく笑っているように見えたのでした。

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