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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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881/917

その878 快復

「ははははは! 復活! ミッくん復活っ!」

「ご快復おめでとうございます」

「……いたんですか、マインさん」


 まさか見られているとは思わなかった。


「ウェイド陛下よりこちらを預かって参りました」

「書状?」

「魔王の尖兵襲来を受け、陛下も意向を固めたようです」

「なるほど、今は式典や挨拶なんかより自衛だと」


 書状には会えない事への謝罪と、その理由が書いてあった。

 先日の法王クルスもそうだが、どの国も今は武力強化に重きを置いている。

 龍族でさえ苦戦する尖兵の出現、まだ見ぬ魔王の恐怖。

 皆、不安だろうな。

 俺が出来る事といえば……魔導アーマーの制作くらいだろうか?

 いや、やる事は無限にある。

 何をやっても足りないと考えなければ、人間界に未来はないだろう。

 時間がどれだけあるかわからない。

 勇者の剣が完成した今、いつ魔王が復活してもおかしくない。

 魔王が復活しなければ倒す事も出来ないが、正直、あの尖兵のレベルを考えると不安しか残らない。

 短時間で魔導アーマーを配備するのは現実的はない。

 ないないばかりで困ったものだが、短時間で出来る事を探す他ないのだ。


「……これを」

「お預かりします」


 俺は、ウェイド王への書状(へんじ)をマインに渡し、ガンドフを後にした。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 ミナジリ共和国に戻ると、練武場でシギュンが汗を流しているのが見えた。ふむ、心は邪念に満ちてるのに映えるのは彼女の場合仕方ないと思えてきた。

 しかしジェイル相手に根気よく食らいついてるのは、流石のセンスだと言わざるを得ないな。

 奮闘するジェイルとシギュンを横目で応援しつつ、ミナジリ邸の執務室へ向かう。

 最初から執務室へ転移しようかとも思ったのだが、こういう風に考えがまとまらない時は敢えて遠回りするのもいいと思ったのだが…………、


「考えがまとまらない内に着いちゃったな」


「執務室」と書かれたプレートを見上げ、扉の前で腕を組んでいると、執務室の中に違和感を覚えた。

 あれ? 今、中に誰か来たな?

 普段であれば、執務室の中に誰かいれば魔力反応で気付けるものだが、この反応は「今」現れたものだ。

 つまり、執務室内に誰かが転移してきたという事。

 しかし、腐っても千切れてもミケラルド元首の執務室である。ここと直接繋がっているテレポートポイントを持っている存在はそういない。

 ミナジリの他だと、ロレッソしかいない。

 がしかし、ロレッソの魔力反応でもない。

 ジェイルは外にいたし、リィたんでもナタリーでもないのだ。


「……ふむ?」


 悩んでいても仕方ないと思い、俺は執務室の扉を開けた。

 扉を開けると、見慣れた後ろ姿を発見した。


「「あ」」


 声が合い、視線が合う。

 それはまるで、恋の始まりの予感。


「アリスお姉ちゃ~ん!」


 四歳ミケラルドは小走りに掛け、聖女アリスの胸へと飛び込む。

 しかし俺の顔面は、何故か床へとダイブした。


「……あれ?」

「何ふざけてるんですか、ミケラルドさん」

「声が合い、視線が合う」


 アリスと自分を交互に指差す。


「はぁ」

「ここまで来たら後は気持ちが通じ合うだけじゃないですか?」

「何段飛ばししたらそういう結論になるんですか?」

「いやだなぁ、アリスさんと私との間にそんな壁があるとでも?」

「底の見えない渓谷があるかと」


 何で最近の聖女は手厳しい発言が多いのだろうか。

 やはり霊龍の人選に問題があったのかと疑ってしまう程だ。


「ミケラルドさんに問題があるとは考えないんですか?」

「いつから読心術を(たしな)むようになったんですか?」

「ミケラルドさん相手だと、たまに透けて見えるんですよ」

「えっ」


 ぽっと顔を赤らめ、胸と股を隠す俺。


「ど、どこ隠してるんですかっ!?」

「私の口から言わせたいとか聖女の感性も独特ですね」

「そんな事は一言も言ってません!」


 どう考えても言ってたようにしか聞こえないのだが?


「ミケラルドさんってたまに違う言語使いますよね」

「はて?」

「言葉の壁は大きいと思いますよ」

「結構通じ合ってると思うんですけどね」

「そういう曲解をやめるところから始めないとダメって言ってるんですけど?」


 アリスのジト目は久しぶりかもしれない。

 そう思いながら、俺はくすりと笑いながらアリスを横切って自分の席へと向かった。

 そこで俺は気付いた。


「…………あれ? 何でアリスさんがここに?」

「私に飛び込んでくる前にその言葉を聞きたかったです」

「順序ってものがあるじゃないですか」

「飛び込む方が先だと!?」

「そういう時ってあるじゃないですか」

「な、ないとは言い切れませんけども」

「それで、何でここに? ん? というかどうやってここに来たんですか?」


 そう聞くと、アリスは思い出したように言った。


「あ、そうでした。実は気付いたらここにいたんですよ」


 何それ怖い。


「え、えーっと……ナタリーやリィたんのテレポートポイントを介さずいらっしゃったと?」

「そういう事になります」

「ちなみに、ここへ来る前まではどこに?」

「聖騎士学校の寮の自分の部屋ですね」


 つまり、強制的な転移魔法という事か。


「……突然ここへ来たというのに、あまり驚いてないんですね」

「まぁ、こんな事が出来るのは霊龍様くらいしか思い浮かばないので」

「なるほど、既に犯人がわかっていると」

「その言い方どうにかなりません?」

「でも、聖女とはいえ不法侵入させる相手ですよ?」

「くっ、それを肯定すると私の良心が……!」

「でも、否定も出来ない、と」

「答えにくい質問はノーコメントです」


 いつの間にか大きくなりやがって。


「でも何でここに連れて来られたのかはわからないんですよね」


 確かに、霊龍がアリスをここへ呼んだ理由は俺にもわからない。

 だが、こんなところでアリスを放置するのも経済的損失が大きい。


「とりあえず……聖女していきます?」

「は?」


 そんな間の抜けた言葉をよそに、俺は【闇空間】からアリスに似合いそうな衣服を見繕うのだった。

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