◆その876 オリハルコンズの軌跡
「バッドデッドスパイダー、チェック!」
「スパイダーナイト、チェックです!」
ハンとレミリアがSSダンジョン一層のモンスターを捉える。
「「フォトンショット!」」
キッカ、メアリィ、そしてナタリーが魔法を集中させ、バッドデッドスパイダーに騎乗するスパイダーナイトに強烈な光弾を命中させる。
怯んだスパイダーナイトに反撃の余裕はない。
「やっ!」
跳び上がるエメリーと、その下を掛けるラッツ。
バッドデッドスパイダーが毒を纏う鋼糸を吐くも、クレアの援護、そして盾となったラッツがそれを弾き、エメリーの止めの双撃が放たれた。
直後、二匹のモンスターはエメリーの攻撃によって一刀両断にされてしまうのだった。
「見事だ、私が出る幕がなかったな」
リィたんの言葉に、エメリーが恥ずかしそうに微笑む。
「それに、アリスの【聖加護】を温存出来たのも大きい」
振り返りながらリィたんが言うも、そこにいたアリスは何故か最後方を気にしていた。
「……あれは一体何なんですか?」
アリスが目を向ける先、そこにはミケラルドのようでそうでない、無機質な瞳をした木偶のような人形があったのだ。
その言葉に、リィたんが小首を傾げる。
「何だ? さっきの話を聞いてなかったのか? ミックが造った【ミケちゃん人形】だ」
「いえ、のそのそ付いて来るだけの人形なんて気持ち悪くて……」
「安心しろ、ミックの体組織も組み込まれている。だからこそ、オリハルコンズは世界で唯一無二のSSパーティになったのだ」
「うぅ……アーダインさんの苦労がよくわかります……」
アリスが肩を落とすと、ラッツもそれに同意を示した。
「確かに、【魔王の尖兵】を倒した事で、エメリーとリィたん殿がSSSに認定されたからな。元緋焔の私たちやクレアも、このダンジョンを攻略すればSSへ上げるという事だ」
そう、エメリーとリィたんは冒険者ギルドに認められ、SSSの扉を開けた。依頼消化数と実績だけでランク査定をする事が難しい現状、実力での判断が正解だとアーダインは判断したのだ。
これにより、ミケラルド不在であるオリハルコンズのパーティランクがSとなり、ランクSダンジョンを攻略する事が出来たのだ。
しかし、今回のSSダンジョンはそうもいかない。
ミケラルドがいなければ、パーティランクをSSに上げる事は出来なかった。
ミケラルドが安静にしている今、ミケラルドを休ませつつミケラルドをダンジョンに呼ぶという一挙両得の案を出したのは、やはりミケラルドだったのだ。
「ぽよんぽよん歩いてます……」
不気味な歩行を見せる【ミケちゃん人形】は、皆の邪魔にならぬよう、後方からオリハルコンズを見守るのだった。
「でもよぉ、性急過ぎやしねぇか?」
ハンの言葉は、先程のランクアップを指していた。
「ナタリーちゃんがA、メアリィもBに上がって、とんとん拍子で怖いくらいだぜ」
キッカが肩を竦めながら答える。
「あれよあれ、ガンドフまでの行軍をアーダインさんに見せたらしいのよ」
「うげっ? ろ、録画ってやつか? かぁ~、毎回ミケラルドの大将がやる事はよくわからねぇなー」
「まぁそれもわかるけどね。でも、それだけ世界が目まぐるしく動いてるって事じゃないの?」
これに頷くレミリア。
「キッカさんの言う通りです。イヅナさんの話によれば、エメリーさんは既にZ区分の領域に足を踏み入れ、アリスさんの【聖加護】の能力は、既に全盛期のアイビス様を超えているとの事。エメリーさんに勇者の剣が与えられた今、いつ魔王が復活してもおかしくない状況……となれば――」
「――SSSはおろか、SSのパーティが一組も現れないのは、世間的に見ても不安が残るでしょうね」
レミリアの続きをクレアが補足する。
そんな中、メアリィがある事に気付く。
その視線の先にはナタリーがいた。どこか影を落としたような、しかし無表情にも見えるそんなナタリーを怪訝に思ったメアリィが声を掛ける。
「ナタリーちゃん、どうしたの?」
「あ、いや……何でもないよ」
「そ、そう?」
当然、そのやり取りにはリィたんも気付いていた。
しかし、ナタリーから何もない以上、パーティメンバーが出来る事はない。そう判断したのだ。
「では注意して進もう」
ラッツの言葉に促され、皆が歩を進める。
歩きながらナタリーは自分の両手に目を落とし、顔を強張らせていたのだった。
(気のせい……だよね?)
その後、オリハルコンズは着実に階層を進め、SSダンジョンの最下層までたどり着いた。
最初こそSSダンジョンの主、アンセスターヒドラに苦戦していたが、リィたん、エメリーの主軸による攻撃と、「後進のために」とミケラルドが用意していたSSダンジョンの攻略本をしっかり頭に入れていたオリハルコンズメンバーの奮闘により、的確に倒す事が出来たのだった。
「これが、ミケラルドさんが言っていた【魔法のコンパス】……」
そこにあったのは、シェルフにあるSSSダンジョンに入るためのキーアイテム【魔法のコンパス】。
手に取ったアリスを見て、皆頷き合う。
過去、多くの優秀な冒険者が挑戦してきた法王国のSSダンジョン。
実力がありながらも、冒険者パーティとしてのランクが足りず、挑戦出来なかった者。ランクが足りていたとしても、その難度から攻略に失敗した者。
勇者率いるパーティとて例外ではない中、歴史上の文献を掘り起こしたとしても、攻略したのはたった二組。
その全てが、ミケラルドと愉快な仲間たちである事は誰にも変えられない事実なのだ。




