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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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878/917

◆その875 不在のミケラルド

「そうですか、オリハルコンズがランクSダンジョンを」


 シギュンの報告を受けたロレッソが、資料を読みながらそう言った。


「リィたんがいるんだもの、攻略出来て当然でしょう」


 シギュンの言葉に、ロレッソが首を振る。

 それを(いぶか)しんだシギュンが首を傾げる。


「どうやらリィたん様は、今回の攻略に手を貸していない様子です」

「ヘぇ、そうなのね。彼らの地力が上がっているのなら、それに越した事はないじゃない」

「えぇ、特に勇者エメリー殿の覚醒が大きいのでは、とミケラルド様が仰っておりました」

「そう、それで法王国にあるSS(ダブル)ダンジョンはどうするつもり?」

「明朝潜るとの事です。これも問題なく攻略出来るだろうとミケラルド様は予測されています」


 シギュンはそれを聞き、壁にもたれかかった。


「手持ち無沙汰なご様子で」

「やる事がないのよ。私を秘書として雇ったどこかの元首は、ガンドフで療養中でしょう? 転移魔法でいつでも戻って来られるのにね」

「仕方がありません。ナタリー様のご命令ですから」

「そんなに酷いの? 彼」

「ご心配ありがとうございます」

「いつ誰が心配したっていうのよ?」

「今しがた、シギュン殿が」


 不敵に笑うロレッソの言葉に、シギュンが苛立ちを見せる。


「貴方、飼い主に似てきたんじゃなくて?」

「ご安心を。私は生来このような性格ですよ」

「あっそ、いるべくしてここにいるって事ね」

「確かに、そう言われればそうかもしれませんね」

「それで、どうなのよ」

「はい?」

「ミケラルドの事よ」

「あぁ、シギュン殿の心配の種――」


 瞬間、ロレッソの首元をペンが通り過ぎ、奥の壁に突き刺さった。


「次は狙うわ」

「壁の修繕費は折半という事で」

「いちいちムカつく男ね」

「ミケラルド様はご無事です。ただ、アリス殿の【聖加護】が思った以上にミケラルド様の体内を(むしば)んでいたようです」

「魔族の天敵……聖女の【聖加護】ね。一体どういう理屈なのかしら。人間の私には理解し難いのだけれど?」


 その言葉を受け、ロレッソはシギュンの奥を見ながらくすりと笑う。


「では、詳しそうなそちらの方に聞いてみてはいかがでしょうか?」


 ロレッソの笑みに目を見開いたシギュンは、すぐにその場で振り返った。するとそこには、仏頂面のジェイルがいたのだった。


(……気付かなかった)

「注意力散漫だな」


 (かん)(さわ)る言い方に、ピクリと反応するシギュン。


生憎(あいにく)、秘書として雇われてるものでね」

「暇そうな秘書だな」

(あるじ)がいないだけよ」

「その(あるじ)から連絡が入った」

「はぁ? どういう事?」

「シギュンの能力向上を命じられた、と言えばその意味が理解出来るか?」

「これ以上何をやらせようってのよ」

「無論、私との訓練だ」

「……冗談でしょ?」

「喜べ、三食昼寝付きだそうだ」

「も、元から付いてるわよ!」


 シギュンの威嚇にジェイルは首を傾げる。


「おかしいな、ミックは『そう言えばシギュンは付いて来る』と言っていたのだが?」


 そこに助け船を出したのがロレッソだった。


「それはつまり、やらなければ三食昼寝付きを取り上げると解釈した方がいいのでは?」

「なるほど、そういう事か」


 そう言った後、ジェイルはシギュンを見る。


「そういう事だそうだ」

「……ここには嫌な男たちしかいない訳?」


 直後、ジェイルとロレッソが口を揃える。

「「嫌な女もいる」」と。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 仕方なしという様子でシギュンはジェイルに連れられ、ミナジリ共和国の練武場へと足を運んだ。

 そこには暗部の面々もおり、顔を見せたシギュンに皆、驚きを隠せずにいる。

 そんな視線を受けつつ、シギュンは先程の話をジェイルに振った。


「それでどうなの?」

「何がだ?」

「【聖加護】の話よ」

「聖女の【聖加護】か……確かに【聖加護】は魔族の弱点というべき人間の生きる術だ。(もっと)も、これは霊龍が聖女に【天恵】として与えたものだ。従って、霊龍の力の一部と言えるだろう。ミックが言うには『世界のシステムを創っているのは霊龍』なのだそうだ」

「だから?」


 シギュンが立ち止まり聞く。


「霊龍が魔族特化型の能力を聖女に持たせた。むしろ、それを行わなければ、魔族と対抗出来ないと判断したから持たせた……というべきか」


 ジェイルは立てかけてある木剣を二本手に取りそう言った。


「人が魔族やモンスターと戦うために武器をとったようなものって事?」

「火が水で消えるが如く、木が火で燃えるが如く、人間と魔族の相性を霊龍が創造した。平たく言ってしまえば、自然の摂理(せつり)として世界に定着させたようなものだ」

「つくづく霊龍って存在が恐ろしいって事ね」

「だが、ミックはこうも言っていた」

「え?」

「『【聖加護】が何故魔族に効果的なのか、それを解明する事が出来れば……俺は更に霊龍に近付く事が出来る』とな」

「っ!? ちょ、ちょっと待って! まさかあの男は!?」

「最強を目指しているのだ、勇者の剣製作に乗じて聖女の【聖加護】を浴びるという事は、ミックにとって必要な事だったという事だろう」

「……呆れた。()えて【聖加護】を喰らったって訳ね」


 言うと、シギュンに向けて木剣が向けられる。


「構えろ」


 ジェイルはそう言うと共に、シギュンに剣を握らせた。


「今更なんだけど、何で私を鍛えようとしてるの? あの元首」

「さぁ、わからんな。戦力増強と言えば当然だが、どうもそうではないらしい」

「どういう事?」

「ミックは言っていた『強い味方は多い方がいい』とな」

「当たり前のように聞こえるけど、あの男が言うとどうもそうじゃないように聞こえるのは何故かしらね」

「そんな事は決まっている。ミックだからだ」


 ジェイルのその言葉を皮切りに、練武場に轟音が響く。

 魔力で固められた木剣同士のぶつかり合い。

 その音、その威力に暗部の面々は顔を引き()らせる。

 パーシバルは耳を塞ぎつつもその光景に目を奪われた。


(ば、化け物かよ!?)


 皆似たような感想を抱く中、ジェイルの剣を受けたシギュンは涼しい顔で言った。


「訓練じゃなかったかしら?」

「まずは貴様の底を見てからだ」

「ふふ、沈まないといいわね」


 この日より、ジェイルとシギュンの訓練が始まった。

 そしてその翌日――ミケラルド不在のオリハルコンズはSS(ダブル)のダンジョンへと侵入するのだった。

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