◆その861 勇者の剣1
ガイアスは仕事場の机に置いてある本をはらりとめくる。
「【勇者の剣】といっても剣の型は様々だ。残っている文献の中で最古のものは五代目勇者アイーダって女勇者だな」
言いながらガイアスはオベイルを見た。
「剣は大剣。どうやらアイーダはかなり大柄な女だったようだな。次に八代目勇者レックスだが……まぁ、それはそこの爺に聞いた方が早いだろ」
ガイアスが次に捉えたのは剣神イヅナ。
勇者率いるパーティ【聖なる翼】の一員だった男である。
イヅナは中空を見つめ、昔を思い出すように零す。
「レックスの愛用していた剣はロングソード。扱い辛いもののアイツはそれを利用し手足のように扱っていた」
イヅナがちらりとミケラルドを見る。
ミケラルドはニコリと笑い、小さく手を振る。
「体躯はボンくらいだったかな」
それもそのはずで、ミケラルドの身体はレックスのもの。
イヅナはそれを知る数少ない人物の一人。
エメリーはミケラルドを見上げ、くすりと笑う。
「あはは、私じゃちょっと難しいかもしれませんね」
エメリーの身長はミケラルドの胸元を超える程度。
ロングソードを扱うにはやはり身長が足らない。
ミケラルドもくすりとと笑い返すと共に、【闇空間】を発動した。
そして、机の上に大小様々なミスリル製の武器を取り出してみせた。
その膨大な種類に【三剣】が武器を手に取り小さく唸る。
「ほっほっほ、まるでビックリ箱だな」
「俺様も知らねぇ剣がこんなにあったとはな」
「不思議な形……」
イヅナ、オベイル、レミリアは、感想と共に、その剣の使い道、戦闘法を思い浮かべるようにまじまじと剣を見ていた。
アリスはゲテモノでも見るように一本の剣を手に取っていた。
「な、何で剣先が二又になってるんですか……?」
「【麟角刀】は、斬撃と刺突共に優れ、二又部で受けにも回れるそこそこ理にかなった武器ですよ。オベイルさんが持ってるのは【青龍刀】ですかね、他にも呼び方があるんですけど、私の母国では総称として青龍刀と呼んでます。曲刀で刃が横長に広がる分強力ですね。イヅナさんが持ってるのは【イルウーン】。刃先が平べったいですが、刃がないわけじゃないので気を付けてください」
「こ、これは鎌では?」
アリスが次に手に取ったのは、湾曲の剣だった。
「【ショーテル】ですね。盾を迂回するように相手を倒せます」
「た、対人武器じゃないですかっ」
言いながらアリスはショーテルを手放す。
「そういう歴史の下、私の故郷があるもので……すみません、これはいりませんでしたね」
ミケラルドはそう言ってショーテルを闇空間にしまう。
「ミック」
「何だい、リィたん?」
「打刀に似たものもあるのだな」
「【野太刀】だね。打刀のサイズを大きく超えるものがそう呼ばれるかな。細かく言うともっと違うんだけど、そういう認識でいいと思うよ」
「面白いものだな、人間による工夫というものは」
リィたんは、そう言ってひょいひょいと手に取っていた。
ガイアスも様々の剣を手に取り、その都度エメリーをジロリと見ている。
そんなエメリーに苦笑したミケラルドは、その肩をポンと叩き言った。
「自分の剣になるんだから、一番扱いやすい剣を見つけなくちゃね」
「は、はい!」
そう言って、エメリーも机の剣をとる。
それを隣で見ていたアリスが、ミケラルドに耳打ちする。
「何、鼻の下伸ばしてるんですか?」
「ひゃうん?」
アリスの不意打ちに、ミケラルドは耳を手で覆う。
これを悪手だとハッとして理解したアリスは、顔を紅潮させミケラルドを指差す。
「ちょ、何ですか、その反応はっ!」
「いや、大抵の人はこうなりますって!」
「ミケラルドさんは魔族でしょうっ!」
「聖女の吐息……恐るべし……!」
この言葉で、顔を真っ赤にしてしまうアリス。
「も、もう知りませんっ!」
そう言いながら、アリスは仕事場の片隅に離れていった。
皆はそのやりとりに少々呆れつつ、エメリーの武器について議論を交わすのだった。
「やっぱりこの青龍刀がいいんじゃねぇか? 刀身もこの長さならエメリーの腕力にも見合うだろ?」
オベイルがそう言うと、
「いえ、これだけ幅のある刀身ですと、風圧の障害が大きいかと。刀身の長さはちょうどいいと思うのですが……」
レミリアの指摘が入る。
「私が使っている直刀は鍔がない分、扱いが難しいからな」
イヅナは魔王復活までの時間を考慮し、エメリーにその修練を捻出させる事が出来ないと判断。
「だが、魔王の装甲は龍族に匹敵する。霊龍から聞いたミックの話によれば、魔王の実力はこれまで以上……という事を考えれば、多少なりとも攻撃力を考慮した方がいいんじゃないか?」
リィたんの意見でまたオベイルが反応する。
「ならいっそのこと大剣はどうだ、エメリー?」
「持った瞬間に倒れちゃいますよ」
オベイルの質問には、何故かミケラルドが答えた。
「えぇ……転んじゃいますかね……?」
困った様子のエメリーに、ガイアスが腰元の剣を指差す。
「その剣の使い心地はどうだったんだ?」
「え? こ、勇者の剣(仮)ですか? 確かに使いやすかったですけど、ちょっとバランスが気になりました……?」
大事そうに剣に手を置き、ミケラルドを見るエメリー。
(なんで疑問形なんだ? あぁ、俺が昔のエメリーの剣に模して造り変えたからか)
ミケラルドが得心した様子でエメリーに言う。
「大丈夫ですよ、当時はちょうどよかったバランスも、今は変わった。エメリーさんが成長しただけの事です。それでしたら実施テストといきましょうか」
そう言って、ミケラルドはテレポートポイントを起動させるのだった。
次回:「◆その863 勇者の剣2」




