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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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859/917

◆その856 覚悟の準備4

 エメリー、レミリア、ラッツ、ハンの四人がオベイルに猛攻を仕掛ける。クレアの援護射撃と、ナタリーとメアリィの補助魔法。更にはアリスとキッカが援護魔法を発動し、ようやく互角。

 オリハルコンズ全員の全力を楽し気にあしらう炎鬼こと剣鬼オベイル。遠目にそれを見ていたマインも、ガンドフに滞在していたオベイルの事はよく知っている。


(ガンドフにいた頃より強くなっていますね。装備だけじゃない、動きも力もより洗練されている……しかも)


 オベイルは攻撃を受けつつも押し返している。

 それもガンドフ側へ。


(これはもしや……え?)


 マインが気付いた時には、既にそれはそこにあった。

 マインの足下には土塊操作によって現れたキャスター付きの椅子が用意されていたのだ。

 周囲を見渡しつつも、それに害意がないとわかると、マインは椅子に腰を下ろした。

 すると、魔力壁は椅子を押し出し、ガンドフ側に動き始めたのだ。

 その動きを見て、自分たちがガンドフに誘導されている事を理解し、アリスは悔しそうな表情を見せる。


「くっ、なんて効率的なっ……!」


 怒りも、不満も、どうにもならない憤りも、アリスは発散する事は出来なかった。

 オリハルコンズは、オベイルの攻撃に押し出され、ガンドフに向かいながら戦いを続ける。休む事なく続く地獄のマーチに、皆なんとも言えない顔をしていたのだった。

 そんなオリハルコンズたちを遠目に見守るデュークとリィたん。


「ふむ、皆もそうだが、オベイルは既にここまで実力を付けたか」

「あ、やっぱり気付いちゃった? 既にウチとリプトゥア国で戦争した時のイヅナさんくらいの実力はあると思うんだよね」

「身近に龍族がいると違うものだな。炎龍(ロイス)と共に生きる事がアイツにとって大きな力となっている」

炎龍(ロイス)がいるからってのもあるけど、他の龍族ともちょくちょく会って戦ってるってのが大きいよね。この前シギュンにも挑んでたよ」

「あの女に?」

「パンツ一枚にされてたけど」

「ふっ、人間の実力の底も徐々に上がって来たという事か」


 ニヤリと笑うリィたんに釣られ、デュークも笑う。


「ははは、それにレミリアも竜騎士団に入ってから伸びたよね」

「毎日ジェイルと手合わせしているからな。弱くなろうはずもない。暗部の連中とも進んで戦っているようだしな」

「で、聖騎士学校以外でも努力している緋焔の三人」

「グラムスが定期的に雇われてるそうだ」


 これを聞き、デュークは目を丸くさせた。


「私財で稽古つけてもらってるのか」

「そのせいもあってか、最近グラムスの実力も底上げされている」

「研ぎ澄まされてるよね」

「ミックが以前オベイルとグラムスを派遣した事で味を占めたのだろう。メアリィとクレアもそれに交ざってるようだぞ」

「割り勘で金を浮かせる寸法か」


 顎を揉みながらニコニコするデューク。


「財は無限ではないからな」

「だけど、そのおかげで【青雷】にも匹敵する実力を……いや、まだかな」

「ははは手厳しいな」

「でも、ガンドフに着く頃には……ね」

「ミックも相変わらず手の込んだ真似をする」

「闇ギルドと魔族四天王を倒した事で、冒険者たちの窮地が激減したと思ったからね。早目に手を打たないと将来的に怖いんだよ」


 デュークが言うと、リィたんは空を見上げながら「確かに」と呟いた。その言葉の意味を深く理解したのか、リィたんは少しだけ難しい顔をしてデュークに言った。


「ミックの思い描く平和の中に、平和ボケは必要ないという事か」

「まぁ、それに近いね。まずは魔王復活に備える事が最優先だけど」

「転移を封じられ、連絡手段も遮断。持ち寄った旅支度と制限された魔力で……さて、どこまで耐えられるか」

「出来ればオベイルさんには勝って欲しいところだね」

「オベイルに……勝つ?」

「次が控えてるからさ」


 デュークが親指で背後を指差す。

 その視線の先には、何故かフルプレートアーマーの剣士がもう一人いたのだ。


「小さいな、女……シギュンか?」

「いや、シギュンは緊急時でもない限り外に出せないよ。今回哨戒に当たってるもう一人」

「っ! イヅナか」


 言われて気付いたリィたんに、イヅナが言う。


「これ、顔を隠す必要あるのか?」

「オベイルさんは乗り気でしたよ」

「私がそうとは限らんだろうに」

「新しい剣、欲しいでしょう?」

「……ふむ、被ってみると悪くないかもしれんな」


 そんな現金なイヅナの態度に、デュークとリィたんが見合って笑う。


「しかしボン」

「へ?」

「まだ実践していない事があるだろう」

「え?」

「鬼っ子が戦っている間、私とリィたんは休憩か? それではいざ魔王が復活した時に最高の結果が出せないのではないか?」


 イヅナにそう言われ、リィたんもその意図に気付く。


「確かに、私もここで観戦などと生ぬるい事を言えば、ナタリーに怒られてしまうな」

「あの、リィたん? 何故ハルバードを構えていらっしゃるので?」

「まだまだ鬼っ子には負けられんからな。しっかり稽古をつけてもらわなければならん……最強の冒険者に」

「わあイヅナさん、物凄い剣気……」


 直後、デュークは剣の神と水の龍に襲われる。

 大気が爆ぜ、大地が爆ぜ、青空に響く轟音。

 一歩間違えれば大けがでは済まない攻撃を繰り広げる正に決死の訓練。しかしそれでも皆は、ガンドフに向かう速度を緩める事はしない。それが魔王復活に向けての皆の覚悟だと言わんばかりに。

 四方八方で激戦が繰り広げられる中、ガンドフの親衛隊長マインは天を仰ぎ言った。


「平和だなー……」

次回:「その858 覚悟の準備5」

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