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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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856/917

◆その853 覚悟の準備1

2022/4/6 本日一話目の投稿です。ご注意ください。

 ――会議の後。

 ホーリーキャッスルの練武場。

 かつてそこでは、リィたんとシギュンの手合わせが行われた。

 今回、リィたんが相手するのはオリハルコンズのメンバー。

 エメリーを軸に動き、剣聖レミリアが左、ラッツ、ハンが右に展開し、ナタリーとメアリィがそれぞれの後方に付く。クレアがラッツとハンの間を縫うように現れ、そのフォローをキッカがする。

 リィたんはその攻撃を全て防ぎ、いなし、返す。

 練武場が揺れると共に、クルスがその強度に不安を持つ。


「だ、大丈夫か……? ホーリーキャッスルが壊れたりしないだろうか……?」


 隣で皆を見守るアイビスが零す。


「妾はそんな小さき旦那を持った覚えはないぞ」

「いや、でもさ……リィたんだぞ?」

「そちらの御仁が加わっていないだけマシだろうに」


 言いながらアイビスは隣で観戦してるデュークをちらりと見る。クルスはその視線を追う。そして、気付くのだ。デュークの観戦方法に。


「あれ、いいな」


 クルスが物欲しそうに見たのは、デュークの膝の上にあった。デュークは椅子の形状を土塊操作で変化させ、その椅子に簡易式のテーブルを用意していたのだ。当然、そこにはドリンクホルダーが付いている。

 テーブルと一体型のトレー兼ドリンクホルダーを見て、アイビスは自身の膝元を見る。


「確かに。欲しいのう」


【闇空間】からドリンクホルダーに合う形状のコップが取り出し、お茶を()れる。バスケットに入ったフライドポテトの香りがクルス、アイビスの方まで流れて来る。


「何あれ? ずるくない?」

「欲しいのう」


 クルスとアイビスは現代地球の観戦形態を目の当たりにし、子供のようにデュークをちらちらと見ていた。

 デュークはそれをわざとらしく見せつけ、わざとらしく二人の視線に気付いて見せた。

 そして、【闇空間】から一枚の紙をちらつかせたのだ。

 二人を目を細めながらやや身を乗り出してそれを見る。

 そこには、現在デュークが使っている椅子の使用許諾契約書があったのだ。

 デュークはそれをひらひらさせ、指先を端の注意書きの方へとずらす。

 そこには「☆契約者特典☆ 今すぐこの椅子を体験してみよう!」と書かれていたのだ。

 目を丸くしたクルスとアイビスが見合う。

 風魔法かサイコキネシスか。二人の手元に飛んで来る契約書。

 クルスが再度契約内容に目を通す。


「悪くない契約書だ。国内に行き渡らせれば十分に採算がとれるな」

「クルス」

「ん?」

「サインじゃ」

「よしきた」


 クルスとアイビスの合意が成り、クルスは契約書と一緒に飛んできた筆を手に取り、サインを走らせる。

 直後、二人の椅子が形状を変える。

 デュークが座っていた椅子と同タイプのものに生まれ変わった椅子は、法王と皇后の顔を綻ばせた。何故なら、サービスであるかのように飲み物とフライドポテトが付いてきたからだ。

 こうして、デュークは一言も発さずに一つの契約をとったのだった。

 それを横目でちらちらと見ていたマイン。

 当然デュークはその視線にも気付いていた。

 しかし、法王国の二人と違い、マインが見ていたのはデュークの手元だった。

 デュークは手に持っていた物をマインに向け、


「……食べます?」

「い、いえっ!」


 恥ずかしそうにするマインだが、その視線はフライドポテトに奪われたままである。

 デュークはくすりと笑い、ポテトが入ってるバスケットを、マインの席まで持って行く。


「どうぞ、揚げたてが最高に美味しいですよ」


 顔を真っ赤にさせたマインはそのまま俯く。しかし、ちゃっかりとデュークの持つバスケットを受け取っていたのだった。


「サクサクホクホクですよ」


 まるで魔法の言葉。

 デュークの言葉がマインの頭でリフレインする。


「サクサク……ホクホク……」


 席に戻ったデュークを横目に、マインはバスケットに入っているキツネ色のフライドポテトをじーっと眺めた。

 喉を鳴らし、周りを見渡し、ポテトを手に取る。

 口に入ると弾ける肉厚のポテトは、マインの顔を紅潮させた。


「ん~っ!」


 程好い塩気と熱気。マインははふはふと口から息を漏らし、それでも尚ポテトを頬張った。サクサクホクホク、ところどころにカリカリ。食感を楽しみ、味を楽しみ、嚥下する。

 それを横目に見ていたデュークがくすりと笑う。


(やはり聖水でつくった【罪と罰(じゃがいも)】は最強だな。クルスもアイビスもマインもポテトの虜だ。量産出来るようになったらブランド展開も期待出来る。合わせてコーラも作りたいところだ……ふむ?)


 デュークはそう考えつつ練武場に目を戻す。


(リィたんが上手くみんなの力を引き出してるな。最高のテンションを保ちつつ、着実に成長させている。特に、最後方で立ち回るアリスの援護が秀逸だ。もう俺が出す戦略(ストラテジー)ゲームのレベル十くらいならクリア出来そうだな)


 ポテトを吟味しつつ、試合を吟味しつつデュークは考察を続ける。


緋焔(ラッツたち)の動きも前よりよくなった。クレアの援護射撃もランクSダンジョンなら通用するだろう。ナタリーとメアリィは……ふむ? SSS(トリプル)ダンジョンに潜る前にメアリィを叩いたから少なからずナタリーと差が出来ると思ったけど、それ程差は……いや? ナタリーの方が良い動きをしてる? メアリィがサボっていたとは思わないが、ナタリーはここにきて急成長したような? ……何にしても、これからが大変だな。まずは仕込みをクリアできるかだけど、そればかりは読めないしなぁ……)


 そしてデュークは視線を軸に戻す。


(まぁ全ては――勇者エメリーの【覚醒】にかかっている)

本日二話投稿予定です。(現在1/2話)


次回:「◆その855 覚悟の準備2」

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