表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/917

その84 ミケラルドの商才

2019/6/12 本日三話目の更新です。御注意ください。

「ようこそおいでくださいました。ミケラルド殿」

「ご招待頂きありがとうございます。ドマークさん」


 ナタリーにお説教された翌日、俺は三度(みたび)ドマーク商会本店までやって来ていた。

 案の定、本日シェンドの町にミケラルド商店が王商印(おうしょういん)を授かり、王商(おうしょう)となったという情報が広まった。当然、シェンドの町の町民は皆こぞってミケラルド商店までやって来た。

 ナタリーとエメラは、今頃嬉しい悲鳴をあげている頃だろう。

 俺が戻るまでの倉庫番をリィたんが務めているそうだが、本当に大丈夫なのか不安である。しかし、近所付き合いは大事である。まずはこのドマークとの局面を乗り越えなければならないだろう。

 ドマーク商会本店の応接室は、まるで貴賓室のようだった。シェンドの町の二号店の応接室はエメラと一緒に出来るだけ豪華にしたつもりだったが、ここに来るとやはりそれすらも霞んでしまうだろう。

 ずっしりとした客席に腰掛けると、ドマークもその対面に座った。

 両者が座った段階で、別室から執事のようなダンディな男がティーポッドを持って入って来た。

 なるほど、茶か。それは考えてなかった。

 ミケラルド商店でも取り入れよう。…………問題は、誰にお茶運びをやらせるか、という事だ。

 任せられそうなのがエメラしかいないというのは、やはり人手不足なのだろうな。


「ん、美味しいですね、この紅茶」


 出された茶に手をつけないのも失礼だ。一口すすってみると、茶葉の匂いが鼻腔をくすぐり、香りと共に深い味を楽しませてくれた。率直な感想を述べると、ドマークは嬉しそうに微笑んだ。


「リプトゥア国から取り寄せている茶葉です。木材や石材より軽く、交易に向いた商品ですよ」

「いいんですか? そういうのバラしてしまって」

「問題ありません。多くの商人が取り扱ってる商品の一つですから」

「ですか。ドマーク商会には驚かされっぱなしです。昨日箪笥(チェスト)を買った後、また伺ったんですよ」

「そうでしたか。お声がけくだされば案内したものを」

「はははは、天下のドマーク商会のドマークさんに案内なんて、贅沢ですね」

「相手がミケラルド商店のミケラルド殿だからこそですよ」


 ……やはり違う。ただのゴマすり合いなどではない。

 ちゃんとドマークは俺を利益の対象として俺を見て、相手している。

 本当の挨拶は昨日のみ。今日は何かしら話があるからこそ俺をここに呼んだ。そういう事か。

 ただの近所付き合いだと思ったら、思わぬ火の粉をかぶってしまいそうだ。


「さて、何から話したものでしょうか」


 鬼が出るか、蛇が出るか。


「ミケラルド殿は、これからどういった商売を目指していくおつもりか?」


 漠然としたところからきたな。

 しかし、この質問にもちゃんと意味がある。

 これ即ち野望の大きさ。ドマークは、俺がどういう反応をするかで、今後の利益を考えるのだろう。こちらとしてもドマーク商会の力を借りた方が先を見通しやすくなる。

 ここは正直に答えた方がいいだろう。


「国……ですね」

「というと?」

「国を動かせるレベルの商売を目指しています」


 ドマークの反応がピタリと止まる。

 そして、温厚さが消えた商売人の鋭い眼力で、俺を品定めするように見たのだ。


「それは、金銭で政治を牛耳るという事かな?」

「牛耳る……というより手綱を握るというのが正解でしょうか」

「それが非なるものだと?」

「完全なコントロールと指針は別だと考えています」

「なるほど、少しだけミケラルド殿が見えてきましたな。しかし、我々は既に王商(おうしょう)。聞くものが聞けば、それは王家に対する反逆ととられるでしょう」

「王家が間違いを起こさない保証はないので」

「ほぉ、それはまるで神の如き高みからの発言ではありませんか?」

「違います。王家と対等に交渉の場に立たなくては、町の皆の意見を取り入れなくては、いずれ国は衰退していくと思っているからです」

「……つまりそれは、対王家の抑止力という事でしょうか?」

「近いです。幸い現リーガル国王は聡明な方のようです。しかし、それが長く続くとも限らない。人間とは弱い存在ですから」


 ここでまたドマークが止まる。

 目を瞑り、何かを考えているようだ。


「……それはなんとも、壮大ですな。なるほど、道理で意見が食い違うはずです。私の見ている先と、ミケラルド殿が見ている先はかなりの差があったようです」

「へ?」

「ミケラルド殿、あなたは十年、二十年先の話をしていないのではありませんか?」

「勿論です。商売とは百年、二百年くらい先を見ないといけません。私の代、次代だけで終わるのであれば、こんな話は無用です」

「…………そうか、そういう事でしたか。ミケラルド殿が今完全に見えました」


 そんなに見られていたのだろうか。

 ドマークは少々ぬるくなったであろう紅茶をくいと飲み、受け皿(ソーサー)に置く。


「ミケラルド殿、あなたはどうやら商売人ではないようだ」


 ドマークは、貶す訳でもなく、怒る訳でもなく、ただ真っ直ぐに俺を見てそう言ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓連載中です↓

『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。

『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~14巻(完結)・コミック1~9巻が発売中です↓
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』
神薬【悠久の雫】を飲んで不老となったアズリーとポチのドタバタコメディ!

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ