表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

848/917

◆その845 スナックしぎゅん4

 五色の龍の揃い踏み。

 これを目の当たりにし、シギュンはカウンターの隅にまで追いやられていた。

 当然、ネムとニコルも身体を硬直させてしまっている。


「ちょ、ちょっと何しに来たのよ」

「美味い酒が呑める、以外に理由があるか?」


 リィたんの言葉に頭を抱えるシギュン。


あの男(ミケラルド)は一体何を考えてるの……」


 嘆きともとれるシギュンの言葉を拾ったのか、そうでないのかニコルがハッした様子で見渡した。

 お洒落な内装と、ところどころに見られる控えめながらも拘りの見える調度品。そしてシギュンを見て――、


「な、何よ?」

「……そういう事でしたか」

「だから何よ」

「この店はミケラルドさんの配慮によって造られているという事です」


 訝し気な表情をするシギュンだったが、次のニコルの言葉を聞き、その顔は一変する。


「龍族の方々が気軽に集まれる場所……と、言えばわかりやすいでしょうか」

「っ! そういう事……」


 言いながらシギュンはすっとリィたんに視線を移す。

 シギュンの瞳に映るリィたんは、ニカリと笑い、雷龍(シュリ)に向かってワインのボトルを投げていたのだった。

 二人のやり取りがイマイチ理解出来なかったのか、ネムが困惑していた。


「冒険者ギルドじゃダメって事ですか?」


 そんなネムの疑問にニコルが答える。


「冒険者ギルドの飲食スペースは、基本的に冒険者たちに開放されている場所です。冒険者であり、人間世界に馴染んでいらっしゃるリィたんさんですら、龍族の方には相応しいと言えない場所であるとも言えます。しかしここならば……」


 ニコルが言うと、ネムはそれに続くように店内を見渡した。


「た、確かに、このお店って外装はふざけてますけど、内装は貴族の方々にすら買えないような高級なもので溢れているような……」

「各国の要人を迎え入れるのならば、迎賓館があれば事足ります。しかし、そこへ龍族の方々が入るのは第三者国から見れば非常にデリケートな問題になりかねない……」


 ニコルはシギュンに視線を戻す。


「龍族を前にしても怯む事のない胆力を持った店主。法王陛下を招いたとしても恥ずかしくない内装。出入口の入念なセキュリティ。しかしながら、気を許せるような空間……ここは、要人の方々が肩を寄せ合い話し合える場……そういう事なのではないでしょうか」


 そんなニコルの問いかけに、シギュンは答える事が出来なかった。ネムがゴクリと喉を鳴らすと、次に届いたのは木龍(クリュー)の言葉だった。


「お前たちもそこに顔を連ねるようになったという事だが、それについてはどう思う?」

「ふぇっ!?」


 ネムが慌てて隣に座った木龍(クリュー)を見る。


「そ、そんなのミケラルドさんのいつものおふざけというか気まぐれというか……!」

「そうは思わない方がいい。ここで我々は武力を用いる事を許されてはいない。この場で必要なのは言葉のみ……つまり、ことこの場において我々は平等であり、公平であるという事だ。罪人の意見、冒険者ギルドの見解、龍族の言葉……この先、ここへは様々な職、様々な種族がやって来る事だろう。多角的な視点を養い、未来を願う。なるほど、ミックらしい考え方だ」


 木龍(クリュー)の言葉に、その肩越しから顔を出したテルースも同調するようにうんうんと頷く。


「なんだか年甲斐なくワクワクするわね」

「そ、それって今後お忍びで色んな方がここに来るって事ですかっ!?」


 ネムのその問いに、雷龍(シュリ)が背にあった扉に親指を向けて言う。


「忍ばずに来るやつもいるようだぞ」


 バカンと開けられた扉。

 響き渡る焦った声。


炎龍(ロイス)っ! ここにいるのか!?」


 入店した大男。

 ネムとニコルはその顔に見覚えがあった。


「け――」

「――剣鬼っ!?」


 思わず立ち上がる二人。

 オベイルは店に入るなり、その異様な空間に驚く。


「な、何だこりゃっ……?」


 左を向けば大罪人、中央にはギルド員、右を向けば豪快にワインをあけるリィたん。


「酒臭いのだ!」


 炎龍(ロイス)の姿を見るなりホッとした様子のオベイルだったが、状況の整理にはまだ追いついていないようだった。

 しかし、オベイルはすぐにそんな考えなど頭から追い出してしまったのだ。

 (かぶり)を振って、邪念を追い出し、ただ本能であるかのように言い放ったのだ。


「強ぇヤツと戦い放題じゃねぇかっ!」


 そう言って、少年のように目を輝かせたのだ。


「武力は禁止だぞ」


 リィたんがオベイルを指差し、忠告するように言う。


「そんなの交渉次第だろうが」


 拳を突きだしてオベイルが反論すると、リィたんはワインボトルを投げつけたのだ。

 オベイルがそれを受け取り、リィたんを見る。


「飲み比べで勝てば交渉のテーブルにつかせてやる」

「上等だっ」


 そんな二人の後ろでは、イヅナが顎を揉みながら店内を見渡していた。


「なるほど、ボンも面白い場所を作ったな」


 その後ろから入って来るドゥムガ。


「そんなところでボーっと突っ立ってんじゃねぇよジジ――げっ!? イヅナじゃねぇか!?」


 続々と店に入って来るミケラルドの知人、友人。

 竜騎士団所属の剣聖レミリア、リーガル国とミナジリ共和国のギルドマスターディック、リーガル大使のアンドリュー、二日目のクマなどなど。来る人来る人がその異様な空間に驚き、理解する。


 ――ミナジリ共和国の元首がまた変な空間を作った、と。


【スナックしぎゅん】の店主は、アホ毛をかき上げながら小さく呟く。


「こんなの……聞いてなわよ……」


 その日、【スナックしぎゅん】では夜遅くまで多くの者が交流を持ち、交友を深めたのだった。

次回:「◆その846 スナックしぎゅん5」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓連載中です↓

『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。

『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~14巻(完結)・コミック1~9巻が発売中です↓
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』
神薬【悠久の雫】を飲んで不老となったアズリーとポチのドタバタコメディ!

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
[良い点] 2日目のクマって(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ