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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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◆その834 対話5

「っ!」


 割れんばかりの勢いで、カウンターにグラスを叩き置くシギュン。


「ふふふふ、どこからいらしたんですかー? お仕事は何をされてるんですー? 連日いらっしゃるなんてずいっぶんお暇なんですねー」

「はははは、実はこの店の天井裏に住んでるんですよ。怪しい視線感じたら私だと思ってください。女狐の顔を歪ませる仕事をしてるんですけど、これが中々楽しくてー」

「ふふふふ、鼻の下がカウンターにくっつきそうですよ、元首? そのまま地中に埋まって欲しいんですけど、そういった芸は(たしな)まれませんの?」

「はははは、地泳ならお手の物なんですけど、せっかくママのために造ったお店を壊すのはちょっとどうかと思いまして。あ、そのコスチュームいいですね。今後はそれでいきます?」

「ふふふふ、私に一兵卒の(しゃく)をさせようものなら、一杯につき全給料持ってこさせるのね」

「はははは、その日は皆に一ヶ月分のボーナスでも出しちゃおうかなぁー」


 つまみの皮肉とそのお返し。

 応酬(おうしゅう)は凄まじく、リィたんもジェイルも目を丸くさせている程だ。

 二人の言い合いの中、乱雑に出てくるトマトジュース。


「ふん!」


 カウンターに置かれたトマトジュースは一瞬で消え失せる。

 グラスは既にミケラルドの手の中。


「てい!」


 一気にグラスを空けるミケラルドが叫ぶ。


「おかわり!」

「ふん!」


 再びカツンと置かれるトマトジュース。

 ミケラルドはまたそれを一気に呑み、ニヤリと笑う。


「良い感じに慣れたじゃないですか」

「……昨晩あれだけ注文されればそうなるわ」


 呆れ交じり、怒り交じりにシギュンがミケラルドを(にら)む。


「じゃあ明日からオープンって事で」


 (ふところ)からペンと紙を取り出し、シギュンに見せつけるようにわざとらしくメモするミケラルド。


「……何しに来たのよ?」

「抜き打ちの実務テスト兼、友人の救出に」


 当然ながら、その友人とはジェイルとリィたんの事だった。


「意外に打たれ弱いのね、この二人」

「そんな事ないですよ。でも、私の弱点が彼らなように、彼らの弱点もまた私というだけですよ。それを知ってて性格の悪い女がいましてね。ちょっとお(きゅう)でもすえてやろうかと思いまして」

「何? 私にどんな屈辱的な事をさせようって訳?」

「夜はこのお店で働いてもらうつもりなんですけど……お昼はどうしようかと考えてまして」

「はぁ? どれだけこき使うつもりよ?」

「いやいや、闇ギルドと聖騎士団副団長の二足のわらじを履いていたシギュンさんからしたらかなり楽でしょう。店の準備は他の子を

 雇ってるので、基本はカウンター越しに接客中心に働いてください」

「最悪な男ね」

「お褒めに与り光栄です。という訳で、明日から私の執務室に来てください」

「は?」


 あんぐりと口を開けるシギュンの前で、ミケラルドが【闇空間】の中から一着の服を取り出す。


「はい!」


 掲げられたのは――、


「明日からシギュンさんのお昼の仕事は私の秘書(、、、、)です」


 黒い生地に白いストライプのスーツ。


「スカートかパンツか迷ったんですけど、どちらも二着ずつ用意しましたから。気分によって変えていいですよ。これはオプションの眼鏡です。(ふち)なしと黒縁の二つ用意しました。」

「ちょ、ちょっと!」

「はい?」

「……本気?」

「聖騎士団で副団長としてオルグさんを支え続けていた実務能力を放っておくと? (とき)の番人の中である意味一番手強く、天性の才能、カリスマを持ったあなたを私が放っておくと?」


 昨晩、(しぎゅん)を見せつけられた以上に顔をヒクつかせるシギュン。


「まぁ、ほとんどはナタリーの受け売りなんですけどね」

「は?」

「三人は話してたから気付いてなかったかもしれませんが、先程ナタリーはここを出てすぐに私を見つけ出しまして。もう凄かったんですよ、真っ直ぐこっちに来るんですもん。心眼でも持ってるのかってくらい迷いなく『ミック』って声掛けてきまして……ナタリー、何て言ったと思います?」


 流石のシギュンも、ナタリーのその行動は読めなかったのか、口を噤んでしまった。


「『あの才能をお店で眠らせておくのは惜しい』って言ったんですよ」

「……あ、あの子が元首の傍にいる事を提案したって事っ?」

「私の承認より、先にロレッソに承認を貰うくらいには本気みたいですよ。あ、ロレッソも明日会いたいって言ってましたから、明日が最終面接みたいな感じで。問題なければそのまま働いてもらいますから」


 すると、ミケラルドの背後からそれを案じる声があがった。


「本気か、ミック?」

「多分、リィたんが心配するような事にはならないと思うよ」

「ふむ……ナタリーがそう判断したのなら問題ないと思うが……むぅ……」


 腕を組んだまま俯いたリィたん。

 その隣に立つジェイルもまた唸っている。


「むぅ……職場が一緒になるのか……」

「ジェイルさん、軍部には関わらせませんよ。ミナジリ城の中で見かける事はあると思いますけどね」

「しかし、何故ナタリーは?」

「ん~相性の問題じゃないですかね?」

「どういう事だ?」

「さっきのお話の雰囲気からして、この人と二人は合わないみたい。ナタリーはそれをすぐに理解したみたいですね。だから職場を放しつつも実務能力を発揮出来るポジションを考えたんでしょうね」

「ナタリーがミックの隣を許す……か」

「はい?」

「いや、何でもない。ナタリーが言うならそういう事なのだろう」


 二人の会話が終えると、蚊帳の外状態になっていたシギュンが苛立ちを見せながら言う。


「ちょっとちょっと、勝手に話を進めないでくれるっ?」


 そう言うも、ミケラルドはくすりと笑うばかり。


「そう言われても……決めたのは私じゃありませんし」

「あなた元首でしょうっ?」

「たとえ元首でも顎で使って見せるのがナタリーなんですよ」


 そう言って肩を(すく)めたミケラルドに、シギュンは額を抱えて嘆く。


「こんなの、オリハルコンの牢のがまだマシじゃない……」

次回:執筆中

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