表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

836/917

◆その833 対話4

 ジェイルはカウンターの席に腰掛け、リィたんが壁に寄りかかる。対し、シギュンは笑みを絶やす事なく飲み物を作っていた。


「さっき」


 最初に口を開いたのはジェイルだった。


「何?」

「我々を『面白い関係』だと言ったな? どういう意味だ?」


 その質問と同時、シギュンはジェイルの前にグラスを差し出して言った。


「言葉通りよ。さっきの子、ナタリーはミケラルドの事が余程心配なのね。ご褒美の件が本題っぽく言ってたけど、あれはナタリーなりの私への面接……でしょう?」


 そう言って、シギュンはリィたんに向かってグラスを投げた。

 ふわりと浮かぶように弧を描いたグラスは、中身が一滴も零れる事なくリィたんの手元に届く。

 リィたんはそれを受け取り、一気にグラスを空けた。

 近くのテーブルにカンと置かれたグラス。

 リィたんは豪快に口を拭うと、シギュンの確認のような質問に答えた。


「どのように思おうがお前の勝手だ」

「じゃあ、アナタたちは一体何のためにここまで来たの?」


 微笑(びしょう)を浮かべ、カウンターに肘を突くシギュン。

 すると、ジェイルとリィたんは一瞬だけ視線を交わした。

 そして、その返答を譲り合うかのように視線を外したのだ。


「ふふふ、どうせアナタたちも同じなんでしょう? 確かに、ミケラルド・オード・ミナジリが私をミナジリ共和国に引き入れた。けれど、私が彼に害を加えないとは限らない……アナタたちも私を見極めに来たのよ。彼の心を守るために」


 そこまで言っても、二人は無言を貫いた。


「凄いわね、私がミナジリ国民を害するなんて一切考えてない。アナタたち三人(、、)は、最優先で彼の無事を心から願っている。国民なんて二の次、三の次ってところね」


 すると、ジェイルがこれに反応した。


「ミックは元首だ。一代でミナジリ共和国をここまで築き上げた傑人を失う訳にはいかない。そう考えるのが普通だと思うが?」

魔族(リザードマン)のアナタが普通を語るの? でも残念ね、事はそう単純じゃないの」

「何?」

「万が一、ミケラルドの命が消え去った時、アナタたちはどうなるのかしらね?」


 瞬間、ジェイルの憤怒によってグラスが割れ、リィたんの魔力によって窓ガラスが割れた。

 ミケラルドの命に関わる事を言い放ったシギュンへの殺意。店の中にそれが充満するも、当の本人は涼し気な顔をしている。


「安心してよ、私が彼を傷つける事はないから」


 そう言うも、二人の怒りが収まる気配はない。


「勿論、ちょっとした意地悪くらいならしちゃうかもしれないけど」


 また微笑みを浮かべると、シギュンは更に続けた。


「問題なのはアナタたちって事」


 この発言に、リィたんがピクリと反応する。


「何だと?」

「さっきの続きだけど、アナタたち……ミケラルドを欠いた後どうなるのかしら?」

「……それはどういう意味だ?」

「アナタたちを繋げているのはミケラルドだという事、それすらも理解出来ないのかしら、最近の龍族は?」

「くっ……!」

「もしミケラルドがこの世から消えたら、アナタたちが一緒にいる姿が思い浮かばないのよ、私」


 シギュンがそう言い切ると、ジェイルとリィたんは再び視線を合わせた。しかし、先程同様それは長く続かなかった。それも、互いが互いの視線から逃れるように外したのだ。

 それを見たシギュンが妖しい笑みを見せる。


「ミケラルドが大事、ミケラルドが大事なんて思ってても、どうせアナタたちは今の関係が心地いいからそのぬるま湯に浸かってるいるだけ。本当に心から彼を案じているのかしら? その心の中に打算があったりするんじゃないの? 私の居場所を壊さないで欲しいって」


 その発言に、すかさずジェイルが立ち上がる。

 腰元の剣の柄に手を置き、今にも引き抜きそうな形相である。


「あら? アナタそんなに短気だったの? それじゃミケラルドに愛想つかされるのも早いわね」

「貴様……やはりここで殺しておくか」

「いいわよ? でも、ミケラルドが私をここに引き入れた事を忘れないでちょうだい? 彼が次に会うのが私の首だった時、アナタはどんな風に落胆されるのかしらね?」

「くっ!」


 シギュンの言葉は、まるで楔かのようにジェイルの動きを封じた。そんなジェイルの事など気にする事なく、シギュンは最初の話へと戻った。


「私が面白い関係だって言ったのはそういう事。アナタたち、とても(いびつ)ね。ミケラルドの心を守りつつ、自分の居場所を守り、今にも千切れ落ちそうな吊り橋の上にいるみたい」


 そう言い切ったところで、シギュンはグラスの酒を全て空けた。


「おかわりはいらないでしょう?」


 ニコリと笑ったシギュンの言葉を受け、ジェイルが扉を開けた。同時に、荒く鳴り響くドアベル。しかし、ジェイルは店を後にしなかった。その場で立ち止まってしまったのだ。

 シギュンが小首を傾げていると、ジェイルは見えない圧力に押されるかのように後退して店の中に戻ってきたのだ。


「……ミック」


 扉の外にいたのは、


「どうも、ジェイルさん。性悪女います?」


 ニコニコしながら店に入るミケラルドを横目に、シギュンが呆れた様子で肩を(すく)めてみせた。

 ジェイルは目を丸くさせながら、同じく目を丸くさせているリィたんの隣へ移動し、当のミケラルドは軽やかにカウンターの席に腰掛けた。


「ママ、トマトジュースちょうだい。あ、つまみに笑える皮肉でも一つお願い」


 ナタリーが去り、ジェイルとリィたんを壁際に追いやり、最後にはミケラルドとの対話が始まるシギュンだった。

次回:「◆その834 対話5」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓連載中です↓

『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。

『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~14巻(完結)・コミック1~9巻が発売中です↓
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』
神薬【悠久の雫】を飲んで不老となったアズリーとポチのドタバタコメディ!

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ