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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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◆その832 対話3

「エレノアって【魔女ラティーファ】の事だよね……?」


 ナタリーが聞くと、シギュンは「そうよ」とだけ言ってまた口に酒を運んだ。そして、困惑するナタリーをよそに話を続けたのだ。


「私にはわからないけど、エレノアは何かを知っていたみたい。四肢欠損すらなかった事にする伝説の回復魔法天使の囁き(エンジェリックヒール)。現聖女アリスですら成し得ない未知の魔法……まぁ、アナタの血を得てミケラルドも使えるみたいだけど」

「……何が言いたいの?」

「別に? (とき)の番人の暗殺リスト上位にアナタがいる理由を教えてるだけよ」

「……そう」

「でもね、アナタの才能はそれだけじゃない」

「え?」

「世界最強の実力者ミケラルド・オード・ミナジリの手綱を握り、それに付き従う実力者たちの統率を行えてしまう事実。エレノアがどうかはわからないけど、私は(むし)ろそっちの分野に突出した才能を恐れたわ。世が世なら、軍師として名を残したでしょうね」


 そう言ったところで、ナタリーは空けたグラスをカンとカウンターに置いた。ナタリーの苛立ちを拾ったシギュンはくすりと笑った。


「そうね、今日はそんな話をしに来たんじゃないわよね。それで? アナタがわざわざこんなところにまで足を運んだ理由は何?」

「風の噂で聞いたんだけど」

「それは怖い風ね」

「ご褒美って……何?」


 それを聞いた直後、シギュンは目を丸くさせ固まった。

 そして数拍の間の後、シギュンは大きく噴き出したのだ。


「ぷっ、あははははっ! 何? そんなくだらない事でこんなところまで来たの?」


 目の端に涙を浮かべ、シギュンは笑いながらそれを指で拭った。


「い、いいから答えて……っ」

「アナタにとってそんなに重要な事?」

「何よりも」


 意外な事に、ナタリーの断言はまたシギュンの口を噤ませた。目を見開くシギュンだったが、ここで店の異変を感じ取る。


(……何かいるわね?)


 天井を見、裏口側を見、そして窓の外を見る。

 それを知ってか知らずか、ナタリーは答えを催促した。


「答えて」


 すると、シギュンは諦めたようにまた肩を(すく)めた。


「別に、ここの元首と約束しただけよ。そっちに協力する見返りに私からご褒美をあげるってね」

「それは何?」

「私がミナジリ共和国に来てあげた。それがアイツにとってはご褒美でしょう?」


 ニコリと笑ったシギュンの答えを聞き、ナタリーは少しだけ困った様子を浮かべ、少しだけ唸り、少しだけ中空を見つめた後、少しだけ溜め息を吐いた。


「はぁ……確かにそうかもしれない」

「ふふふ、でしょ?」

「……じゃあ、これからミナジリ共和国でやっていくって訳?」

「どうかしら? 隠れ家としては何の効力もないけれど、住み心地はいいわ」

「…………さっきこの店の仕様書に目を通したんだけど」

「何?」

「すんごくお金かかってるんだよね」

「あら、それは大変ね」

()(かく)、ここでお店するにしても色々手続きがあるから、後で私のところまで来て」

「店の手続き如きで軍のトップに会いに行く訳? 面白い国ね」

「ロレッソが話をしたがってるから」

「そう、この国の宰相は随分優秀みたいね。私を殺しに来ないなんて」

「いざという時の戦力としてあてにしてるからでしょ」

「言う事をきくとでも?」

「私にはわからないけど――」


 シギュンがぴくりと反応する。

 ソレが先程まで自分が使ってた言葉だったからなのか、それとも、ナタリーの表情が推測や推察というより確信に近かったからなのか。


「――多分シギュンは、なんだかんだ言ってもミックの側には付いてくれると思う」


 ほんの少し、ほんの少しだけ微笑みを見せたナタリーに、シギュンは言葉を失う。そんな自分に気付いたのか、シギュンはすんと鼻息を吸ってから言った。


「……味方になるとでも?」

「味方じゃない」

「は?」

ミックの側(、、、、、)って言ったでしょ」

「……ふん、生意気なハーフエルフね」

「別に私やジェイルさん、リィたんの味方じゃなくてもいい。でも、ミックだけは裏切らないで」


 そう言うと、ナタリーはカウンターの席から飛び降りて扉に手をかけた。

 鳴り響くドアベルと、ナタリーの言葉。


「夕方には大方の仕事は片付いてると思うから、その時ミナジリ城まで来て。それと、ミルクご馳走様」


 パタンと閉められる扉と、また鳴り響くドアベル。

 渋い表情をしたシギュンが、ナタリーの空けたグラスを見る。


「ほんと、生意気なハーフエルフだこと。料金とっておけばよかったわ――」


 空いたグラスを片付け、新たに二つのグラスを用意するシギュン。


「――ねぇ、二人共(、、、)?」


 店に響いた声に反応し、裏口の扉と、天井の板が外される。

 裏口から堂々と入って来たのは――、


「あら、久しぶりね。蜂蜜酒(ミード)……でいいかしら?」

「お前の血でもよかったんだがな」

水龍(、、)ってそんなに野蛮だったの?」

「ふん」


 そして、天井裏から降りて来たのは――、


「あなたも私の血をご所望?」

「首でもよかったんだがな」

「まぁ、逞しいリザードマンね」

「ふん」


 そう、ナタリーの後にしぎゅんに入って来たのは、リィたんとジェイルだったのだ。


「面白い関係ね、あなたたち」


 そんなシギュンの意味深な言葉と共に、新たな対話が始まるのだった。

次回:「◆その833 対話4」

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