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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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830/917

その827 牧狐犬ワンリル

2022/3/11 本日、二話目の投稿です。ご注意ください。

 我々(俺一人)は、ご褒美の未受領という重大な過失をしらばっくれようとしているシギュンに対し、言いようのない怒りを覚え、すぐにシギュン捜索隊を組んだ。

 別の【魔導艇】を作成している俺の分裂体を呼び、その数は一個中隊(にひゃくにん)程の規模にまでなっていた。

 それを見ながら震えあがる暗部たち。


「こんなにいたら、もう私たち必要ないでしょう?」


 ミック隊を指差しながら呆れるカンザス。


「いなくとも我々を置いてくださる慈悲に感謝するべきでしょう」


 相変わらずノエルは物分かりがいい。


「ふん、あれを化け物と言わず何を化け物と言えばいいんじゃ」


 サブロウには今後「ジジイ」とか言っても許されそうだ。


「それで、ありゃ何だい?」


 ナガレが注目するミック隊の中心。


「じゃあフェンリル(ワンリル)、自己紹介」

「わ、我が名は……牧狐犬(ぼっこけん)フェンリル(ワンリル)!」


 少々恥ずかしそうだが、ワンリル仕様のオリハルコン甲冑も相まって、中々恐ろしい風貌になってしまった。

 ホネスティがやや引き気味であるが、確かに、Z区分(ゼットくぶん)であるフェンリルがオリハルコンで身を纏うと最早(もはや)災害かなんかじゃないかと思ってしまう。


「ひひひ、これならシギュンも簡単に捕まえられるねぇ」


 メディックの言葉は(もっと)もである。

 そもそも、シギュンの実力はイヅナに匹敵するレベルだ。

 エレノア(ラティーファ)、魔人を除けば(とき)の番人の中で最強の実力者。いや、本気になったシギュンはもしかしたらジェイルや魔人に迫るかもしれない。

 リィたんをして「底が見えない」と言わしめた女だ、これくらいの保険は必要だろう。


「ではこれより法王国に突入する!」


 俺の声に、ミック隊が「おー!」と反応するも、暗部の一人からは疑問の声があがる。


「滅ぼしに行く、の間違いだろう?」

「何か言ったかね、パーシバル君?」

「べ、別に……」


 あの子、本当に破壊魔(はかいま)とか呼ばれてた人だろうか?


「ミック隊はくまなく町を探索、俺はホーリーキャッスルの頂上から魔力の波動を読み取る。フェンリル(ワンリル)は郊外を頼む!」

「はっ! 必ずやご期待に沿えるよう尽力致しますっ!」

「うむ!」


 そう皆で意気込んだ直後の事だった。

 俺の魔力アンテナさんがミナジリ国境付近に異変を感じ取った。


「ちょい待ち」

「は?」

「ん~? 速いな……」


 そう言いながら俺はミナジリの外壁へ上った。

 ワンリル、暗部の連中も気になったようで様子を見に来たようだ。

 俺が外壁の上に到着して間もなく、リィたんが隣に着地した。


「ミック、この魔力は?」

「いや、首根っこ捕まえる予定だったんだけどさ」

「ん?」

「何か自分から来てるみたい……」

「っ! もしや――」

「――よっと」


 俺は外壁から飛び降り、門番の前に降り立った。

 こうでもしないと、門番が失神しかねないからな。

 自分の存在をアピールするように、魔力を隠す事なく国境方面に歩いて行く。

 リィたんは気付いたようで外壁に留まったが、暗部の連中はワンリルに乗って付いて来ている。ミーハー部隊とか呼ぼうかしら。

 そんなくだらない事を考えていたら、相手も俺の存在に気付いたのか、真っ直ぐこちらへ向かって来た。


「むっ……あれは」


 サブロウが遠目に走る存在を見つける。


「「シギュン(、、、、)かっ!!」」


 そう、最初に見つけた時は何とも判断が出来なかったが、近付くにつれてそれがシギュンだとわかった。

 まさか自らミナジリ共和国までやってくるとは思わなかった。俺が苦笑しながら頭をぽりぽり掻いていたら、牧狐犬が動いた。……動いてしまった。


「貴様がシギュンか! 此処(ここ)で会ったが百年目!!」


 指示したのさっきだけどな。


「何? 喧嘩売る気?」


 そんな事を考えていたら、シギュンが警戒度を上げた。

 暗部の中でワンリルの速度を捉えられるのは辛うじてナガレ一人。しかし、それはあくまで通常時の話。本気になったワンリルを捕えられる者はそうはいない。

 何故なら、ワンリルの速度は前代炎龍以上雷龍(シュリ)未満なのだから。速度だけで言えばリィたんに匹敵する。

 そのワンリルがシギュンに飛び掛かるのだ。

 俺としてはやってしまった感が強い……のだが。


「くっ!」


 おぉ、反応して見せた。

 初撃の勢い凄まじく、衝撃とともに暗部の皆はワンリルから離れる。シギュンはこれをかわし、着地と同時に神聖騎士の秘技【光の羽衣】を発動。


「いきなりフェンリルを仕掛けるとか、正気?」

「最近、訓練ばかりでストレス溜まってるみたいなんですよ。ちょっと付き合ってあげてください」

「武器もなしに?」


 すると、ノエルがシギュンに向かって何かを投げた。


「あら、相変わらず気が利くわね」


 大地に突き刺さった訓練用の剣。

 刃は潰してあるもののミスリル製だ。

 オリハルコンの甲冑には分が悪いものの、殺し合いをする訳じゃないしな。

 シギュンはすぐさま剣を手に、すっと腰を落とした。


「ふっ」


 疾風の如き突きはワンリルの動きを正確に捉える。


「むんっ!」


 ワンリルがその突きを咥えて受けた。

 やはりワンリル優勢か……と思いきや。


「はっ!」

「マジか」


 シギュンは強引にその剣を引き剥がしたのだ。

 追撃を恐れたワンリルは後方に跳び、上下左右に跳びながらシギュンを狙う。


「ガァアア!」


 ワンリルの爪撃はシギュンの紙一重の動きにかわされるも、その攻撃が止む事はない。


「化け物! 酒じゃ!」

「いいじゃないか、面白い余興だね」


 サブロウ爺ちゃんとナガレ婆ちゃんが既に宴会モードな件について。

 そう思いながらも、俺は秘蔵の酒を【闇空間】から取り出すのだった。

次回:「◆その828 しぎゅん1」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作中の爺婆とはかなり違いますが、自分の周りのじいちゃんばあちゃん達って、(何が楽しいのか)よく分からないことや些細なことまでも余興みたいに楽しんでたな…と思い出しました。 その後の終わらな…
[一言] シギュン強いんだ(゜_゜;) 色仕掛けだけの人かと思ってました。
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