表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

823/917

◆その820 絶対的制裁8

2022/3/4 本日一話目の投稿です。ご注意ください。

「はっ……はっ……はっ……!」


 大地がどろりと溶け、眼前に突如現れた大渓谷は、魔導砲の威力を物語る。ゲバンは自身に向けられた殺意を目の当たりにし、激しい動悸に襲われていた。

 灼熱の陽炎が未だ残る中、腰が抜け、憔悴しきっているゲバンの様子をニコニコと眺めるミケラルド。


『リィたん、ありがとう。かなりどぎついデモンストレーションだったけど、これで【魔導艇】の存在は世界に知れ渡っただろうね』

『あ、あぁ……そうか。うむ』


 リィたんも、未だあまりのショックから解放されていない様子。ミケラルドはこれに苦笑し、ポリポリと頬を掻く。


『ははは……とりあえず【魔導艇】はそのまま待機。後は俺が……』

『わかった。しかし、本当にいいのか?』

『……うん、仕方ないからね』

『そうか、ミックが決めた事ならば仕方ない……ただ、ミックらしくもないがな』

『やっぱりそう思う?』

『ふっ、私の戯れ言だ。そもそも私はミックの案に賛成だしな』

『でも、俺がやると違う……と?』

『そういう事だ』


 リィたんとの【テレパシー】を終え、ミケラルドが徐々に降下して行く。

 大地に降り立ったミケラルドの着地音が、ゲバンを現実へと押し戻した。コツコツと靴音が響き渡る。

 魔導砲の余韻はそれ程大きく、現在この戦場で動いているのはミケラルドだけだった。

 ミケラルドの接近が、ゲバンの顔を凍らせていく。

 真後ろまでやって来たミケラルドは、そこで立ち止まる。


「……っ!」


 バッと振り返るゲバン。

 腰を落とし、身体には過剰とも言える魔力を覆っている。


「ふっ……ふっ……み、認めん。俺は認めんぞ……!」

「あぁ、そうですか」


 言いながら、ミケラルドは腕を払う。

 直後、強烈な突風と共に、ゲバンの魔力が吹き飛ばされる。


「な……くっ!」


 再び魔力を纏うゲバン。

 しかし、ミケラルドは何度も何度もそれを払い、消し飛ばしてしまう。

 ゲバンは攻撃すら許されず、防御すら許されず、遂には立つ事すら許されない状況まで追い込まれてしまった。


「はぁはぁはぁ……」


 法王クルスと同等に近い魔力を保有していようとも、その魔力には限界がある。ミケラルドによって何度も吹き飛ばされた魔力が戻る事はない。俯き、肩で息をするゲバンに、ミケラルドが声を掛ける。


「そろそろよろしいでしょうか?」

「な、何っ!?」


 顔を上げたゲバンの視界に映ったモノ――それは、ミケラルドが愛用しているオリハルコンの打刀(うちがたな)だった。

 氷の如き青白い発光をする凶器を前に、ゲバンの肩が震える。


「お、俺を殺す気かっ!?」

「はぁ?」


 呆れた様子で言うミケラルド。


「ミナジリ共和国に牙を向けておいて何もされないと思ったんですか?」


 これが、リィたんが「らしくない」と言ったミケラルドの決断。そう、ミケラルドはゲバンという男の人生を終わらせるつもりなのだ。

 イヅナ、エメリー、アリスはかつて感じた事のないミケラルドの殺意に大きな動揺を見せている。


(それでいいのか、ボン……?)

(ミケラルドさん……本当に怒ってる。ううん、ゲバン様はそれだけの事をした。多分……ミケラルドさんは法王陛下やアイビス様には出来ない事を代わりに……)


 イヅナ、エメリーの思いをよそに、ミケラルドがまた一歩ゲバンに近付く。


「お、おおお俺は! 法王国第一王子――」

「――それは免罪符(めんざいふ)になり得ません」

「次期法王となる俺が――」

「――クルス殿が錯乱したとしても許可しないでしょうね。(むし)ろ、これだけの大事(だいじ)を引き起こしておいて、まだなれると思っているんですか? どれだけ頭の中お花畑なんです?」

「くっ……カァアアアアアッ!!」


 遂にゲバンは腰元の剣に手を付けた。

 イヅナですら驚く程の抜刀速度。

 しかし――、


「んなっ!?」


 それでもミケラルドは動かなかった。

 ゲバンの剣は斬れず突けず、ただミケラルドの皮膚で止まってしまう。


「くっくそ……!」


 ゲバンは何度も、


「何故斬れんっ!」


 何度も、


「クソ、クソッ!」


 何度もミケラルドに剣を振るった。


「今ご自分が何をされてるかご存知です? 他国の領地で他国の元首に手をあげてるんですよ?」


 ミケラルドが諭すように言うと、ゲバンはハッとした表情でピタリと止まる。振り返ると、法王国軍から集まる冷たい視線。歯をギリと鳴らし、またミケラルドを睨む。


「刃が通らない事はわかりましたね? 魔力もありませんね? ではもういい加減醜態を晒すのはやめたらいかがでしょう?」

「醜態……だと!?」

「クルス殿なら……まぁ、クルス殿ならそもそもこんな事しませんけど。これだけの悪行の証拠、明確な殺意。あのね、普通なら潔く首を差し出すんです」

「お、俺に首を差し出せだと!?」

「仮にも軍の将軍だったんですよね? ケジメの取り方ってものがあるでしょう」

「黙れっ!」


 激昂するゲバンとは対照的に、ミケラルドは冷静沈着だった。同時に、これまで見せた事もないような冷たい瞳になっていた。


「これが最後の忠告です。頭を()れ、首を前に」

「黙れ黙れ黙れぇぁああああああああっっ!!」


 ゲバンは再びミケラルドに斬りかかった。

 しかし、ミケラルドもされるがままではない。

 斬られる前に、ゲバンの右頬に強烈な拳を放ったのだ。


「ぐはっ!?」


 水面を跳ねる石の如く吹き飛ばされるゲバン。


「利き手だったら死んでましたよ」


 ピクピクと痙攣(けいれん)するゲバンに向かい、ミケラルドがまた歩を進める。

 打刀(うちがたな)をすらりと構え、法王国軍、全世界に見えるように振舞った。

 心を殺し、ゲバンを殺す。

 それがミケラルドに出来る最善だった。

 しかし、それを()としない者がいた。


「っ!」


 倒れるゲバンとミケラルドの間に立った者、それは――、


「……何のつもりですか、アリス(、、、)さん」

次回:「◆その821 立ちはだかる聖女」


本日二話投稿予定です。(現在1/2話)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓連載中です↓

『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。

『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~14巻(完結)・コミック1~9巻が発売中です↓
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』
神薬【悠久の雫】を飲んで不老となったアズリーとポチのドタバタコメディ!

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ