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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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821/917

◆その818 絶対的制裁6

2022/3/3 本日一話目の投稿です。ご注意ください。

「ふはははは! 世界の空は私の空ぁあああ~!」


 海の次は空。

 キャプテンリィたんは、【魔導艇ミナジリ】の上甲板上の檣楼(しょうろう)内――艦橋(ブリッジ)にある指揮官席にて足を組み、今か今かと目を輝かせている。

 隣でリィたんのテンションに付いていけない雷龍(シュリ)が呆れながら溜め息を吐いている。


「……まったく、困ったヤツだ」


 雷龍(シュリ)がそう零した後、ミケラルドのわざとらしい声が【テレフォン】越しに聞こえる。


『ゲバンが攻撃魔法を使用したぞ! 総員戦闘態勢!!』


 予定調和、打ち合わせ済みのミケラルドの声を聞き、リィたんの目が光り立ち上がる。


「野郎共! 準備はいいかっ!?」

「「アイマムッ!!」」


 暗部たちの声が揃う。

 普段こそ乗り気ではないものの、今回はそうではない。

 暗部の人間は全て元闇人(やみうど)

 元とはいえ、【(とき)の番人】の二人を奴隷としたゲバンに対し、公然と報復出来るのは彼らにとっても願ってもない事だった。

 当然、彼らに横の繋がりや仲間意識はない。

 しかし、それでも彼らにも闇の頂点の一人だったというプライドがあるのだ。


「アタシら(とき)の番人に喧嘩売った事を後悔させてやるよ!」


 ナガレがふんぞり返って中央の席に腰掛けている。


「おいババア! そこはワシの席じゃろが!」


 サブロウがナガレに向かって匕首を放つ。

 しかし、ナガレはそれを軽々と掴み、粉々にしてしまう。


「五月蠅いジジイだね! こういうのは早いもん勝ちなんだよっ!」


 二人の言い合いに呆れるカンザスが、肩を(すく)める。


「どっちも五月蠅いですよ。はい、魔導砲充電開始っと」


 無数に配置されたスイッチと計器。

 徐々に溜まっていく魔力をノエルが読み上げる。


「自然吸魔(きゅうま)至って良好。急速チャージ願います」


 ノエルが振り返ると、そこでは、パーシバル、メディック、ホネスティが巨大な【魔力タンクちゃん】に向けて魔力を放っていた。


「くそ、何で僕がこんな事を……!」

「ヒヒヒヒ、いつもの威勢はどうしたパーシバル」

「ふっ……こんなもの、ナタリー様の訓練に比べれば大した事はないでしょう」


 三人の魔力放出により、計器の針が大きく動く。


「急速チャージ開始、魔力タンクちゃんフルパワーまで残り三十パーセント」


 ノエルの声が【テレフォン】を伝いミケラルドへ届く。


「対象エネミー、ゲバン・ライズ・バーリントン! 砲撃用意!」

「「アイマム!」」


【魔導艇ミナジリ】の砲門がゲバンに向けられている頃。

 それを見たゲバンがギョッとして慌てふためく。


「ち、違うっ! 俺はそんなつもりじゃ――」

「――そんなつもりも何も、明確な敵対行動にはそれ相応の対応というものがあります……砲撃準備!」


 ミケラルドが淡々と言ってから手を挙げた。

 すると、ミケラルドの行動が本気であると理解したゲバンが、私兵を置き去りにして法王国軍の下へ一気に後退したのだ。


(あ、法王国軍側(あっち)まで行けばミケラルドも攻撃をしてこられないはず……!)


 逃げ惑うゲバンの認識は間違いではなかった。

 事実、ミケラルドの馴染み深いライゼン聖騎士団長、副団長のクリス王女、騎士団所属のストラッグ、騎士団長のアルゴスに向けてミケラルドが攻撃を加える事は出来ない。

 ゲバンが法王国軍の人垣に入ってしまえば、【魔導艇ミナジリ】の攻撃も中止せざるを得ない。

 しかし、これこそがミケラルドの真の狙いだったのだ。


『リィたん、しっかり狙ってね』

『うむ、任せておけ!』


 魔導砲のトリガーを握るリィたんは、ペロリと舌を出しながら片目を瞑ってゲバンの進行方向に照準を合わせる。

 次の瞬間、リィたんが皆に言う。


「全員、耐衝撃体勢!」

「「アイマムッ!」」

「さぁ、【魔導艇ミナジリ】のお披露目だ……! 魔導砲……発射っ!!」


 リィたんがトリガーを引く。

 すると、魔導砲門から太陽と見紛う程の閃光が……ミナジリ、リーガル国境線を縫うように走った。

 直後、轟音と共に白い炎が空へ上った。

 それは一瞬にして燃え上がり、大地を溶かした。

 ゲバンは目の前で起きた衝撃と共に尻もちを突き、ただ白炎(はくえん)の地獄を見上げていた。


「あ……あぁ……」


 魔導砲の威力を目の当たりにし、法王国軍のみならず、ミナジリ陣営にまでその影響が出ていた。

 目をぱちくりさせるリィたんと雷龍(シュリ)

 冷や汗をかき、喉を鳴らすジェイル。

「うっそ……」と零すナタリー。

 ナタリーの陰に隠れるドゥムガ。

 武器を落とし、腰を抜かすレミリア。

 あんぐりと口を開ける暗部たち。

 そして、【魔導艇ミナジリ】の製作者ミケラルドはというと――、


「…………地獄かな?」


 そう言いながら首を傾げたのだった。

 白炎がやがて赤みを帯びた色へと変わる。

 しかしそれでもまだ、皆は動揺から抜け出せなかった。

 炎が落ち着き、艦橋(ブリッジ)から飛び出してきた暗部たちが甲板から地上を見下ろす。

 破壊魔(はかいま)と称されたパーシバルが震える声を漏らす。


「な……何あれ……?」


 皆の視線の先にあったモノ、ゲバンと法王国軍を隔てるモノ。

 ミケラルドは零す。


「やっべ、ブライアン殿に怒られちゃうかも……」


 そこには、漆黒の奈落を映す、巨大な渓谷が出来ていたのだった。

次回:「◆その819 絶対的制裁7」


※本日二話投稿予定です(1/2話)

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― 新着の感想 ―
[一言] これだけの武力。何と戦うつもりなんでしょう?(*´∀`)♪ これでも、勝てないのかもしれない。
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