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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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812/917

◆その809 ちょっとそこまで

「き、来たぞっ!」


【エアリアルフェザー】で空を飛んで来た破壊魔(はかいま)パーシバルが、リーガル・ミナジリ国境にある関所に向かって言った。

 同じく空を飛んでいた魔帝グラムスが、目を細める。


「おー、来やがった来やがったっ!」

「師匠! なーに呑気な事言ってるんですかっ! 戦争になるかもしれないすよ!」

「脅しに国を亡ぼすとか言ってたチキンが何吠えるとるんじゃ」

「ちょ、今それとこれは関係ないでしょうっ!」

「かっかっかっかっ!」


 空で言い合いをする二人に呆れるミケラルド。

 関所の高い外壁から行軍する騎士や聖騎士を見下ろす。

 隣に立っているジェイルがその後方にすっと目をやる。


「……来たのか、イヅナ(、、、)


 かつて共にミナジリ共和国を守った剣神イヅナが、法王国側に付いている。それを知ったジェイルは複雑そうな顔をミケラルドに向ける。


「あー、やっぱり。オベイルさんは炎龍(ロイス)のお(もり)かー」


 ポリポリと頭を掻くミケラルド。

 ジェイルの隣では、オリハルコンの装具に身を固めた竜騎士、剣聖レミリアが固唾を呑んでいた。

 それを横目で見ていたミケラルドがくすりと笑う。


「大丈夫ですよ、イヅナさんも戦争が本意という訳ではないでしょうし。それに、ほら」


 ミケラルドが指差す先には、ぶすっとした様子の聖女アリスがいた。

 イヅナとエメリーは世間話でもしているのか、まるでアリスの事を気に掛けていない。

 それを見たレミリアがミケラルドに言う。


「いつも思うのですが、アリスさんはミケラルドさんの事が嫌いなのでしょうか?」


 小首を傾げるレミリアにミケラルドが苦笑し、ナタリーが小さく笑う。笑いを堪えながらナタリーがレミリアの手を引く。


「ちょ、ちょっとレミリア」

「はい?」


 レミリアが耳を貸す。


「あのね、もしかしたら今日アリスちゃんの気持ちがわかるかもしれないよ」

「……ふむ、ナタリーさんにはその確信があるのですか?」

「女の勘ってところね」

「なるほど」


 納得に追い込まれてしまったレミリア。

 そんな二人を苦笑しながら見ているミケラルドは、外壁の(へり)に立つ二つ存在が気になったのか、(うかが)うように聞く。


「あの、お二人とも? ちょっと威嚇が過ぎるんじゃないかな?」

「ふん、龍族がいるミナジリ共和国に軍として足を踏み入れるとはな」


 仏頂面の雷龍(シュリ)


「いや、誘い受けみたいな作戦だしね、今回は」

「だとしても、だ」


 雷龍(シュリ)の呆れた様子に、リィたんも続く。


「人間とはつくづく愚かだな」

「ははは、誰だって何にもないところで躓いちゃう事もあるんだよ」

「そういうものか。やはり、元人間なだけあってミックは詳しいな」


 感心するリィたんに苦笑するミケラルド。

 そんな中、ジェイルが動いた。外壁から飛び降り、関所前で仁王立ちするドゥムガと合流したのだ。


「お、おぅ! 何だジェイル! 行くのか!?」

「あぁ、ちょっとそこまで(、、、、、、、、)な」


 まるで散歩に向かうように言ったジェイルに、ドゥムガがポカンと口を開ける。

 そこへ、竜騎士団副団長のレミリアも降りてくる。


「何だドゥムガ、怖気づいたか?」

「う、うるせぇレミリア! 俺様がいつビビったっつーんだよ!」

「そうか」

「な、何だよてめぇ!」


 レミリアの言葉につっかかるも、ドゥムガはその意図までは読めなかった。


「私は怖いぞ」

「……は?」

「我らの行動如何(いかん)では、戦争となってしまうのだからな」

「…………は、ははははっ! 何だよ、やっぱりお前も(、、、)ビビってたんじゃねぇかっ!」

「そうか、やはりお前もか」

「ち、ちっげーし! おい、聞いてんのか、違うんだからなっ!!」


 ジェイルの隣まで歩いたレミリアを、ドゥムガが焦りながら追いかける。そんな二人にくすりと笑ったジェイル。


「あぁ? 何笑ってんだよ、ジェイル!」

「いや、恐れを飼いならせるようになれば、それは一流の証だ」

「はっ! ご高説ありがとよっ! そんじゃてめぇは一流だってか? あぁ!?」


 怒りの矛先をジェイルに向けるドゥムガだったが、それを止めたのは当の本人ではなく、レミリアだった。

 最初こそその意味はわからないドゥムガだったが、目を瞑って集中するジェイルを見てようやく気付く。


(ジェイルの野郎……震えてやがる……?)


 そう、ジェイルの身体は確かに震えていた。

 先程まで軽口を言っていた強者の言葉ではなかった。


「お、おい……ゲバンの野郎がそんなに怖いってのかよ……?」


 ドゥムガの言葉はすぐに一蹴される。


「違う」

「じゃ、じゃあ一体何だよ……?」

「これから起こる事が……怖いのだ」


 それ以上の事は、流石のドゥムガも聞けなかった。

 ドゥムガは固唾を呑んでから外壁で談笑するミケラルドを見上げた。

 雷龍(シュリ)、リィたんが何か動こうとする訳でもない。フェンリル(ワンリル)や暗部など、連れて来てすらいない。

 ジェイルが「すぅ」と小さく息を吸う。


「……行くぞ」


 開眼と共にそう言ったジェイルが歩き始め、その両隣にレミリア、ドゥムガが続く、

 ミナジリ、リーガルの国境前には、法王国のゲバンとその私兵。護衛としてイヅナ、更にはアリスやエメリーが顔を連ねた。

 緊張が広がる中、ジェイルが聞く。


「これより先はミナジリ共和国だ。法王国、ましてや軍部の越境など認められるものではない。どのような用件でここまでやって来た?」


 その問いがゲバンの耳に届く中、一人だけ小首を傾げる存在がいた。聖女アリスである。


(……あれ? ジェイルさん、レミリアさん、ドゥムガさんの肩に付いてるあれって……【ビジョン】じゃ?)


 両国の軍部が顔を突き合わせる瞬間でさえ、ミケラルドはジャーナリズムに徹するのだった。まるでリプトゥア国との戦争の再来。全世界に生中継されるソレを見てアリスは確信した。


(どうしよう、帰りたい……)

次回:「◆その810 どうしてそこまで」

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