その80 ミケラルドの本質
◇◆◇ リィたんの場合 ◆◇◆
ようやくミックの下へ帰って来られた。
まさか罰ゲームが地龍の仲介とは、本当にミックが考える事は訳がわからない。
それに、ミックから離れるとこんなにも不安になるとは思わなかった。ミックを看取るのが私の使命でありミックの願い。ミックから離れている間、「いつミックが死んでしまうか」と不安で気が気じゃなかった。
地龍捜索の期限は設けられていなかったが、一度戻るという選択は、やはり間違いではなかった。何と心が安らかになる事か。
そしてミックの話は全てが楽しい。まるで今までの生活が無そのものだと思えるように、世界を照らしてくれる。水龍リバイアタンとして魔族にすら恐れられた私が、そんな事を考えてしまう程なのだ。
いや、違うな。
ミックといると楽しいのだ。
なるほど、これは大きな発見だ。楽しい龍生を送るために、私も今後、より一層励まなければならないな。
「おぉ! ミックの天寿のために私は頑張るぞ!」
む、ミックよ。何故口を押さえて顔を背けるのだ?
まるで泣いていたかのように目を拭いていたが、気のせいだな。ミックは何も無く泣く事はない。強い男なのだから。
「私の?」
次なる作戦のため、私の過去を知りたいなどと。一体ミックは何を考えているのだ?
「出来れば、魔王の時代の話が聞きたいなーなんて」
あんな恐ろしい時代の話が聞きたいなど、ミックのヤツ、正気なのか?
私も多くの同族を無くした悲劇とも呼べる時代。そんな時代の話なぞ、何故ミックは知りたがる?
「回りくどいのは嫌いだ。どんな魔法だ?」
「転移魔法」
転移魔法の使用者が知りたい? 一体何故?
「……魔王は使えた。そして会った事はないが、古の賢者が使えた」
これが、ミックの知りたかった……事?
「他には? 使える存在はいなかった?」
「何? 一体どういう事――――いや、待て。確か霊龍も使えたな?」
「おー、あのリィたんより上位の存在か。それで、霊龍はどの魔法を使えるの?」
「……霊龍を倒すという訳ではないようだな」
「倒さないよ。それに、体液もなさそうだしね」
「はぁ、光魔法と闇魔法だ。こんなので一体何をしたいというんだ、お前は?」
瞬間、ミックの表情は一変した。
「――っ!」
その笑みは、まるで魔族。いや、悪魔的とも言える。私は未だかつて、コレほど恐ろしい笑みを見た事がない。龍族の笑みとも、魔族とも違う。人間? いや、それはない。
ダメだ。このミックはダメだ。
このミックとは一緒にいても楽しくない。それを、私の全てが訴えかけている。
っ! そうだ、思い出した。これは――
「……ミック?」
――これは、あの魔王のような笑み。
「ん? あぁ、いいね。ありがとう。どうしたのリィたん?」
もしかして見間違いだろうか? そう思える程の一瞬の笑み。
しかし、私は確かに見た。いつものミックに戻ったとは思うが、先程のアレは一体何だったのだ?
「い、いや、無事ならいいんだ」
「無事? まぁいいや。これで転移魔法に関する情報はかなり集まったな」
「どういう事だ? 教えても全然わからないぞ」
ミックは「教えてくれたらわかるさ」なんて言ってたけど、やはり私にはわからない。
ミックには、私に見えていない事が見えているというのか。それこそ正に魔王の思慮のような深淵を。
「何で? 少なくとも転移魔法が光魔法か闇魔法、もしくはその二つの複合魔法だって事はわかったじゃん」
これは、もしや霊龍が使える魔法を特定する事で、転移魔法の属性がわかる――、
「っ! そうか、魔法の分類か!」
「そういう事。欲しい魔法がある場合、俺なら血を吸えばいいかもしれないけど、その対象が明らかに強者だったり、既に存在しない存在だったりしたら、絶対に得られない。けど、その考察は出来る。本当は一つに絞りたかったけど、二つでも十分収獲さ。ちょっと手伝ってよ、リィたん」
なるほど、ミックが目指していたのは転移魔法の発動。
かつてない挑戦とも言える。あの神話の時代を生きたのは、それこそその神話に恥じない高位の存在ばかり。他者には思いもつかない場所を目指し歩く姿は……もしかすると魔王以上なのではないか? いや、そう思ってしまうだけの向上心がミックにはある。
やはり、ミックといると……楽しい!
「さぁミック! さっさと行くぞ! 新たなる境地が私を待っている! さぁ! さぁ!」
◇◆◇ ◆◇◆
ミックと共にマッキリーの町の外に出ると、ミックは土塊操作の魔法を使って私に丁寧に転移魔法の考察を説明してくれた。
「――という訳で、個人的には移動そのものを光魔法。消失と出現を闇魔法が行ってると思うんだ」
凄いな、既にそこまで考えていたのか。
ふふふ、流石はミックだ。
「つまり、それは転移であって転移でないという事か?」
「そういう事。闇空間の中を光の速度で移動し、別の闇空間から出る。つまり、これは超スピードでの移動って事だな」
「しかし、それでは闇空間という魔法自体必要ないのではないか?」
「いや、これは絶対必要だ」
「何故?」
「障害物にぶつかった場合、自分が死ぬ」
「何故? 私なら、たとえ山にぶつかったとしても死なないぞ?」
「いやいや、リィたんは光の速度を知らないから言えるんだよ。たとえリィたんでも光の速さで山にぶつかったら死んじゃうよ」
……それはつまり、既に龍族を殺しうる力をミックが持っているという事なのではないか?
いや、いくらミックといえど、まだまだ私の方が……いや? 内包する魔力が最後に会った時と比べて飛躍的に伸びているのではないか? もしかして私に近い……?
………………まだまだではないな。まだ、私の方が強い。
ミックは一体何をした? 私と会わない間に一体何をしていたのだ?
「では、それほど速いのであれば、身体が耐えられないのではないか?」
「良い質問ですよ! リィたん!」
「む、そうか!」
ふふふふ、やはりまだまだミックは私が傍にいないとダメだな。
良い調子で天寿に向かっているな、ミック。
2019/6/11 本日二話目の投稿です。ご注意ください。




