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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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807/917

◆その804 映像チェック

 ミケラルドが今回の【ビジョン】の撮れ高を確認していると、取材に来ていたクロードが神妙な面持ちでその隣に立った。


「どうです、中々良い表情じゃありません?」


 ミケラルドが聞くも、クロードの目が捉えるのは暗部に制されたクインだけ。

 その様子を見てミケラルドが首を傾げていると、クロードは肩口に背負っていた護身用の弓を取った。


「ちょ、ちょっとクロードさんっ!?」


 慌ててミケラルドが止めに入るも、クロードの動きの方が一瞬だけ早かった。その射撃は真っ直ぐクインの手元に向かい、大地に楔を打ち込んだ。


「くっ……!」


 クインが顔を歪ませる。

 クロードの射撃技術にカンザスが小さく口笛を鳴らす。

 ミケラルドはクロードを押さえながら、自身の浅慮に後悔していた。


(確かに自分の分裂体はともかく、エメラの分裂体が殺されるところをクロードに見せたのは失敗だった。つーかクロードってこんなに凄かったのか……! ランクBの実力はあるんじゃないか? あ、そういえば以前ナタリーからクロード

 はワイバーンから家族を守ったとか聞いたような……?)


 ミケラルド制止に頭が冷えたのか、クロードはハッとした様子で我に返った。


「……すみません、もう大丈夫です」

「いえ、こちらこそ配慮が足らず申し訳ありません」


 ミケラルドが言うと、クロードは弓を背に持ち直し、クインに近付いた。

 そして、クインの傷に対し回復魔法を放ったのだ。


「はっ、自分で傷つけておいて回復とは忙しい奴だな!」


 クインが煽るように叫ぶも、クロードはその言葉など意に介さぬ様子で(きびす)を返した。

 そして、ミケラルドの下に戻ると、先程の言葉通り映像のチェックを始めたのだ。


「……えぇ、悪くないと思います」

「じゃあ後はオリヴィエ殿次第ってところですか」

「そうですね、世論を動かせば法王国は動かざるを得ません。ミナジリ共和国もこれをきっかけに大きく動けるでしょう」


 クロードの言葉はミナジリ共和国の前進を意味していた。

 ミケラルドはくすりと笑ってクロードに向かって拳を差し出した。クロードも苦笑しながらそれを返しコツンとぶつけ合う。


「ミケラルド! 貴様! 一体何を考えているっ!?」


 クインの言葉はミケラルドに届かない。


「すみません、ここからはちょっと見せられないので」


 そこまで言うと、クロードは小さく頷いた後、闇に消えて行った。その背中が見えなくなるまで見守っていたミケラルド。

 足音すら聞こえなくなった時、ミケラルドがクインに向き直る。


「さてクインさん、色々聞きたい事があるんですが……」

「誰が答えるものか!」

「まぁ答えてもらわなくても結構なんですけど、自我が残っている間に一つだけ聞きたかったんですよね」

「は? 自我……?」


 直後、暗部の面々の顔に緊張が走る。

 ミケラルドが放つ静かな魔力だけが、いつの間にか周囲を取り巻いていた。重力の如く()し掛かる重厚な魔力は、クインの身に、脳に大きな影響を与えた。

 ミケラルドに怨恨を持つ敵対者クイン。聖騎士として闇人(やみうど)として修羅場に立ったのは数知れず。どのような苦境も超えて来た。しかし、それでもクインはその状況に抗う事は出来なかった。


「あぁ……あぁああああああああっ?」


 小さな悲鳴はやがて大きくなり、


「あぁあああああああああああっっ!?!?」


 悲鳴は絶叫へと変わる。

 そして、身体はそれ以上に反応を示した。


「ぬっ!?」


 サブロウをはじめ暗部全員ですら御し切れない膂力。

 暗部の皆は何とか押さえつけようとするも、ミケラルドが手をぴっぴと振って言った。


「あぁ、放していいですよ。奴隷契約で火事場の馬鹿力を出してるだけですから。その内、身体が耐えられなくなるだけですし」


 ミケラルドに言われた通りに暗部の皆がクインの身体から離れる。しかし、それと同時にミケラルドがクインの身体を抑え込んだのだ。

 パーシバルはポカンと口を開けたままそれを見る。


(……マジかよ、魔力圧だけでこのクソ筋肉ダルマ押さえつけてるのか……!?)


 直後、鈍い音が辺りに響き渡る。

 骨が折れ、肉が裂けるような背筋が凍るような鈍い音。


「あぁあああああああああああああ……!」


 クインの顔に苦痛はない。

 ただその恐怖から逃れようと暴れるだけである。

 だが、どれだけ足搔こうとも、ミケラルドの魔力の檻から逃れる事は出来なかった。


「どうして()えて泥船(どろぶね)なんかを選んだんですか?」

「嫌! 嫌だぁああああああああああああっ!!」


 ミケラルドの質問はクインの絶叫に掻き消され、闇に生きた暗部でさえも息を呑む光景。

 肩を竦めて困った表情をするミケラルドがノエルを見る。

 引き攣った笑みしか返せないノエルに、ミケラルドが微笑み返す。


「ひっ」


 ノエルの小さな悲鳴もクインの絶叫に掻き消される。


「あ、あっ、あぁあああっ!?」


 ブチブチという音が響き、遂にはクインの腕が限界を迎える。おかしな方向に曲がった肘から乱雑に折れた骨が突きだす。


「うぇ……」


 パーシバルの顔が歪むも、ミケラルドは表情を変えぬままクインに近付いた。

 肘から垂れる血を指で(すく)い、嬉しそうに呟く。


「手間が省けていいですね」


 残虐な性格であるナガレでさえも喉を鳴らす異常な空間。


「さぁ、今日から忙しくなりますよ」


 この日を境に、ミナジリ共和国は戦争の準備へと移るのだった。

次回:「その805 証拠収集」

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