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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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その798 試作型

「遂に……遂に出来たぞっ!」


 見上げる巨大な船。

 初期のシェンドの町を覆ってしまうような広大な面積、外装は全てオリハルコン、船内の重要カ所はオリハルコンで覆い、中身はミスリル。かつてドマークに売った水龍像が羽虫かのようなサイズの違いに、俺は感慨深く思い鼻の下を指で擦った。


「うぅ……俺は、長く苦しい戦いに勝ったんだ……!」


 誰が見てる訳でもない。

 しかし、俺は目頭を覆ってそんな事を零した。


「何で分裂体がシギュンの裸体を見ながら楽しくお喋りしてるのに、本体(おれ)はこんなところでチマチマ手作業しなきゃならなかったのか……! くそ! ルークめ! 羨ましい!」


 と、早速オリハルコンの装甲チェックのため、外装に当たり散らす俺。


「くっそかてぇじゃねぇか! 何だよこれ!? 世界でも亡ぼすのかよ!?」


 と、試作型(プロトタイプ)なれど、余りの出来のよさに感動を露わにしていると、船渠(ドック)の出入り口からノック音が届いた。


『ミックー、来たよー!』


 おっと、そうだった。

 今日の午前中には完成するだろうからって、ナジリの仲間を呼んでいたのだった。

 俺は小走りに出入口へ向かい、ナタリー、ジェイル、リィたんの三人を迎え入れた。

 すると、三人は俺を見て微笑むのも束の間、その背後に映る巨大な蒼き船を見てポカンと口を開いた。

 船渠(ドック)の段階で気付いていいのだが、実際に見るのでは訳が違うからな。


「……うわぁ」

「これが……」

「【魔導艇ミナジリ】か……」


 凄い、デカイ、説明不要。みたいな注釈が付きそうな三人の言葉だった。

 俺はそんな三人にくすりと笑ってから迎え入れる。


「まぁ入ってよ」


 三人は開いた口をそのままに、果てしなく続くような船体を見ている。

 とぼとぼと歩く三人に歩調を合わせていると、徐々にリィたんの歩幅が広がっていった。

 それに合わせ、ナタリー、ジェイルも早歩きとなる。

 遂には子供のように走り出したリィたん。

 それからはナタリーが俺の肩にライドオンしてジェイルと共に並走した。


「凄い! 凄いぞミック!」


 駆けながら嬉々としてそう言ったリィたん。

 だが、意図して言っていないような。まるで無意識に感情が零れたような、そんな言い方だった。

 だってリィたん、全然こっちを見てくれないんだもの。

 俺は肩車するナタリーと見合い、くすっと笑い合いながらリィたんを追った。

 そして町内一周という名の船渠(ドック)一周が終わると、リィたんは上を指差した。


「ミック! 入っていいかっ!?」


 辞書でリィたんって引くと「好奇心の塊」って出てきそうだな。逆に好奇心って引けば「リィたん」ってルビでも振られてそうだ。

 目を輝かせるリィたんに苦笑しつつ、俺は、船体中央の傍に寄る。そして、ほんの少し魔力を通すと、船体から船渠(ドック)に続く階段がカコンとおりてきた。

 いつものリィたんなら、そのまま甲板に跳び乗ってしまいそうだが、階段が出て来ると目の色が変わった。

 まるでそれが作法だと言わんばかりにその階段を駆け上がったのだ。俺はナタリーを肩からおろすと、その後に続いた。後ろから見れば、ナタリーの足も弾んでおり、ジェイルも興奮気味に尻尾を振っていた。

 あの尾撃が顔にぶつかれば、一般人は死ぬかもしれない。

 甲板に上がると、眼前に見えるのが巨大な農園ドーム。

 中には土が敷かれ、マジックスクロールによって太陽光を調整出来る仕組みになっている。

 ここで区画ごとに必要な作物を育てれば、魔導艇一隻だけで自給自足が可能となる。当然、海水を【ウォーター】に変換する仕掛けもあるし、俺やアリスが手を加えれば【聖水】に変換する事も出来る。

 魚は獲り放題なところがあるから、今後は家畜を入れればミナジリの産業はそれだけで安定に向かうだろう。


「凄い……でもこれ、どうやって管理するの……?」


 ナタリーの質問は(もっと)もである。


「今、ロレッソに頼んで、試乗を求める人を公募してる。そもそも、ミナジリ共和国は物珍しさで集まってる人も多いからすぐに見つかるだろうって」

「あー……確かに」


 すると次にジェイルが、


「ミック、厨房が見たい」

「どっちのです?」

「どっち……?」

「大食堂にもあるし、住居スペースにも小さいながらありますよ」


 そこまで言うと、ジェイルは嬉しそうに断言した。


「どっちもだ」


 断言とは何なのか、それを求め俺は海へ出るのかもしれない。

 どっちつかずなジェイルに口頭で説明し、ジェイルが場を離れる。既にリィたんはあちこち見て回ってる。

 まぁ、乗船許可を出したらリィたんはそうなるよな。そう思い、俺はナタリーと一緒に船内を見て回った。

 と言っても、予め見取り図は渡していたので、ナタリーに案内など必要なかった。短期間であの見取り図を全て覚えるなんて普通の人には出来ないと思う。

 やはり、ナタリーは俺と似て身体的スペックが非常に高い。

 これはやはりハーフエルフとしての特性なのだろうか。

 広めのワンルーム、家族用の大部屋、貴族用のゲストルームなど、住居スペースを案内。娯楽スペースや関係者以外立ち入り禁止の軍事スペースなど、船を案内するだけで一日がかりだったが、皆ホクホク顔で喜んでくれた。

 下船すると、リィたんが肉薄してきた。


「ミック、出航はいつだっ!?」


 それは、当然想定されていた質問だった。

 俺はくすりと笑って言う。


「明日だよ」

次回:「その799 出航」

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