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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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◆その797 暗躍

 ◇◆◇ ゲバン私邸 ◆◇◆


 ゲバンの前に控えるのは、シギュンを拷問していた私兵の一人。そして、ひと際大柄な女。元聖騎士のクインが立っていた。


シギュン(やつ)の様子はどうだ?」


 ゲバンの質問に私兵の男が答える。


「はっ、三日三晩攻め続けたところでようやく泣いて許しを乞いました」


 下卑た笑みを漏らす男の話を聞き、ゲバンもニヤリと笑う。


「そうか、そろそろ行動を起こす。いつでも動けるように待機させておけ」


 言った後、私兵がかしこまって執務室を出て行く。

 するとゲバンはクインに視線を移した。

 口を横に一本結び、静かに目を閉じるクインにゲバンが聞く。


「あれ程執着していたシギュンについて何も言わぬのだな」


 そんな質問にすっと目を開けたクインが答える。


あれ(、、)はもう我が上司ではない。ならばそんな縁も切れるというものだ」

「ほぉ?」


 興味深そうに笑うゲバン。


「エレノアからの伝言を無視し、あまつさえ敵に情報を渡す者――それ(すなわ)ち我が敵だ」

「なるほど、あれ程好いていた者を見限るのだ、それだけ敵が憎いと見える」


 それを聞き、クインの目の色が変わる。

 一瞬にして執務室を覆う殺意と魔力。

 その密度はゲバンですら息を呑む程だった。


「ミケラルドを殺せるなら何でもしよう! たとえこの身が朽ちようともな! 新たに手に入れたこの力を使い、奴の一族郎党殺しつくしてやる……!」


 燃えるような怒気にニヤリと笑い、ゲバンは葉巻に火を付ける。


「わかっている、お前にはミナジリ共和国へ行ってもらう」


 その言葉を聞き、クインがニタリと笑う。


「誰を殺す?」

「エメラ、クロード、そしてナタリーだ」

「……エメラとクロードはわかるが、何故あの娘を? 無論殺すが」

「あの小娘程厄介な存在はいない。軍部を預かり、あまつさえ十三という年齢でそれを掌握できる稀有な能力の持ち主だ。クルスも奴の能力には感心していた位だしな」


 そう言われ、クインが得心した様子で言う。


「なるほど」

「だが、それゆえに奴の才能を見極めたミケラルドとの繋がりは強い。ミケラルドを追い詰めるのであれば、その三人はリィたん、ジェイルなんかより重要だ」


 ゲバンの言葉を聞き、クインがニタリと笑う。


「いいな、すぐにやろう」

「あそこは魔窟のようなものだ、功を急いでしくじるなよ」

「誰に物を言っている?」


 そう言って、クインが部屋を出て行く。

 目を丸くしたゲバンがすんと鼻息を吐く。

 すると、影の中から魔族奴隷を扱う男【ジュリサス】が現れた。

 ジュリサスがくすりと笑って言う。


「面白い女の子ね、一瞬どっち主人だったか忘れちゃったわ」


 ウィンクして言うジュリサス。


「奴隷契約でも全てを縛れる訳ではないのだな」

「自我を崩壊させるのは無理よ。やったら最後、その奴隷は使い物にならなくなるわ。あの子はあの子で主人に対す反意に線引きしてる。だから契約の楔も反応しないのよ。怖いのはシギュンちゃんの方ね」

「何故だ?」

「堂々とその線を踏み越える胆力がある。良く言って勇猛、悪く言えば無謀なんだけど、あれを続けると、徐々に奴隷の心がすり減ってくのよ。自分の中で奴隷契約との折り合いを見つけて上手くやるのが利口なんだけど、シギュンちゃんはそれもしそうにないみたいだし……長くは持たないかもしれないわね」


 ジュリサスの説明を受け、ゲバンは吸っていた葉巻の火を灰皿に押し付けた。そして荒い鼻息を吐いて言ったのだ。


「ふん、ならばそれまでにクルスを殺し、決着を付けるだけよ。どうせ、この件が片付いたら処分するつもりだったしな」

「ふふふ、可哀想なシギュンちゃん」

「しかしジュリサス、お前もわからん男だな」

「えー、そうかしら? ちゃんと報酬の話はしたでしょ?」

「ただの道楽のために奴隷契約の術を売ってるのがわからんだけだ」

「強い存在を屈服させるのが好きなだけよ。この前のシギュンちゃんみたいにね。ふふふ、思い出しただけでゾクゾクしちゃう……」


 舌をペロリと出し、自身の肩を抱くジュリサス。

 そのまま視線をゲバンにやり、ジュリサスは声を落として言った。


「報酬の件、忘れないでね」

「無論、俺が法王になった時に報酬はくれてやる」

「もし破った時は貴方がどうなっても知らないから」

「ふん、契約は守る主義だ」

「そう、じゃあ夜も遅いしもう寝るわー。寝不足はお肌に悪いからね」


 ジュリサスが扉に手をかけると共にその動きがピタリと止まる。


(ふふ……イケナイ子)


 ゲバンが「どうした?」と聞くも、ジュリサスは笑顔で振り返った。


「何でもないわー。じゃ、そっちも早目におねんねしなさい」


 そう言って扉から出て行くと、ゲバンは再び葉巻を取り出し火をつけたのだった。


「ふっ、さて……いよいよ大詰めだな」


 ◇◆◇ ◆◇◆


 ジュリサスがゲバンの執務室を出た直後、別の部屋に駆け込む少女の姿。そしてそれは、ジュリサスが動きを止めた原因でもあった。

 震える肩を抱き、自室の扉にもたれるようにしゃがみ込む少女――オリヴィエ。

 そう、オリヴィエは全てを聞いてしまったのだ。

 ゲバンの叛意を。

 溢れる涙を拭う事も出来ず、オリヴィエはただただ震える。


「……一体どうしたら……」


次回:「その798 試作型」

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